深い霧が晴れる時


真夜中だった。





雷鳴轟く豪雨の中、遮るものが何もない広い草原で火の手が上がっていた。
しかし、火は消えることなく、小火(ぼや)から段々と火は成長していく。


その中心には、一人の青年が倒れていた。





目が…



霞む…





もう…




駄目か…?






青年の意識は暗転した。









朝になると、豪雨は止んでいた。

しかし、あの火事が起こっていた一帯は、太陽の光さえ遮る深い霧に包まれていた。




そこへ、馬数頭を率いた小規模なキャラバンが通りかかった。

あまりにも深い霧の発生に、荷を下ろして数刻ばかりたたらを踏んでいると、風が吹いた。




若いが威厳がある鷹匠の腕に載っていた立派な鷹が、突如羽を広げ霧の中に飛んで行ってしまった。

呼んでも返らない自分の鷹を不思議に思い、鷹匠は自らも霧の中へ入った。

すると、鷹匠を呼ぶ鳴き声が聞こえてきた。

鷹匠は迷いなく、声の方へ進む。





突然、視界が開けた。





倒木の上に子供が腰掛け、自分の鷹が並ぶように羽を休めていた。



「お兄さんの鷹?」


「…ああ」



「綺麗な…大事にされてるね」



鷹の方に顔を向けて、子供は話しかける。



「…どうして、こんな所に子供がいるんだ?」

「…」

「焼け野原だ…」




「一体、ここで何が!?」





「火事だよ」





「雷でも落ちたのか。
 あの豪雨で、よく燃えたもんだ」



「僕の灰が全て流れるくらいの雨だったからね」



「灰?」









「そろそろいけるな。
 …ありがとうレーン」




それを聞くと、鷹は鷹匠のもとに返り肩に留まる。



「何で私の鷹の名前を!?」




そう驚きながらも、鷹匠は子供に違和感を覚えていた。

出会った時の子供はこんなに大きかっただろうか?




「羨ましいな、お兄さん。
 レーンにこんなに好かれてるなんて…嫌なヤツだったら、さらっていこうかと思ってた」



「さらうって!?」



「こんなに綺麗で、聡明な女性はあまりいないよ」



「?」



「じゃあなレーン…とご主人」




そう言ったのは、もう子供ではなかった。
子供は、話している内に成長していた。

そして、姿が消えた。

風が巻き起こり、霧が一瞬にして晴れた。


空には、一点の曇りもない青空。

しかし、鷹匠はほんの一瞬見ることができた。






空を優雅に舞う鳥の姿を…






その鳥を、人は不死鳥と呼ぶ。






〜FIN〜



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