蝶と鳥
今宵の月は、なんとも見事だった。
蒼白く、欠けていない円で、
それで大きかった。
その月に舞う、美しい蝶の姿が目に焼きついている。
ひらひらと満月をバックに、優雅に漆黒の夜空を翠の羽が躍っていた。
まるで、宝石を散りばめた名画の中に、迷い込んでしまったようだった。
あまりの美しさに、目はその蝶だけを追っていた。
月の前の建物に留まったとき、微笑んでいるように感じた。
――そして、蝶は消えた。――
瞳にかけられた呪縛は解かれた。
けれど、心の呪縛だけは残った。
蝶は消えたが、瞼の裏の暗闇にはくっきりと彼女の姿は残り、
私を絡み捕らえて決して放さない。
まるで、麻酔か毒のよう。
籠の中の鳥は、開かれた入り口には目もくれず、一途に主人を見つめ続ける。
――数年の月日が経った。――
私は捕まらないモノを、捕まえられるのか。
〜fin〜
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