可愛い


可愛い可愛い



そんな言葉を周りから何度も何度も言われた。

でも違う。
違うんだ。
欲しいのはあんたらのその言葉じゃない。


俺が欲しいのは

お前からの、その言葉だけ




灰色の視界








あいつは
とても変なやつだった。




俺とあいつが出会ったのは、高校に入学して初めて自分のクラスに集まった時だ。

ガララ、
俺は緊張しながらクラスのドアを開けた。そろそろ時間だというのに人は疎ら。
学校初日とゆうことで、まだ友達のグループなんてものは出来ていない。
だから殆どのやつらが自席に座り、携帯弄りや本を読むなどして時間を潰していた。


…一見…。俺と気の合いそうなやつは……。

まぁいいか。
とりあえず俺も自席につく事にした。友達作りは後からやればいい。


俺は鞄から紙を引っ張りだして拡げた。ちょっとしわになってしまってるがいいか。
事前に配られたこの紙に席の位置が書いてある。
俺は、その紙を頼りに席を探した。

(…窓側…前から5席め、)
窓側なら分かりやすいし外も眺められるし位置的に最高かもしれない。

あぁ、あった。ここ……だ…?


確かに、紙に書かれているのは俺が今見ている席なんだけど。
誰か……座ってる。


あれ、間違えたかな。
そう思って見直してみたけどやっぱりクラスも場所も合っている。

しかも、その人は誰かと話している訳でもなく、その席がまるで自席のように堂々と座り、外を眺めていたからさぁ大変。

どうやら……とゆうか多分、この人席間違えてるんじゃないのだろうか。
あまりにも自然に座っているからきっとそうだ。

だったらすぐにでも言った方がいいだろう。俺の為にも、その人の為にも。
そう思い、俺は声をかけた。

「あの」

「んー」

その人は、外を眺めたまんま、返事とは言えないが、そう、返した。

「(なんなんだコイツ…)
この席、俺の席なんだけど」

こっちを向くくらいしろっての。
この男の態度に不信感を感じながらもそう告げた。
すると、


「知ってるけど?」

「…はぁ?」


そしてくるりとこちらを向いた。

……それはそれは顔の整った男がそこにいた。
瞳が隠れるぐらいの長さの前髪は左側から流れるように分けられていて。
髪が少し長いのに、普通は鬱陶しく感じるんだろうけどバカみたいにスゴく爽やか。
こんな出会い方をしてなかったら、好感が持てると思う。絶対に。

だけど、男は 睨む、ように俺を見た。

「ここ、俺の席じゃないもん」

「………。」

な、

なんなんだ?こいつ。
自分でも、ここが自席じゃないことわかってんのになんでそれで座ってんだよ。

恐らく俺は間違ったこと言ってない。
なのにわかってて、座ってる?なぜだ?それになんで睨まれなきゃならない。
…こいつが、意味わかんないことばかり言うから、
今俺はこんなに混乱してんだ。少し、おかしい奴なのかこいつは?



「…わかってるなら、そこどいて」


「うん」

そう言って、男はあっさりと退いた。
そして今度は俺の前の席の所に座った。

「…自席、戻れよ」

その席の人だってきっと来たときにこんなの居たら迷惑する。
それを考えて言ったのに。

「ここは俺の席だよ。これはほんと」

こちらを睨むように見ていた男が、にこ、と笑った。…その笑顔は、堪らなく眩しいくらいの笑顔だった。


「……あらそうですか」

こんな気持ちじゃなきゃ見惚れるほど美しいそれだっただろうが、今はなんだかその笑顔にイラっと来て。俺は冷たくあしらった。



1年間このクラスでやっていくんだ。話しかけられたら、愛想良く、にこやかに。
人間、第一印象が肝心だから。


と朝、心に決めてきたのに。クラスに入って3分で失敗だ。
俺は はぁとため息を吐きながら自席に座り、先生がくるまで暇潰しに携帯を弄ることにした。







「ねぇ」

「なぁ」

「おーい」


「………なんだよ」

3回目で、俺は漸く答え顔をあげた。こいつ、しつこい。

「さっきはごめんな、勝手に座ってて。」

……なんだなんだ。
よくわからんがこれは謝って…るんだよな?
まぁ、なんかさっきのイライラも、数分経ったらどうでもよくなってきてたし。

「…別に、いいけどさ…。何してたわけ?」

だから俺は許す代わりに何をしてたか聞いてみた。

「あんた待ってたの」


………はぁ??

俺を、待ってただぁ…?
名前も顔もクラスも知らない、初対面なのに?
俺を待っていた?なに、…気持ち悪っ
俺は盛大に引いた。

「そんな嫌な顔しないでよ」

「するし。普通にするし。何?俺を待ってたって?俺はあんたを知らないのに、あんたは俺を知ってたの?」

怖い。
どこかで見られてたんだろうか。でもクラスも席もなんで知ってたんだよ。それが疑問過ぎる。

「ふふふ、君、すぐ顔に出るタイプの子だね。」

「笑ってんじゃねぇよ」


俺がした質問に答えろ。
…それに、確かに俺はすぐに顔に出るタイプの人間だ。よくそう言われる。あんたの言ってる事は間違ってはない、けど。


「まぁそう怒んないでよ。ね?それと、思ったんだけど俺、君と気が合う気がするんだよね」

「…はぁあ?」

突然今度は何を言い出すのかと思えば。
俺とお前が気が合うって?!

全く冗談も程ほどにしろよな。少し顔がいいからってさっきから俺の事は尽く無視、しかもこんな顔してる人間に対して気が合うだ…?

「だからさ、仲良くしよ?俺、大野ってゆうの」

「なんであんたなんかと…っ」

しつこいし名乗ってくんし…。こんな変なやつと友達になんてなったら後がめんどくさくなるに決まってる…絶対俺は自己紹介なんか…!

「よろしくね、杉山」

「……!?なんで俺の名前…!」

「この紙に書いてあった」


と、俺の眼の前で紙をペラペラさせる。その紙はさっき席を探すために使った紙だ。クラスも名前も全部書いてある。

「これ、名前なんて読むの?だい……?」

「………はぁ…、。たいりだよ、たいり。」

「へぇーっかっこいいね!」

名乗らなきゃいいのに。あいつ…大野に乗せられ何故か名乗ってしまった。

そして、あいつはまたニコッって笑ったんだ。


変なやつと絡んでしまった……。









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