「ねぇ杉山」

「……何」


あれから、わらわらと生徒が集まってきて、そして先生がやって来た。

先生の自己紹介や学校説明なんか色々したりして。今はHR中。

(こいつ…ほんとに前の席だったんだな)

嘘ではなかった。
先生も何にも言わないし。
だけど。

俺の前の席だという事は、これから1年間、こいつと付き合っていかなきゃならないって事で。
もしかしてあのワケわからない絡みをこれからしなければならないのだろうか。…大変めんどくさい……。


(あー…どうしよ)

登校初日で鬱るなんて…
これからの未来に少し不安を感じているときに、前の席の大野が後ろを向いて話かけてきた。


「眼鏡持ってない?」


は?眼鏡?

「ごめん、俺コンタクトだから」

「そっか」

そっけない返事を返して、大野はまた前を向いた。


………。

なんだ。今のは普通に会話出来ていた。やれば出来んのか。…俺の中の大野像が定まらねぇよ。

なんて思いながら暫く先生の話に耳を傾けていると、また前のやつが後ろを向いて話し掛けてきた。


「あのさぁ、あの黒板の右端。なんて書いてあるか読める?」

ぐっ、と。
さっきの俺を睨んだように黒板を見た。

…………もしかして眼、悪いのか?


初めて会ったとき、
睨まれた、と思ったアレは俺の顔が見えずらかったから…とかだったのかな。

気分わるかったけど…俺を睨んだのが眼が悪くてなら、そこまで俺も鬼じゃない。

「明日の予定だよ。1時間目から3時間目まで総合。でLHR。下校は12時ぐらいだよ」

「おお、了解。ありがとなー」


へらっと笑って前を向いた。
なんだ。普通に話せばやっぱりいいやつ(普通の人)なのではないか?
友達作ろうとしてわざとあんな変なキャラ演じてたとかなんじゃ?

大野の後ろ姿を眺めながらそんなことを考えていた。




◇◇◇





そして波乱の学校初日が終わった。
さて帰る。っつっても友達はまだいないから一人なんだけど。でもそれは俺だけじゃないはず。
学校初日なんてそんなもんだよなーとクラスを見渡しながら席を立ち上がる。


そしたら、


「ねぇ杉山!」

後ろを向き、机に肘をつきながら。大野は上目使いに話し掛けてきた。

(………眼でかい)

やっぱりあれは眼が悪いからなんだ。ちゃんとすればあんな目付きは悪くない。

まぁそれは置いといて。

「何?」

「一緒に帰えろ?」

「はぁ…?一緒に?」

怪訝に答えると大野は笑顔でそう言った。
なんで学校生活のみならず、下校の時も一緒に居なきゃならないんだ。少し普通のやつなんじゃないかと思ったけど、今日は疲れた。もう放っておいて欲しい。


「だって友達いないでしょ?」

「失礼だろお前!」

真顔で言うなよ!
俺だって友達ぐらいいるわっ!…と言いたいが、今日話したのはコイツだけだし、ここに同じ中学のやつもいない。

だから今日は一人で音楽を聴きながらのんびり帰るってゆう計画だったのに。


「ならいいでしょ、一緒に帰ろっ」

大野はちゃっちゃと仕度をして。なぜか俺の正面に立って肩に両手を乗せた。

「…、なんだよ」

「杉山…

……やっぱり!顔、可愛いなぁっ」

ニコッってそれは爽やかに笑った。だが俺にしてみればそれはバカにされているのと同等の…っ!

「か…っ可愛くなんかねぇ!俺は男だぁ!」

まさかこいつにまでしかも出会って数時間で言われるなんて。

……よく、女の子みたいだ。とは言われる。
それは眼が少しおっきくて、睫毛が長くて…少し背も低いからだと思う……けど!
俺はその、"可愛い"が嫌いだった。大嫌いだった。仕草だって別に女っぽい訳じゃないし、ただ外見がそう言わせる。俺は男なのに…。
だから可愛いなんて言われて嬉しいわけないじゃないか。

俺よりも10p近く背の高い大野を睨み付け。

「一人で帰れバーカ!」


肩の上の両手を振り払ってクラスを足早に出た。

「あ、逃げないでよぉ」


だが懲りるどころか楽しそうに後からあいつが追いかけてくる。

全くもう。
……コイツ苦手だ!




◇◇◇◇◇




「でさぁ、ほんとあいつったらありえなくて」

「ふふ、杉山も大変なんだな」

あの後結局、大野が追いかけてきて一緒に帰ることになった。
まぁどうせわけわかんねぇ話とかすんだろう、と半ば諦めたような気持ちだったんだけど。


「もう大変なんだよ。なんで挟まれなきゃなんねんだよってゆう」

気づけば俺が夢中になって話していた。

…だって!
こいつ、なんだか俺から話を引き出すのが上手くて。それに乗せられた俺はポンポンと話してしまっていたんだ。

大野はワケわからない、不思議話なんか全くしなくて、俺の話をきちんと聞いてくれた。たまに冗談も入れながら。
その態度はとても、話しやすかった。




そして学校から駅まで距離あんのにあっと言う間で、なんだかんだで同じ電車に乗り、同じ駅で降りていた。

「大野もここの駅なのか」

「あぁそうだよ。何気接点あるね、俺たち」

「……そうかもな」

はっ、と笑って。同じ駅だなんて知らなかった。
……もしかして、コイツが俺の事を知ってたのは
駅で見かけたから…とか?
「杉山、中学どこ?」

「東中」

「あ、俺北中」

これぐらいの中学の違いなら駅とかで会うだろうな。…そして二人して南口から駅の外に出る。


「じゃあ、俺家あっちだから。じゃあな大野」

そう言って俺は歩いていく。だけど大野は着いてこないからきっと家がこっち方面ではないんだろう。

「おぅ、ばいばい。また明日」

なんて、笑顔で手を振る。普通に手を振ってるだけなのに、すごく絵になるやつだな。と思った。

あっと言う間の帰り道だった。



◇◇◇◇◇







ベッドに寝転びながら、俺は今日の事、いや、大野の事を考えた。


正直いうと、気は、合うと思う。
出会った時はほんとなんなんだコイツって思ったけど、話してみたら…

意外とほんとに話のわかるやつだった。


なんだか…嫌いじゃないかもしれない。


……なんて。









- ナノ -