2


早く終わってしまった店の帰り、求人がないか斡旋所に立ち寄ってみた。
事情を説明すると斡旋所の職員は「仕方ないね」と少しだけ笑った。
バイト先だった店がいつか潰れるのは予想されていた、それも当然だったが、ちょっと悔しかった。
履歴書に略歴やら特技やらを幾つか書きこんで渡すと、幾つかの店を紹介された。
その資料を貰い斡旋所を出たものの、やはりどこの店も給金が安いと感じてしまうのは金銭感覚が麻痺しているからだ。

これまた電気の活躍で簡単になった印刷の資料を眺めようと、適当な木の柵に腰を当てた。
昼間だけれど人通りが少ない道筋を選んだ。
一人で考えたかったからだ。

元のバイト先と似たような茶屋もあるが、何だか嫌だった。
望む給金を出してくれる所もあるが、それは公安の部署でチャクラコントロールを仕事とする殆ど専門職だった。
私はチャクラコントロールなどという難しい技術は全く持っていない。
子供の頃にチャクラのテストを受けたが、才能は皆無だった。
チャクラも一般人並み、コントロールなど出来ようもなかった。
幸せを逃がす溜め息をまたついた。
上手くチャクラを扱えるなら高給取りになれるが、そうでなければ大多数の一般人としてそれなりの生活を営んでいく。
最近はチャクラコントロールが必須とされていた上位の官僚への道も開け、それなりの生活の上限は増えたが、それには素晴らしく優秀な頭脳が求められる。
差別というか区別というか、そういった社会的な価値観は根強い。
出来る、出来ないはあるのだから仕方がない。
しかもチャクラの利用には血の滲む鍛錬が必要なのだから納得はしているつもりだ。

資料に一通り目を通して仕舞おうとした時、風が一陣吹き抜けた。
それは紙の資料を一枚吹きとばし、手元から奪い去った。

「やだ」

他の資料を仕舞い、飛ばされた一枚を追いかけた。
それは不思議な事に狭い路地に勢いよく吸い込まれ、他に幾つかのゴミを吸い込んでいる。

「こら、待て私の資料」

路地に入ると途端に風は止み、資料は上に舞った。
捕らえようとすると、紙を捕まえる直前に手袋をした手が捕まえた。

「あっ」

オレンジの蕾のような、螺旋を描いた妙な仮面を付けた人物が捕まえてくれた。

「ハイ! どうぞお嬢さん」

元気よく捕まえた紙を渡してくれたその人物は黒い服を着ていた、厚着をする季節でもないのに。

「有難うございます。助かりました」

資料を受け取ると、その人物は更に続けた。

「お仕事探してるんですか?」

「え? あ。そうなんですよ、急にバイト先が無くなっちゃって」

今会ったばかりの人にこんな事を言うなんて、少し躊躇ったが、喋った所でこれ以上悪い方に転がりはしないだろうと高を括った。

よくよく見ると、妙な仮面は更に妙で右目しか穴が空いていない。
その右目を芯にするように螺旋が描かれている。
どうして片方しか穴を空けていないのか気になったが、それを聞くのは止めた。
厚着と思ったのも、黒地のコートに赤い雲が描かれているもので見た目ほど厚くないかもしれない。
このコート、見覚えがある。
何度も茶屋に来ていた常連が着ていたコートと同じものだ。
それだけの事に親近感を覚えた。

「もし良かったら知り合いがバイト募集してるんで、聞いてみませんか?」

「そうなんですか?」

こんな怪しい話があるもんか。
風に吹かれて逃げた紙を捕まえてくれた人物がバイトを紹介してくれるなんて、都合が良過ぎるにも程がある。
しかも、それが中々の好条件だなんて。

[back] | [next]
-home-
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -