「グレイ……お願い」





暗い部屋の中、月明かりがぼんやりと白い肌を浮かび上がらせる。
ぎゅ、と引き結んだ唇を親指で撫でれば琥珀色が戸惑うように揺れた。






"熱"






「…噛むなって。傷になるぞ」

「っ…う、うん…」

「…そんなに緊張すんなよ」





微かに震える肩を見ながら、同じように震える手のひらを絡めるように繋ぐ。
せめてその緊張を少しでも軽くできれば、と空いた手で金髪を撫でれば、ふっとルーシィが肩の力を抜いた。


それを確認してから、出来るだけ優しい声色で諭すように問いかける。





「なあ…別に急がなくてもいいんだぞ?こういうのって早ければいいってもんじゃねぇだろうし」




特に女の子は初めては大事にすると聞く。だったらルーシィもそうなんじゃねぇのか?

そう尋ねると、ルーシィは俯いて、小さな声で呟く。





「…グレイは、嫌?」

「は?いや、俺は嫌じゃねぇけど。」

「で、でも…なんか乗り気じゃないし…」

「心配してんだろうが。何焦ってんだよ」

「っ…!」





どうみても焦ってるルーシィに、何がコイツをそうさせるのか、と軽く息をつく。


突然のルーシィからの"お誘い"


真っ赤な顔で震えながら俺を誘うルーシィは可愛かった。
まさかルーシィから誘ってくるだなんて思わなかったし、俺も舞い上がっちまってここまできたけど。



…けど、今のコイツは絶対におかしいだろ。


何かに追われるように焦って行為を進めようとするルーシィ。
何でそんなに焦ってるのか、コイツの考えとか気持ちは俺には分からない。

けど、やっぱり無理してるんじゃねぇかと口を開こうとして。






「え…」

「グレイの、ばか…!」





いきなり目の前に現れたルーシィに、咄嗟に反応が出来ず、次いで襲った強い衝撃に目を見開けば、反転した視界に、何やら泣きそうになっているルーシィと天井が映って。



背中のベッドの沈むこむような感触に、ルーシィに押し倒されたのだと気づいた。





「ルーシィ?!」

「何よ!いっつも余裕ぶっちゃって、全然あたしに触ってこなくって…!」

「は?ちょっと、待てルーシィ!」

「告白だってあたしからだったしっ…もう付き合って大分経つのに、それなのに…っ」

「おいルーシィ、落ち着けって!」

「グレイはっ…グレイは本当にあたしのこと好きなの?!」





興奮して声を荒げるルーシィに、その台詞に。
いつのまに俺はコイツをこんなに不安にさせてしまったのか、と深く後悔した。





――いっつも余裕ぶっちゃって。



…違ぇよ、いっつも余裕見せるのに必死になってるだけだ。






――全然あたしに触ってこなくって。



触りてぇにきまってんじゃねぇか。
けど必死に我慢してたんだよ。
暴走しねぇように、お前が泣かないように。






――告白だってあたしからだったし。



ああ、死ぬほど嬉しかったよ。
夢みたいだって本気で思った。







――グレイは本当にあたしのこと好きなの?




「…好きにきまってんだろ」





予想よりずっと低い声を出した俺に、ルーシィがびくりと揺れる。
けど、それに構わず俺はぐっとルーシィごと身体を起こした。




「グレ…っ、んっ」





反射的に逃げようとするルーシィを捕まえて、深く唇を重ね合わせて。

抵抗するルーシィの酸素も不安も何もかもを奪い尽くすように、荒々しく口を塞いでいく。




「…っ…は」

「…好きじゃなかったら、こうやってキスなんかしねぇ」

「グ、レ…っ、」





息を乱すルーシィに、もう一度口づけて。
そのまま額に自分のそれをくっつけた。



一度、深く息を吸って、ゆっくり言葉を吐き出す。







「…不安にさせて、悪かった」

「…っ」

「俺だってお前に触りてぇよ。キスだってその先だってしてぇに決まってる」

「だったら…!」

「バカ、俺だって緊張すんだよ」




ルーシィを俺だけのものにしたい。
でも、壊しちまいそうで、怖い。


だから迂闊に手が出せなかった、なんて…恥ずかしくて言えるわけないだろうが。

それがお前を不安にさせちまうだなんて思わなかったけど。





「それに…不安なのはお前だけじゃねぇんだよ」

「え…」

「…俺だってお前が本当に俺でいいのか、わかんねぇし」





そう呟くと、ルーシィが驚いた顔で俺を見る。
その顔は、信じられないとでも言いたげで。

そんなルーシィから目線を外して、ゆっくり溜めていた気持ちを吐き出した。





「っ、嘘…」

「嘘じゃねぇ。時々、本当は俺のことなんか好きじゃねぇんじゃねぇかって柄にもなく不安になんだよ」

「…っ、好きに決まってるじゃない!」

「…でもお前、いっつもナツといるしな」





同じチームの中でも最初にチームを組んだルーシィとナツは仲が良い。


…つか良すぎるだろ。



ギルドでじゃれ合う2人の姿を思い出して、眉間に皺が寄る。


だからなのか、いつかナツにルーシィを取られんじゃねぇかって、2人を見てるとそんな不安に駆り立てられる。
本当に、柄じゃない。







「……」

「……」





まともにルーシィの顔が見ることが出来なくて、ベッドに腰かけたまま俯く俺。



静かな沈黙が部屋に訪れる。
こんな俺を、ルーシィは引いたんじゃないのだろうか。
聞きたいけれど、口が開かない。




「……」

「……ねぇ、グレイ」




そんな中、先に動いたのはルーシィだった。





「あたし……グレイが好きよ」

「っ、ルーシィ」

「本当に、誰よりも…大好き」




とんっ、と背中にルーシィの頭がぶつかる。
振り返ろうとしたら細い腕が腰に回って、俺をぎゅっと引き寄せて、少しくぐもった声で、それに、と続ける。






「ぐ、グレイが、いいんだもん。グレイじゃなきゃ、そんなのっ」

「っ、…」

「そんなの……嫌だよ」

「…本当か?」

「本当よ!」






必死な声に、頬が緩む。
ルーシィからの好きが伝わってくる。






「もう一回」

「え?」

「…もう一回、好きだって言ってくれ」

「っ、す、好き」

「ん…俺も」




背中越しに伝わる体温に、安心する。

俺の背中にぎゅっとしがみついてくる細く白い腕。
背中越しに伝わる柔らかさに、逆上せそうになりながら、俺は振り返ってその柔らかさを正面から抱き締めた。


苦しいよ、なんて言いながら笑うルーシィに、俺もそうだな、なんて返して。
しばらく抱き合ったままお互いの体温を感じ合う。





「ねぇ、グレイ…」

「ん…?」

「あたし、焦ってるとかじゃなくて、今本当に……本当に、グレイと繋がりたいって…そう、思うよ?」

「…ん」





穏やかな顔で、少し頬を赤らめて伝えるルーシィに、俺も小さく頷く。


…俺も、と耳許で囁くように言ってやれば真っ赤になりながら目を閉じるルーシィ。




「っ…!」





そんな姿に思わず口を片手で塞ぐ。
ドクドクと高鳴る心音と高まる熱に、酔ってんじゃねぇかってくらい頭がクラクラする。





「グレイ……お願い」




…全く、どこでそんなこと覚えてくるんだか。



けど明らかに高まってきている熱に、俺は苦笑しながら、その熱に負けないくらいの想いを彼女へと伝えるべく、俺はルーシィへと手を伸ばすのだった。





End





――――――――――――――――

台詞:「ぐ、グレイが、いいんだもんっ。グレイじゃなきゃ、そんなのっ」
場面: 思わず口を塞ぐ(塞ぎ方はご自由に)



グレル祭提出作品3
これが今回最後の作品となりますね。
私どちらかというと情事の最中よりも、始まる前のもだもだや終わってからのもだもだが好きなので、今回はそれを自分で書いてみようとしたのですが…
…やっぱり難しいですな!ヾ(゜▽゜)ノ←

衝動的に書いたものなので、よくわからない仕上がりになってます。…いつもですけど(泣)


えー、今回も素敵な方々の中に参加させて頂いてとても緊張しましたが、それ以上に楽しかったです!
皆さま本当にありがとうございました〜!








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