ザビー教の末路


「はっ!?我は…一体何を???」

日輪の申し子こと毛利元就が意識を取り戻せば、周囲にはいけすかない南蛮人達が倒れたり瞠目して固まっている姿があった。
目の前に逞しい肉体を誇る白髪の眼帯男がいた。
どうやら元就の身体を支えていたらしい。
白髪の男からさっさと離れれば、もう少し傍にいたかったというような表情を見せた男の顔を見詰めた。

「気ィ付いたか?世間知らずの田舎モンがよォ!」

口にはしなかったが、元就自身に気持ち悪いと思われるくらいのにやけ顔で白髪の男…長曽我部元親は元就に話し掛けてきた。

「!…四国の鬼が何故いる?」

驚きもさながらに、侮蔑を含んだ瞳で軽く見上げて問い掛けた。

「じゃァ、中国の毛利がどォして九州くんだりにいるンだァ?」

クククッと喉鳴らして笑いながら、元親は嬉しそうに元就に問い掛け返した。



「それは愛ユエにデース」

ゴゴゴゴッと爆音を響かせ、対峙するように向かい合っていた二人の間へと降り立ったのは、ザビー教の教主ザビー当人である。

「…貴様か…我を愚弄にせしめた元凶は…」

そう言って輪刀を戦闘体勢に構えた元就の瞳は、絶対零度の冷たさを放ちザビーを捉えた。

「…こえェ…」

思わず声を漏らす元親は見てしまった。
元就の身体から、光ではなく闇の陽炎が立つのを。

「オオ?どーしマーシタ?タクティシャン?サンデー毛利??」

「我が名は毛利元就!!日輪の申し子也!!」

その言葉とは裏腹に、織田信長の妹お市の如き黒いオーラが見える。
元親はそれとなく視線をあさっての方向に向けて、毛利頑張れと応援していた。

「我が愚行、子々孫々まで語り継ぐ事は如何ようにも赦すまじ!!ここで滅せよ!!!」

「アーナータ!もう一度洗礼しなーいとー!ダメダーメネ!!」

「貴様の失策は、我を愚弄した事よ…鬼!見事盤上を動いてみせよ!!」

完全に観賞する体勢で、背後から殴りかかってくるザビー教の宣教師を裏拳でのしながら、目を見張った。

「はッ!?俺がなンで」

「能書きはよい!参るぞ!!」

周りを取り囲む雑魚を蹴散らすように、元就の輪刀が華麗に宙を舞う。

「まッ、いいだろ!頼まれちゃァ、嫌とは言えない性分でね!」

ニッと口の端を持ち上げて、人好きの良さそうな笑みを零せば、碇を模した武器を軽々と振り上げて、走り出した。

「我は頼んでなどおらぬ!」

「へェへェ!照れちゃってェ!」

いつも通りの軽口を叩き合い、余裕といった風情で破顔しながら、敵を叩きのめしていく。

「無駄口を叩くでない!如何なる手を使っても構わぬ。敵をこの世からもあの世にも存在出来ぬよう、殲滅せよ!!」







………地獄絵図………





「ふん。他愛もない。息をする程に易い信仰潰滅よ」

死屍累々となった部屋から出つつ、さらりと元就は言ってのけた。

「てめェの技で、味方同士の殺し合いだったからなァ…」

しかも最後は、操ってた人間全員に切腹を命じるという…。
元親は悪寒を感じずにはいられなかったらしく、ぶるりと大きな体躯を震わせた。

「褒めても何も出ぬぞ」

ふっと小さく笑って元就は、長い廊下をカツカツと歩いた。

「褒めてねェよ!!」

横に並んで歩こうと軽く大股で追い掛けながらツッコんだ。

「まぁ、今回の件を知る者として消えてもらう予定だったが、特別に免じてやろう」

横に並ばれるのは癪に障ったらしく、輪刀をスッと元親に繰り出しながら言った。
元親はギリギリの所で避けて、斜め後ろを歩くようにしていた。

「げッ!?てめェは鬼か!?」

「鬼とは貴様だろう?長曽我部元親?それとも、その首は胴との別れが望みか?」

「ぇ、遠慮するぜェ…」

スッとまたもや輪刀を向けて不敵に笑う元就に、元親はたじろいで、自分の頭をがしがしとかいた。

「貴様にしては賢明な判断だ。で、最初の質問だが…何故、貴様は此処にいる?」

思わぬ問い掛けに、元親は立ち止まって丸くした目で元就の背中に視線を投げ掛けた。

「…珍しく、しつこくねェ?」

元就は立ち止まり、くるりと振り返った。
割れたステンドグラスから直接射し込む陽光を真横に浴びて、まるで光に融けてしまいそうな元就の姿に見とれる。

「早く言え!我を待たせるな!」

はっ、と気が付けば怒気を滲ませた表情を見せる元就に、元親は笑い声を漏らした。

「…分ァーったよ。そんな恐い顔すンなって…前田の夫婦からおめェの様子がおかしいってンで…乱心したおめェを助けに…だなァ……って、聞いてねェ!?」

いつの間にか、カツカツと軽快な音を響かせて元就は先を歩んでいた。

「厳島に帰る。我を貴様の船に乗せろ」

「おいおい!?待てこるァー!!」

慌てて元就の後を追い掛ければ、迎えてくれた野郎共がアニキー!と威勢のいい声を上げていた。







ふん…
少し嬉しかったではないか…







その船の帰り、彼等は半兵衛が病に倒れた事を知り、急ぎ稲葉山城に向かったのであった。



〜完〜



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