無機質な機械音が耳に響く。
一定のリズムで刻むそれは、心地よいようなもどかしいような気分を誘って。



「…ルーシィ」



思い浮かべるのは蜂蜜色の彼女。
あの透き通ったソプラノが耳に届くのを想像して、少しだけ口許が緩んだ。





――…♪…♪…



2コール目。
まぁ、まだだろうな。



――…♪…♪…♪…



3コール目。
今気づいたぐらいか?




慌てて携帯を手に取るルーシィが簡単に想像出来る。

きっと顔を真っ赤に染め上げて、上ずった声で、でも何でもない風にもしもし?なんて言うんだろう。



「早く…出ろよ」




――…♪…♪…♪…♪…



4コール目。
…まだ出ない。



――…♪…♪…♪…♪…♪…♪…


5コール目。
………………。





耳に響くのは、未だにループする機械音だけ。



普段ならもうとっくに出てるはずの彼女は、今日はその気配すら見せなくて。



少し心配になりながらもそのままコール音を聞いていると、突然、プツリとその音が切れた。





『…も、しもし…?』




代わりに聞こえたのは、澄んだソプラノ。


待ち望んだその声に、鼓膜が歓喜に震える。
…聞きなれてるはずなのに、どうしてこうも愛しくなるのだろうか。


口を開きたい衝動を抑えて、その余韻に浸る。

そして不思議そうなルーシィが俺の名前を呼んだ所で、ようやく返事を返した。




「…ん?」

『あ、いるのね…って、だったら返事しなさいよ!』

「いや、まあ…声聞きたかったからな」

『っ、何言って…』




一瞬だけ息を飲んで、少し動揺したようなルーシィの声が、耳に心地よく響く。


きっとその頬はうっすら赤く染まっていることだろう。



簡単に想像できるルーシィの姿に、ふ…と笑うと、それに気づいたのか、拗ねたようなルーシィが受話器越しに投げ掛けられた。



こんな言葉や態度ですらいちいち反応するルーシィが、可愛くて仕方ない…なんて。



本人に告げたら一体どんな反応をするだろうか?
また真っ赤になる?それとも怒ったような顔で誤魔化す?



どっちにしろ、今ここにルーシィがいないことがもどかしい。




『それでね、ハッピーがね』

「あー…そりゃ災難だったな」





それから他愛もない話で盛り上がって。
気づけば時計の針は12時をとっくに回っていた。



明日のことを考えると、そろそろ切らねぇとマズイだろう。




「ルーシィ…もう切らねぇと」

『、あ…うん。そうね…』



ルーシィも時間に気づいたのか、先ほどより幾分かトーンの下がった声で、同意をする。




「、…」

『……』



どうしても、別れの言葉を切り出せなくて黙りこんでしまう俺。


それはルーシィも同じようで、お互い黙ったまま時間だけが刻一刻と過ぎて行く。




「どうせ、あと数時間したらまた会えるし…な」

『そ、そうよね…何しんみりしちゃってんのかしら』

「…だな」

『…うん』

「……」





強がってみても、寂しさが薄れる訳でもない。


またすぐ会えるのに。
何でこんなに寂しくなるのか。
わからない、わからないけど。




「『…会いたい』」

「…」

『……』

「…くくっ…」

『ふふ…っ』




思いがけず揃った声に、二人して笑う。
それだけで、なんだか心が温かくなった気がした。




『…じゃあ…』

「ルーシィ」

『な、に…?』

「…好きだ」

『っ、こ、ここは"愛してる"って言うもんじゃないの?』

「そ、れは無理だろ…」

『もう、ヘタレなんだから』

「うるせぇな。…いいから早く寝ろ」

『はいはい。じゃあまた明日ね』

「おう、明日な」



――――ツー…ツー…



冷たい機械音が、痛いほど耳に響く。
さっきまでのアイツの柔らかい声が嘘みたいに消えたのが、少しだけ悲しい。



「いってぇ…」


掌をゆっくり伸ばすと、関節が悲鳴を上げた。
思わず携帯を強く握りしめていたことに、少しだけ苦笑して。



…俺はそっとその冷たくなった機械に唇を寄せた。





call.

(…おは、よ…)

(お、う…)

(?どうしたんだ、お前ら?)




―――――――――――――


夜中って妙なテンションになりますよね。

それで、次の日とか会うとなんか無性に恥ずかしくなる。


あれ…私だけですか?(汗)



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