寝込みに襲え!


すまない 秀吉…。



僕は もう…。






「半兵衛殿」

襖を開いた先には、苦しそうな惚けているような表情の竹中半兵衛がいた。
後ろ手で、襖を閉める音が静かな部屋に響いた。

「…幸村君」

しかし、半兵衛は幸村に気付くと、ニッコリと笑って幸村を出迎えた。
いつもなら白く透けるような肌が、熱で上気し朱に染まっている程の状態なのに…

「生きて…。〜〜〜っ! 良かったでござるぅー」

ぶわっと大粒の涙をぼろぼろと流して、幸村はそう泣き叫んだ。

一夜城建設の指導中に、いきなり倒れたと聞き付け、幸村は見舞いに駆け付けたのだ。
一夜城は、半兵衛が眠っている間に完成していた。



そしてここは、稲葉山城の上階の一室。
半兵衛の部下がこの城内には一人もいない事を、果たして幸村は気付いているだろうか。
多分気付いていない、つまり二人きりである事など…。

「幸村君…。何も泣く事は」

「我慢なぞしないでくだされ! 辛いのでござろう? 苦しいのでござろう??」

多少なりとも呆気にとられている半兵衛をよそに、幸村は心配そうに、半兵衛の顔を覗き込んでくる。
子犬のような動きだ。

見ていて飽きないよ。幸村君、キミは。

思わず、クスリと笑いが込み上げた。

「…う、ん。そうとも言えるけど…。君は何か勘違いを」

「なんと! では、ゆっくり養生されよ! 某、何でも手伝うでござるよ!」

聞いてないんだね幸村君…。まぁいい…。何でも…ねぇ?

「…そうかい? じゃあ、我が軍門に」

「無理でござる!」

そこは即答なんだね…。

「それじゃ話が違わないかな? 幸村君?」

「違っても、無理なものは無理でござる。お館様は絶対でござる!」

仕方ないな…。武田諸共引き込むしかないみたいだね。

「僕…病人なのに…」

「そうでござった! でも、それは――っ!!」

一瞬、幸村は何が起きたのか分らなかった。
慌てふためく幸村を、半兵衛は病人とは思えないスピードで引き倒したのである。

「重いよ。それに、病人相手に大胆だね? 幸村君」

この場に今第三者が現れたら、確かにそう見える状況に違いない。
幸村の身体は、布団越しだが半兵衛に覆い被さるように重なっていた。

「ななななな!!」

半兵衛を押し倒した体勢で、完全に狼狽えて硬直し耳まで真っ赤にしている幸村。

「僕も熱が上がってしまいそうだよ。クラクラするね」

半兵衛は、わざと息がかかるように耳元で囁いた。

「ななななな!?」

生暖かいというより熱のせいか熱い半兵衛の吐息に、幸村は更に混乱して、意味のある言葉が口から出ていない。

「僕には時間がないんだ…。だから武田は、我が豊臣の軍門に下りなさい」



「STOOOP!! 俺の幸村に手ぇ出すんじゃねぇ!!! 万年貧血吐血男! 竹中半兵衛!!」

「旦那! 一人で見舞いなんてするって聞いて、俺様急いで飛んできたよ!!」

「なっ! なんだい君達は!?」

「おお!! 政宗殿!? 佐助まで!?」

襖を蹴り倒して突入してきたのは、伊達政宗と片倉小十郎。
窓の木でできた格子を破り、言葉通り飛んできたのは、猿飛佐助である。
部屋のど真ん中にわざと布団を配置していたお陰で、被害は壊された物だけで済んだ。

幸村君…。この状況下で、何を嬉しそうにしてるんだい? 僕は邪魔されて嬉しくないよ。

「Ha! 俺は、奥州筆頭伊達政宗!! 真田幸村の運命の相手(永遠のライバル)だ!!」

「政宗様! この小十郎! 何処までも、お供します!」

「んじゃ、俺様は母親(オカン)っていう事で」

俺を見ろとばかりに自己主張する政宗に、その右腕たる忠犬の小十郎、キラッと星が出そうなウインクをする佐助。

ツッコミ所が多過ぎて、ツッコム気も失せたよ。



「ふん…。策士策におぼれるとは、正にこの事ぞ」

そう言って現れたのは、瀬戸内海コンビ毛利元就と長曽我部元親だった。

いつの間に…。

「君達は?」

くっ! 幸村君が入って来やすいよう、城の警備を甘くし過ぎたか?

「自ら布陣を崩して敵を誘い込む策は認めよう…。しかし! その先を読み、策を二重三重に仕掛けないのであれば、それはただの愚の骨頂ぞ!!」

いや、幸村君が通った後は、兵は増員配備した筈…。それに、八雲も配備していたんだ…。僕の読み通りならこんなにあっさり突破されるなんて有り得ない! そう! 僕の読み間違いは、ただ一つ。まさか、こんなに大勢来るという事だよ…元就君。

心中で涙ながらの言い訳を展開しながら半兵衛は、苦々しく元就と元親に視線を向けた。

「一体、何処から?」

「愚問ぞ! これしき…我は幾度となく乗り越えたわ。貴様程度の知略では、我に敵うまい」

「あーーー? 俺ァ海賊だ! どっからだろーと田舎モンにゃ関係ェねェだろがよ!」

二人共、答えになっているようで答えになってないよ…。

「なッ! 毛利?」

「………」

傍目にも明らかに浮かれ調子の元親は、元就の肩をガシッ抱き寄せるような形で手を置く。
すると、汚らわしい物が触れたとでもいうように、元親の手を払い除けた。
ムッとした表情のまま、元就は口を閉ざしている。

「って! 無視すんなよ!! おいッ!!!」

「ええい! 煩いぞ! 愚劣な! 我の駒ならば、大人しく盤上にいろ!!」

「鬼ヶ島の鬼に指図するたァ! 上等だァ!! おかしな南蛮人から救ってやった恩を仇で返しやがってよォ!!」

その言葉に、ピクリと肩が震えた。
あまりの嫌悪感に、元就の顔が強張っていく。

「ふん…。所詮、我も駒の一つ…。フッフフフ…。今回ばかりは見逃してやろう」

くるりと背を向けると、声音を低くしてそう言った。

「そうかァ? じゃあ、おめェら全員酒盛りでもしねェか! これだけの頭数いるんだ! 宴会しねェってのは損だろ? 俺の奢りでイイぜェ!!」

「おお!! 流石、元親殿! 太っ腹でござる!!」

「俺様大感激ぃ! お言葉に甘えてぇ本気で呑むぜ! あ、旦那 甘味ばっか食べると後でシメるよ」

「ヒュー! おっ。イイねぇ! 付いて来い小十郎! Let's party!」

「全く…。しょうのない御方だ」

「派手に楽しもうぜ!」

「ってことで、ここ借りるぜェ? 竹中ァ?」

と言いながら、既に酒樽やら台が運び込まれていく。

「アニキ! ここに置いときますぜ!」

とか煩い。

「おぅよ! 野郎共は船か陣で騒いでろよォ? 留守番頼んだぜェ!!」

とか幻聴が聞こえる。

「風邪を引いて寝込んでいる人間の横でヤル気かい? 元親君?」

「あ゙〜。風邪と言やァ、卵酒だなァ? 任せとけェ!」

「秤すら使わぬ貴様になど任せられるものか。配分・温度・時間…全てが完璧でなければ、我は認めんぞ!」

「えー!? 風邪なら、お粥だろ〜? フゥフゥしてから食べるんだ」

「なら、小十郎! 今夜の肴は鍋だ!!」

「任せて下さい、政宗様! 今朝収穫したばかりの野菜を使って、至高の鍋を作ってみせます!!」

「俺様も手伝うぜ!」

「…粥ではなく、雑炊になるのではないか? 佐助?」

それから、僕の前でベタベタしないで欲しい…。

「日は大安、クジは大吉ときたもんだぁ。でも、な、鍋は止めよう…うぇ」

「慶次君は帰りなさい!!」

僕は、君は嫌いだ。

ああもう…。
これじゃあ――折角の幸村君との時間が台無しだよ。

でも、これって…。
もしかして見舞いに来てくれたのか?

…まさか、ね?



半兵衛様の“寝込みに襲え作戦”失敗!

逆に“寝込みを襲われました”

〜完〜



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