02


* * * * * *



『――昨夜、ヒポクリット星の現星王レオ王の第一王子が、失踪しま――』




「王子が逃走する時代の到来ですかな」



そう言いながら、男性は繊細な意匠が凝らされたコーヒーカップを、音を立てないよう注意を払い、黒い革張りの椅子に腰掛けている女性の前に置く。
コーヒーカップの置かれたデスクの上には紙の山がいくつかそびえている。



「原因は勿論、勉強が嫌だったんだろうね」



同時にため息をついて、顔を見合わせる。



「現王も時々、公務を逃げ回っているそうじゃないか」

「そういう、血筋なんだろうね」

「…血筋、ですか…」





A級事件をズラズラと報道しているTVには、キャスターも映っていなければ、事件現場の映像も映ってはいなかった。
ただ文字のようなものが、下から上に駆け抜けているだけである。
原因は、情報の漏洩を防ぐための暗号化によるものだ。
暗号は秒単位で変化するため、それに対応する強力な暗号変換装置と、音声出力をする言語解析装置の方も必要。

だがそれ以上に、ハッカーが呆れる程の強力なプロテクトが施されているのを踏まえると、かなりのことをこなしている。
だから、このTVは映像が映らなくても仕様がないと言える。

旧式である箱型のTVなら、なおさらだ。



「ところで、例の…」

「はい。昨日、やっと最低限のザイを見つけてきましたよ」



女性が何か言おうと、口を開きかけたその時にそれは起こった。


ビービーとけたたましい機械音と、部屋中が点滅する赤い光に包まれた。



『緊急事態発生!
 都市部近くの山中で巨大な蛇が発見された!
 都市に行進する恐れがある。
至急、現場に向かい対処せよ!』


「コーンヴェグめ…
 奴ら、試してるな」



男性の一人言には気付かない様子で、女性はデスクの上に置かれた十数枚のカードに手を伸ばした。
適当に一枚を引く。
そこには、大鎌を今にも振り降ろそうとする、黒い衣を纏った骸骨が描かれていた。
しかし、その絵の向きは上下逆らしく逆さになっている。
女性はそれを見て、口の端をおもむろに持ち上げて、こう言った。



「丁度良い。
 初任務といこうかね」



手慣れた手つきで、作業用デスクの下に手を滑り込ませる。
ある箇所を指で軽く2、3度叩くと、箱型TVのものと思われる黒いリモコンが出てきた。
そのリモコンをやはり箱型TVに向けて、ボタンを押す。



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