ぽつりと、雨粒が髪を濡らす。 止まないそれは、まるであたしの心を写しているかのよう。 「…はあ」 …見てしまった。 一番見たくなかった、信じたくなかったものを。 「仲…良さそうだったわね」 同じ傘に入る、ジュビアと…グレイの姿。 背の高いグレイが、ジュビアの持つ傘の柄をさりげない動作で自分の手へと持ち変えて。 その時に触れた指に、ジュビアが嬉しそうに微笑んでた。 そんなふたりにあたしは、その場から動くことが出来なくて。 見たくないのに。目を逸らしたいのに。 結局逸らすことも出来ないまま、ふたりの後ろ姿が小さくなるまで、あたしはただ呆然と見つめることしか出来ないなかった。 「……馬鹿みたい」 ジュビアがグレイを好きなことは前から知ってたのに。 それでも、グレイが相手にしてないからって…安心してた。 まだ、まだ大丈夫。 そうやって自分の気持ちを先のばしにして。 伝える勇気もないまま側にいて。 それで今ふたりの姿を見て落ち込んでる…なんて本当に馬鹿みたい。 はは、と乾いた笑いが零れる。涙は何故か出なかった。 心はこんなにも痛いのに。 「冷た…」 流れない涙の代わりに、冷たい雨粒が頬を伝った。 雨が降る。 さっきよりも、強く。 「…このまま、あたしの心ごと洗い流してくれればいいのに」 こんな…切なくなるほど好きでたまらないグレイへの想いも何もかも。 「好き…」 もう伝えることもない、その言葉。 どうせ伝えられないのなら、雨と一緒に流してしまおう。 そして明日からはまた"友達"としてグレイの側で笑おう。 だから、だから…もう一度だけ。 最初で最後のあたしの……告白。 「好きよ、グレイ…」 「知ってる」 「え…」 独り言のように呟いた告白に聞き慣れた声が返ってきて、驚いて振り向くと、そこには傘をさしてあたしを見つめるグレイの姿があった。 「あーあ、お前何やってんだよ。服も髪もびしょ濡れじゃねーか」 「グレ、イ…?な、何で…」 だんだんと近寄ってくるグレイに、動揺と混乱が隠せない。 ジュビアと一緒だったんじゃないの? どうしてこんなところにいるの? 聞きたいことはたくさんあるのに、声が思うように出てくれない。 ただ、動揺した瞳で見つめることしか出来なくて。 向かい合ってその瞳を向けられたとき、心臓がドキリ、と大きな音をたてた。 「何してるかと思えば…こんなところで水浴びか?」 「え…あ…」 「ほら入れよ。早くしねぇと風邪引くぞ」 少し強引に引き寄せられて、小さな傘に入れられて。 狭すぎる傘から零れる雫がグレイにかかって、濡れる肩に優しさを感じて胸がきゅう、となった。 「ぐ、グレイ!あたしは濡れても大丈夫だから…っ!」 「あ?何言ってんだよ」 「だってグレイが濡れちゃう…っ」 近すぎる距離に、密着した身体に耐えきれなくてそう言えば、 何故か逆に引き寄せられて。 「……これでお互い濡れねぇだろ」 「ぐ…グレイっ!?」 「あ、バカ離れんなって」 吐息がかかるほどの至近距離にグレイを感じる。 そんな夢みたいなことあるんだろうか、なんて疑心暗鬼に陥れば、回された腕の強さが、それは違うと教えてくれた。 夢じゃ…ない。 でも、でもどうして…? 「な…んで」 「あ?」 「何で…っジュビアはどうしたの?」 「は?ジュビア?」 意味がわからないといった顔で首を傾げるグレイに、あたしはカッとなって詰め寄る。 「い、一緒に傘に入って帰ってたじゃない!ジュビアも嬉しそうにしてたし…っ傘だって持ってあげてたわ!」 何でこんなこと言わなきゃならないんだろうか。 痛む胸を押さえながら一気に吐き出せば、しばらく呆気に取られてたグレイが、ぽつりと呟く。 「俺がジュビアと帰ってたのを見たのか?」 「そうよ…っ」 「それで、俺がジュビアの傘を持ってあげてたのもお前は見たと」 「だから、そう言ってるじゃない…!」 あたしの言ったことを繰り返すグレイに、なんだか泣きそうになってくる。 ひとりの時は平気だったのに、やっぱり本人から聞くのは辛い。 じわり、と涙が滲んだその時だった。 「ふ…っははははっ!」 「!?」 突然、グレイが笑い出した。 それはもう、可笑しくてたまらないってほどに。 当然意味のわからないあたしは、ハテナマークをたくさん浮かべてグレイを見やる。 そんなあたしに、グレイは笑いながら訪ねた。 「お前…っ本当に俺がジュビアと帰ってんの見たのか?」 「え…?」 「俺、ジュビアと帰ってないけど?」 「…ええ!?」 叫んだあたしにグレイがニヤリと笑う。 「第一、俺がジュビアと帰ってたら今こうやってお前の後ろから現れねぇだろ」 「で、でもジュビア嬉しそうにしてたし…それに髪の毛黒かったし…」 「そういや、今日ガジルがジュビアと下駄箱いるの見かけたけど」 「が…」 「もう一回聞くけど。ルーシィ、お前本当に"俺"を見たのか?」 にやにやと、まるで答えなんかわかってるとでも言った風なグレイが顔を覗き込んでくる。 …そういえば、あたし。ジュビアが嬉しそうにしてるからってグレイと決めつけちゃったけど…実際に顔は見てないかも、しれない…? 「…っ」 冷静になれば、色々なことが思い出されて。段々と顔に熱が上がってくる。 やばい、頭が混乱してきた… ついに頭を抱えて悩み出すあたしに、グレイがトドメの一撃を食らわした。 「背が低いジュビアの顔は見えたとしても、傘で半分隠れてるやつの後ろ姿なんか見て誰かわかると思うか?」 「…っ!」 それなら、今までのことはあたしの勘違い…? 顔の熱が温度を増した。 心なしか嫌な汗もかいてきた気がする。 「っ」 どうしよう、恥ずかしくて顔があげられない…っ ジュビアと帰るグレイにショックを受けて。 …でもそれは結局あたしの勘違いで。 そして一番の問題は。 「さて、勘違いが解けたところで…俺はお前から告白されたと思っていいわけ?」 「な…っ」 独り言のように呟いた告白を、あろうことか本人に聞かれてしまっていたことで。 さっきとはくらべものにならないぐらい身体中に熱が回る。 心臓が壊れるんじゃないかってほど激しく脈を打って、恥ずかしさから涙がじわじわと滲み始めた。 「わ…」 「ルーシィ?」 「忘れてーっ!!」 「ちょ、おいっ…!?」 これ以上グレイの側にいられなくて傘の外へ走りだせば、グレイの手によって引き戻されて。 腰に回された腕の力強さに、自然と胸が高鳴った。 「や、やだ…っ!」 「…チッ」 恥ずかしさから反射的に暴れ出したあたしを止めようとするグレイの手から傘がふわりと落ちていく。 「っ…いい加減暴れんな、っての…!」 「…!?」 不意に触れた柔らかな感触。 気づけばグレイの顔が目の前にあって。 「な、…っなな」 「ったく…俺までびしょびしょじゃねぇか」 「え、あ、ごめ…っ」 驚くあたしとは裏腹に、グレイは普段と何ら変わらなくて、え?夢?なんて思いながら、訳も分からず謝るあたしにグレイは呆れたようにため息をついた。 「お前な…何で逃げんだよ」 「だ、だって…その」 「言っとくけど。絶対忘れてなんかやらねぇぞ」 「な…っダメ!忘れてよ!」 「嫌だ」 「何でよ…っ?」 何でと繰り返し問うあたしの瞳からはいつのまにか涙が頬を伝っていた。 恥ずかしくて、居たたまれなくて。 そんな気持ちを代弁するかのように涙が次々と零れ落ちる。 そんなあたしに、グレイはまた軽くため息を吐いて。 おもむろにあたしの頬を、親指で乱暴に拭う。 「いひゃい…っ」 「うるさい。お前が忘れろなんて言うからだ」 「だ、だってあれは…っグレイだって迷惑でしょう?」 それに冗談だから! そう笑えば、何故かもっと不機嫌になるグレイ。 「…俺は迷惑なんて言ってねぇだろうが」 「え…」 「迷惑でもないし、忘れたくもない。どういう意味か…わかんねぇの?」 不意に頬を撫でる手を止めて、真っ直ぐにあたしを見つめてくる。 その漆黒の瞳には、混乱で頭が回らない心情そのままのあたしが写っていた。 「……鈍感。」 つまりこういうことだ。 そう呟くと、おもむろに顔を近づけてくるグレイ。 え…え?え!? キスされる、そう思って反射的に目をぎゅっと閉じる。 …でもいくら待ってもその時は訪れなくて、ゆっくり伺うように目を開くと、そこには意地悪そうな顔をしたグレイが至近距離であたしをを見つめていて。 「…期待した?」 「…っ!」 なんて耳許で囁きかけられて、顔が真っ赤になるのを感じた。 「違っ、期待なんて…!」 「してただろ?」 「ぅ…」 必死になって否定すれば、それすら楽しむかのようにグレイが一歩先をゆく。 …グレイはずるい。 期待させるだけさせといて、結局はいつも通り、なんて。 「ふ…変な顔」 「し、失礼ね!」 「本当のことだろ?」 「…っもう知らない!」 そう叫んで、グレイに背を向ける。 …でもその足は動かない。 そんなあたしの頭にぽん、と置かれた掌が、優しく髪を撫でながら。 「…行かねぇの?」 …なんて。本当にずるい。 「…意地悪」 「どっちが。意地悪なのはお前だろ?」 そんな言葉と同時に、暖かい掌が私のそれを包む。 素直になれない気持ちの代わりに、少しだけ力を込めれば、グレイが優しく笑いかけてくれた。 「帰ろうぜ、ルーシィ」 「…うん」 手を繋いで、グレイとふたりで歩く。 …見上げた空は笑っていた。 オシロイバナ (ところで…俺ら両想いなんだけど、気づいてる?) (…っ!?) ―――――――――― 長い。ぐだぐだ。 …本当にすみません… 学パロとかいいながら、要素少なくてごめんなさい! とりあえず制服きてたらグレイかどうかわからなくなるかな、と← でもいくらなんでもガジルとグレイは身間違わないですけどね!← …だってジュビアが仲良いのってガジルしか思い浮かばなかったんです… ← → |