忍者の登竜門…?


「…さ…すけ…か?」



ある日、幸村は佐助といつものように修行をしようと、上田城城内を探し練り歩いていた。
しかし、とうとう発見した時の第一声がこれだ。



「あ」



絶対に見付からない、とでも思っていたのだろう。
佐助は、幸村の方を見て固まる。



「佐助!? どうしたのだ!!??」


「旦那に見られちゃうとは…俺様、忍失格かな」



茶目っ気タップリに言いながら、立ち上がる。



「どっどどどうど!?」



幸村は、何が言いたいのかよく分からない単語を発しながら、佐助を指差した。
指した指が、幸村の動揺の激しさを物語るようにフルフルと激しく震えている。



「あぁ この格好ね …似合うと思う? 旦那?」



佐助は、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、くるっと一回転してみせる。



「どうしてそのような姿をしておるのだ 佐助!?」



幸村の方は、時間が立てば立つ程混乱の様相を呈していく。



「う〜ん
 やっぱり、肩を隠す服をね…
 あ、喉もか
 だとすると、格が上がるから目立つんだよね…
 俺様って忍なのに目立ち過ぎじゃね?(ブツブツ)」


「某!
 似合う似合わないの問題ではないと思うのでござる!?」


「…え 何?
 もしかして、惚れちゃった?」


「………(ドン引)」





「旦那ぁ? 冗談だって?
 俺様正常だから帰っておいでー
 お〜い 旦那ぁ」


「正常な人間が女装にはしるなど、聞いた事がござらん」


「う〜ん
 確かに一理あるけどさー
 俺様忍だから」



佐助は困ったように顔をしかめる。

しかし、女物の着物を着ているだけ(胸の詰物付)にしては、妙に静々とした所作だ。
いつもの佐助であれば、頭をカリカリとかいていた気がする。



「忍は皆、女装癖があるのでござるか!?」


「旦那 細かい所訂正させてもらうけど、癖ではないよ
 少なくとも俺様は好きでしてるんじゃない」


「紅まで引いてるのにでござるか!?」



よく見てみると、熟練者が施したような綺麗な曲線を描いた紅が引かれている。
それも、初心者がよくやる間違いの一つ…似合う人間なんてそうそういない真赤な紅など引かず、薄桜色の控え目な紅。
初めて化粧する人間が選ぶような色ではない。



「そういや、後でこの緑の戦化粧も落として見なくちゃね」



誰が見ても、ノリノリの佐助はそう呟いた。



「声はどうするのだ!?」


「子安並の熟練ならきっと女声も出せる筈さ!
 いざとなったら声優を女装時だけ変える」


「……… ぅおやかっ!!」



叫び声を上げようとした幸村の口を、佐助は慌てて塞いだ。



「だ、旦那 叫ばないでくれよー
 分かるだろ〜(汗)
 あんまり人に見られたくないんだ」


「〜〜〜!!
 がっ!?
 某を殺す気か!? 佐助!!」



つい癖で、口と一緒に鼻も押えていたらしい。

しかし、幸村は顔を真赤にしながらも一息でそう言った。



なかなか、やるね旦那


「いや…だって
 (旦那以外に)見られたくないしさ…」


「そんな格好しなければいいでござろう?」


「今回の任務なんだよ
 忍は任務を遂行する為には、なんだってこなさなきゃいけないんだ」



なんだってにも、程があるでござる!








「任務とはなん…」



続く言葉を、人差し指を幸村の口許ギリギリで抑え、制する。



「秘密事項だからな…
 いくら真田の旦那だからって、ほいほい話すってわけにもいかないんだよね」



京の都に潜り込み、親方様(武田信玄)ご上洛前の下見調査が、今回の佐助の任務であった。



しかし、幸村に話せないのはもう一つ理由があったからだ。

独眼竜…あの奥州筆頭伊達政宗がうろついているとの連絡が入っているからだ。
幸村なら後先考えず、突っ込んで行くに違いないと佐助はふんでいる。

しかも、あの二人なら京の街中でもドンパチやりかねない。
それを止める手間を考えたら、話さない方が一番の良策だ。



「では!
 何故(なぜゆえ)女装なのだ!?
 佐助!」


「旦那が、そう大声で言うの止めたら言うよ」



「…何故でござる?(ヒソヒソ)」


「素直でよろしい
 …女装は忍の登竜門なんだ(ヒソヒソ)」





………





「は 〜〜〜!!」



「だから、声を小さく(ヒソヒソ)」



今日、二度目の口塞ぎ。



「………っ!
 分かったでござる(ヒソヒソ)」


「で、続きだけど…
 俺様って意外と顔バレちゃってるから、これくらいやんないと見破られるわけさー
 ま、変装なんてしなくても任務は遂行できるんだけど…」



もじもじしている。
気持ち悪いくらい板についていて、気分が悪くなりそうだ。



「佐助…
 もしや、破廉恥な事を考えているのではあるまいな?」



佐助が顔を上げると、幸村の据わった目に出会った。



「だ、旦那!?
 俺様なんもやましい事は…(汗)」

考えてるけど…


「さ〜す〜け〜(怒)」



幸村は、佐助の考えている事が分かったかのように怒りの炎を瞳に宿らせていた。



「そうだ!
 今から、甘味屋に行こう!(汗)」


「甘味屋ぐらいでは、誤魔化されないでござるよ!」


「調査だよ旦那ぁ!
 これが通用するか試して見なくちゃ駄目だろ?
 な、旦那」



そう言いながら懐から、美味しいと今城下で評判の甘味屋が紹介されている瓦版を突き出す。

そこには、美味しさを書き綴った店主の熱意の文があった。

幸村の視線が釘付けになる。



「(ごくん)」



その瞬間、佐助は勝利を確信した。



勝った…



………幸村 理性VS食欲



しかし、幸村がおもむろに拳を振り上げる。

佐助の予想を裏切って…。



「だ!? 旦那ぁ!?
 暴力反対ですぜ!?」



思わず目を閉じる。


今の、服装じゃ動きが制限されて勝てるわけがないっての(滝汗)








………





………あれ?



「何をしておる佐助?」


「そういう旦那は手ぇ広げて何してるのさ?」


「50!」



「は???」


「50本でござる!」



佐助は理解した。


旦那は単純で助かるなぁ





それから間も無く、団子本数セリ合戦が始まったのは言うまでもない。





「さ…」


「旦那 しのですよ し・の!」



佐助は、顔のペイントを落とし、ロングストレートの鬘(かつら)を付けた姿で、「佐助!」と呼ぼうとした幸村をそう怒った。

さすがに、幸村が佐助の事をそのまま呼んでしまっては、直ぐさま正体がバレてしまうと思い、“しの”という名前で呼ぶようにさっきから言っているのだが…。



「だが、佐助…
 やはり某は、普段の格好の佐助と団子を食したいでござる…」



このおかしな状況でなく、しかも女性相手なら告白にも聞こえそうな台詞を真顔で幸村は言い切った。



「旦那…」


「佐助…」



見つめ合う幸村と佐助…。





「それじゃ意味ないから、却下(ニッコリ)」


「佐助(泣)」



からりといった笑顔と軽く落ち込んだ顔が向かい合う。



「何 旦那もしたいの?
 この格好?」


「断じて御免被る!」



「そこまで嫌がらなくても…」


俺様より似合いそうなのに…



心中、そんな事を佐助は考えていた。
しかし、絶対にボコられそうだから言わなかった。



「参るぞ 佐助!」


「だから、しのだって旦那ぁ」



佐助は、これから起こる金銭ピンチを無意識に予想しながらも、嬉しそうな幸村を見て顔をほころばせていた。



〜完〜



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