霧の古城
辺り一帯白く深い霧の中、聳え建つ黒い影のような城。
凪いだ湖の、中央にあるという城。
霧に護られた聖域か。
霧に閉ざされた牢獄か。
出入りを封じる、二つの様相を呈した水の結界。
湿気に包まれた石の城は、苔に蝕まれ、且つ苔に護られている。
充分に水気を吸ったそれは、滑り気を帯びて、鋭利な刃物でさえ突き刺さる事を許さない。
深い濃霧のあまり火は点らず、また消えてしまう。
何人をも拒み続ける、いにしえからの城。
時折、聞こえてくるのは悲鳴のような悲痛な音。
透き通るような優しい歌声。
湖面がさざめき、呼応する。
導きか。
誘いか。
主人無くして尚、堅牢な城。
門を閉ざしたまま、朽ちて崩落の時を待つ。
主人や家人の亡骸を抱いて…
〜fin〜
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