「仕事行こうぜ!」




眩しいほどの笑顔で、火竜が叫ぶ。
手にはリクエストボードから引ったくってきたであろう依頼の紙をぶら下げて。

まるで、もう一緒に行くのが決定事項のように、少しだけ強引に有無を言わせない笑顔を見せるナツ。


そんなナツに、呆れの色を滲ませながらひとつ息を吐いて呟く。





「もう…強引なんだから」

「かっかっかっ、でも行くだろ?」

「仕方ないからねっ!」




仕方ない、と口にしながらも頬を緩めれば、それを見たナツもまた嬉しそうに笑っていつものように肩に触れた。







「さすが、"リサーナ"だな!」







けれどそのいつも通りの空間に、あたしが存在することは……きっともう、ない。















はあ、と重いため息が口から零れる。
やめなければ、と思うのに自然と出てしまうそれに自分自身嫌気が指してしまう。




いつもどおりのギルド。
いつもどおりのナツ。

いつもとちがうのは…ナツの隣で笑っているのが、あたしではないということ。

それも一日二日ではなく、もう数えるのも嫌になるくらい前からずっと。


はあ、とまた無意識にはいてしまうため息。
そういえば、ため息をはくと幸せが逃げるっていうんだっけ。
それじゃあたしは今日だけでもう10回は幸せを逃がしてるな、なんてふと考えて。


…案外、もう残ってなかったりして。
と、笑えない自分の想像にまた深く息を吐いた。




ちらりと横目にギルドを見渡すと、楽しそうに仕事の予定を立てるナツたちが視界に入って。
ぎり、と胸が締め付けられる。




…痛い。けど、どうしようもない。
それに、このくらいの痛みならもう慣れてしまった。


だから、涙なんて零れない。
我慢するのなんて、簡単だ。




「ルーシィー…」

「…ハッピー…?」

「大丈夫?」



ふわ、と肩にかかった軽い重みに振り向くと、そこにはふよふよと、頼りなく飛んで心配そうに顔色を伺う青猫、もといハッピーがいて。




「…うん、大丈夫よ?」

「でも、ルーシィなんだか泣きそうだよ?」

「え…」

「…泣きそうなの、必死に我慢してるみたい」

「っ…そ、そんなことないわよ…?ハッピーの気のせいじゃない?ほら、あたしは元気だし!」




泣きそうだ、というハッピーに慌てて誤魔化すように平静を努めてにっこり笑いかけてやる。



そんなあたしに、ちらりと相棒の姿を見てから、納得しきってない表情でハッピーは唇をぐっと噛む。
その顔は、どうして何も言わないんだとでも言いたげで。


そんなハッピーの頭をあたしは苦笑しながらゆっくりと撫でた。





「ほら、そんな顔しないの」

「…」

「…本当に、大丈夫だから」




大丈夫だと何度も繰り返すあたし。
それは、事情を知っている者からしたら、痛々しく見えるのだろうか。

それとも情けなく見えるのだろうか。


何で言ってやらないのか、と。
ただ、見ているだけでいいのか、と。




「……いいのよ」

「…ルーシィ…?」

「もう十分、わかってるから…だから、いいの」



…そう。ナツの隣には初めからあたしの居場所なんてなかったんだってことくらい、彼女を見てたら嫌でもわかる。



だってあの場所は元から彼女のもので。
…あたしはただの"身代わり"で。


彼女が戻った今、あたしは彼女にあの場所を返さなくちゃいけないってことも、あの2人を見てたらなんとなく分かってしまった。





それがたとえ……あたしがナツの恋人だったとしても、だ。



そしてその事実を、彼はともかく彼女は知らない。






「ねぇルーシィ、オイラやっぱりナツに…っ」

「あ、そうだ。ねぇハッピー、ミラさんがね?美味しい魚が入ったって言ってたのよ。あたし奢っちゃうから一緒に食べない?」

「………」

「……ね?」

「………あい…」






ハッピーの言葉を遮って、話を強引に変えたあたしに、ハッピーがぎゅっと眉間に皺を寄せた。




ごめんね、ハッピー。
でも今はナツのことあんまり話したくないの。


だから、聞かないで。





そう目で訴えながら、顔に笑顔を張り付けて笑ってると。
それを感じ取ったのか、諦めたようにしょんぼりと肩を下ろすハッピーに、もう一度、ごめんねと心の中で呟いた。




―――――――――――


オイラはルーシィの味方。


続きます。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -