2p(これはノーマルですか? いいえ、違います)
濡れた髪に手をやり、ファラッドは考えた。
今日は酒を飲んでくるべきではなかった、と。
隣で運転をしているカロルはやけに鋭い目つきをしている。
バックミラーに映る後続車が気に入らないらしい。
職業柄、背後につかれるのはファラッドも嫌いだった。
「つけられちゃいないだろ?」
ただ方向が似ている、それだけだ。
「それでも困るんだ」
どうやら、カロルは今の状況を良く思っていないようだ。
それもそうだ。
時刻は深夜、方向は郊外、車内は男二人、運転しているのはカロル。
良いことといえば、二人の人相が親しみやすいものではなく、例え検問があったとしてもカロルの手帳一つで通過させてくれることだ。
片目の男と、首元に傷がある男では目立ち過ぎるのだが、カロルの手帳にはそれを忘れさせられるだけの効果があった。
「それで、本当にお前の部屋に俺は行かなきゃならんのか?」
その必要がないことをファラッドは分かっていた。
なぜなら、カロルの部屋はとうに通り過ぎている。
ファラッドが知らないカロルの部屋があるのなら別だが、カロルがファラッドを部屋へ誘う意味がない。
「いや、部屋じゃなく家だ。
俺のじゃなく、俺のじゃなく……」
「誰のだ?」
車のハンドルを握りつぶす勢いのカロル。
一体何が彼にそうさせるのか、ファラッドは彼の上司を疑った。
そして最後に自分の上司を疑った。
「演習場の家なんだ」
カロルが何故それほどに悩むのか、ファラッドには理解できなかった。
演習場の家というのは住むための家ではない。
むしろ破壊するための家だ。
屋内にいる相手へ突撃をする時の練習などに使用するための家だ。
目的の為、新たに外壁だけの家を建てたりもするが、安く売られている家を買い取る場合もある。
住居としての機能はもう必要がない、そんな場所に何故カロルはファラッドを連れて行くのか。
ファラッドには嫌な予想があった。
それは彼の上司の所為だった。
[back] | [next]