たとえばルーシィがお嬢様のままだったら。 毎日同じ時間に起こされて。 紅茶を啜って。 山のようなお勉強に ひとり寂しい食事の時間。 変わらない毎日。 同じことの繰り返し… 唯一の楽しみは、使用人の女の子に頼んで購入した週刊ソーサラーの記事を読むこと。 「あはっ…また載ってる」 妖精の尻尾、デボン盗賊一家壊滅するも民家7軒も壊滅… 「何それやりすぎーっ!」 妖精の尻尾。 毎週載ってるソーサラーの常連さんなんだけど…これがまた何かしら騒ぎを起こすギルドらしく、その名を見ないソーサラーがないくらい悪名高いことで有名なギルドだ。 「最高にかっこいいなぁ…」 きっと皆のびのびと自由に暮らしてて。 騒いで、馬鹿やって、助け合って… …きっとこんな息苦しい生活とは無縁なんだろうと思う。 別に今の生活が嫌いって訳じゃない。 お勉強だってそこまで嫌いじゃないし、使用人の皆も私に良くしてくれる。何不自由ない暮らしは快適といえば快適だ。 ただ… 「ルーシィ、入るぞ」 「…お父様」 「私は暫く家を留守に…お前、またそんなものを読んでいるのか」 「……」 机の上の雑誌を目にすると、あからさまに嫌な顔をするお父様から、あたしは目線を逸らした。 「そんなくだらないものを読む暇があるならもっと帝王学の勉強をしろと言っているだろう!」 「……はい」 「…まぁいい、私は暫く留守にする。家のことは使用人に任せなさい」 「…いってらっしゃいませ…」 用件を告げたお父様は、私の顔を見ることもなくさっさと出ていって、部屋に訪れた静寂に、あたしは重くため息を吐いた。 「相変わらずよね…あの人も」 外に出るのも億劫で、窓越しにあの人が出掛けるのを目線だけで見送った。 ふと、入ってきた一筋の風にカーテンがふわり、と膨らんで。 柔らかな春の匂いを含んだそれは雑誌のページをパラパラと捲り、一枚のページを開いてく。 『ナツ・ドラグニル』 その名前には見覚えがあった。 確か、火を使う魔導士で、めちゃくちゃなことで有名な、妖精の尻尾のひとり。 実際さっき読んだ記事も、このナツによるものだった。 す…と写真をなぞる。 屈託のない笑顔をみせる桜色に触れると身体の芯が少し熱くなった気がした。 「妖精の尻尾、火竜のナツ…か」 もし、もしナツがここにいたのなら。 この退屈なお城から抜け出して、刺激的な冒険へと連れて行ってくれるなら。 それはどんな夢よりも最高に素敵なものになるだろう。 「いつか…会えると、いいな」 …きっと現実のナツはもっとめちゃくちゃな人で。だけどナツとならどんなことも楽しいんだろうな。 そんな妄想を巡らせながら、あたしは雑誌を胸に、今日も瞳を閉じるのだった。 ーーーーーーー 前拍手文ナツルー これにはもう何年お世話になったでしょうね… マメじゃない管理人でごめんなさい。 およそ2年かな?おつかれさま!(笑) うん、結構お気に入りの作品でした^^ 現拍手文はこのお話の続きになってます。 …短いですけどね(汗) ← → |