『好きよ…っ愛してる!』

『僕もだよ!マイハニー!!』


「うぇ…」



テレビから流れる映像に目を細める。
思わず漏れてしまった声をルーシィに横目で睨まれた。


今いいところなんだから邪魔しないで。
そう小さく冷たく言い放つと、また視線をテレビへと移すルーシィ。



…ちぇ、つまんねーの。


こんな箱のどこがいいんだよ?



ルーシィの視線を奪うその小さな箱では、恋人らしき男女が涙を流しながら抱き合っていて。

愛だかなんだかを繰り返し叫んでいた。




「…絶対ありえねぇ」




うっとりとため息を吐くルーシィに、オレは半目で呟く。




「何よ、夢がないわね。」

「夢も何もねぇだろ。あんなん拷問以外の何者でもないっての」




さっきの映像を思い出して顔を歪めるオレに、そう?なんて呑気に返しながらまたその瞳を画面へと戻すルーシィ。


そしてある男性俳優が画面に映ると、ルーシィの声のトーンが高くなった。



「この人今人気だよね!確かソーサラーにも乗ってたっけ」



かっこいいー。
そんなルーシィの呟きに、ぴくりと眉が吊り上がる。



…何がいいんだ、こんな奴。



ルーシィの視線を持って行くその男を睨んでも、そいつはただ爽やかに笑うだけで。

その笑顔が、勝ち誇ったかのように見えて、イライラする。




「いいなあーあたしもあんな風に愛されてみたーい」

「…なんだよ、顔が良いだけじゃねぇか」

「性格もすごく優しいって」

「どうせ噂だろ?絶対嘘だ、そんなの」

「それはそうかもしれないけど…ていうかあんた突っかかってくるわね…」




妬いてるの?
冗談混じりに聞いてくるルーシィに、顔がカッと熱くなって。
慌ててルーシィから視線を逸らす。



「そ、んなわけねぇだろ!」

「わかってるわよ。ナツは恋愛なんか興味なさそうだもんねー」


「…自分で聞いたくせに」




オレの言うことなんてわかってるとでもいうかのように、視線をテレビに向けたままルーシィが言う。


そんなルーシィにやっぱりイライラして、じっとその背中を睨む





…なんだよ、オレがここにいるのに。オレと話してるのに。

少しくらい、こっち見ろよ。





未だテレビに夢中なルーシィの背後に忍び寄って。
そしてそっとルーシィに気づかれないように手を伸ばして、その電源を落とした。





「あっ!?ちょっとナ…!」

「あんな奴見んな」

「は、はあ?いきなり何?どうしちゃったのよ…」




至近距離に迫ったオレに驚きながらも、その瞳は揺れることなくオレを真っ直ぐ見つめ返す。



…つまらない。



こんなに近くにいるのに、何でそんなに余裕なのか。

無防備…というか。
オレを男扱いしてないにもほどがある。



その間もルーシィは不思議そうに首を傾げるだけで、動揺した様子はない。




「ねぇ、ナツ…本当にどうかしたの?今日おかしいよ?」




いつものナツじゃないみたい。
そう呟くルーシィは、心配そうにオレの頭を撫でた。



…そんなの、オレが一番わかってるっての。



ああ、くそ。
何なんだよ…何でそんな…




「…やめろ」

「でも、」

「つか、何でそんな余裕なんだよ」

「余裕?」




意味がわからないといった風なルーシィがオレを上目に覗き込もうとして。

その瞬間、ほとんど無意識に。
オレはルーシィを抱き締めていた。




「な、ナツ…っ!?」

「うるせぇ!」

「っ、」




ぎゅっと力を込めると、苦しそうにその細い腕が暴れだす。

そんな腕ごと無理矢理腕の中に閉じ込めて、力を更に込めた。




伝われ
伝われ
伝われ





このドキドキが、この熱が。
ルーシィに伝わってしまえばいい。





そしたら、少しはオレを意識してくれるかもしれない。
そうすれば、きっと…




「っ、やめんか!」

「いてぇっ」

「もう、一体何なのよ!?苦しいじゃない!」

「…だって」



ルーシィが、見てくれないから。
こんなに近くにいるのに、なのに。


ぎゅ、と性懲りもなく力を込めたオレの頭に、ルーシィの鉄拳が容赦なくめり込む。




「…っもういい加減離れなさい!」

「いっ…!」

「只でさえ暑いのに、あんたがくっつくともっと暑いのよ!」



痛みに悶えるオレをルーシィは無情にも足で蹴飛ばすと、そそくさとその場を立ち去ろうとする。


そんなルーシィを視線だけで見送りながら、ふと頭に浮かんだ疑問をその背中へと投げ掛けた。





「…あれ?続き見ねぇのか?」

「っ、…」



時計を見ると、ドラマとやらが終わるまでまだ大分時間はある。




「ルーシィの好きなかっこいい俳優が出てるんじゃねぇのか?」





なのに、その問いにルーシィは淡々とこう言った。




「…あたしその人に特に興味ないから」

「…あい?」



思わず、ハッピー口調になるオレ。

そんなオレに、どこか慌てたようなルーシィが早口で捲し立てた。



「と、とにかく。あたしこれから出掛けるんだから、早く出ていってよね」

「え、ちょ…」




思いっきり背中を押されて、窓枠に無理矢理足を掛けさせられる。



「じゃあね!さよならナツ」

「お、まえな…普通窓から返すか?」

「何よ、いっつも窓から出入りするくせに」

「そうだけどよ…でもオレまだ一緒に」



いたい。
その言葉は言えなかった。
否、言わせて貰えなかった

…ルーシィの手によって。




「うお!?」

「お気をつけてー」




重力に逆らえず落ちていく身体。
今日ハッピーいねぇんだけど、とか考えながら地面とにらめっこするオレの耳に。





――余裕なんて、あるわけないじゃない…






なんて微かに聞こえたその声。
勢いよく顔を上げると。



…窓枠からオレを見つめるルーシィの頬が確かに赤く染まっていた。






(…今夜も部屋に行ってやる)






―――――――――――――



余裕なんて、ない。
…あるように見せてるだけ。




画面の向こうの俳優にまでヤキモチを妬くナツ。
…なんだかすごく乙女ですね。






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