「た〜いり〜っ」 「…大野っ!」 大野が一目散にこちらに駆けてくる。どうやらバレーボールの試合は終わったようだ。 「終わったの?」 「うん!大璃の分まで頑張って来たよ〜」 えへへ、と笑いながら俺の正面に腰を下ろした。 「てゆうか、大璃と渡瀬が話してるの珍しいね〜。やっと大璃の人見知りも治ったのかなぁ?」 少し挑発的な眼で見てくる大野に俺はベっ、と舌を出した。 「うるせーっ」 「俺が杉山に声かけたんだよ。友達になりたいなって」 その後を渡瀬がフォローする。 「だろーな。大璃から声かけるとも思えないしぃ」 予想出来てたよ〜、なんてへらへらと笑う大野に、俺の眉間のシワがどんどん増える。 ……仲良くなりたいんだ。 なんて言われて正直戸惑った。ストレートな言葉って伝わりやすいけどかなり戸惑うものだな、と思った。 渡瀬は動揺を隠しきれない俺の顔をみて、少し笑いながら、 「まぁ、今すぐに友達な、なんて言わないからそんな恐がんなって。 友達なんて気づいた時になってるもんだよな。適当に仲良くしよーな」 と、言ってくれた。 …どうやら怯えていると判断されたらしい。 でも人見知りとは端的に言うと人が恐いから合ってはいる。それに、正直、友達になりたい、のその一言がすごく嬉しかった。だってこんな俺と仲良くしたいなんて言ってくれたんだから。 …渡瀬をいいやつだなって思った。 そして、どぎまぎしながら(これは俺だけ)2人で適当に雑談していたら、そこに大野が戻ってきたというわけ。 「ほら、怒んないの、ごめんごめん」 「……あ…」 眉間に強くシワを寄せていた俺は、大野のその言葉ではっとした。 そして次の瞬間には、俺の眉間のシワを無くそうと大野が指で眉間を撫でた。 「跡ついちゃうよ〜」 「…ばっ…ばばばばばか…!なにすん…」 「えへへへ」 驚いて、バカみたいに動揺した俺をみて すごく楽しそうに笑う大野。 そして指が離れてく。 それを少し複雑な気持ちで見送ったけど、今きっと俺の顔は真っ赤だ。 それを渡瀬とかに見られるわけにはいかないので隠すために俯いた。 「大璃かぁわいい〜」 「…うっさい…っ!」 ◇◇◇◇ その日の帰り道。 相変わらずみんなとは一緒に帰っている。だけど俺はいつものように、騒ぐ仲間とは一線を置いて少し後ろにいた。 大野は中心にいるから話せる相手もいない。 自分から声をかけるっていうのも無理だから、どうする事も出来なくて俺は下を向いて地面を見ながらぼんやりと歩いていた。 …なんだかんだでこうゆうのに慣れた気もする。 初めは寂しいかな、なんて思ったけど、別に大野に無視されてるとか、虐めを受けているとかそうゆう事はないし。 ただ俺が声をかけられない意気地無しなだけ。 大野みたいに、俺も誰だって話せるようになれたら…そしたら友達だっていっぱい出来ていたはず。 ……本当呆れる。自分に。 誰にも聴こえないような溜め息をそっと吐いたとき、ふと声が聞こえた。 「…杉山!」 (…え…?) ……今誰かが呼んだ気がしたんだけど。誰?気のせい? 顔は下に向けたまま、辺りを探ろうと眼だけを動かした。でも後ろには見知らぬ人びと、 …これと言って特に誰も…。それに下校途中に俺を呼び止める奴なんているはずないんだが。 …やはり気のせいか。 考えてみれば"杉山"なんて名字 沢山いる。呼ばれたのはきっと違う杉山だ。 そうゆう考えに行き着いて、また視線を地面に戻した。 「おい杉山!!」 「……ひっ?!」 びっくりした。 誰かが突然に俺の腕を掴んだんだ。 驚いて顔をあげると、 「杉山無視すんな〜」 「え…?ゎ、渡瀬?」 俺の腕を掴んだのは渡瀬だった。え、杉山って、俺だったの? 「もう2回も呼んじゃったよ」 「あ…ごめ」 "ん"まで言い切らないうちに無理矢理引っ張られてく。みんながワイワイ話している中心に。 大野がいるところに。 渡瀬に強引に引っ張られて大野の横に連れて来られた。被害妄想かわからないが、周りの友達の視線を強く感じる気がするんだが…。 恐い、とすら感じてびくびくしていると、ポスっと俺の頭に大野の手が乗った。 「大璃ぃ、なんでそんな後ろにいんのさぁ!こっちおいでよー」 「ぉ…おーの、」 驚きつつ、なんだよ、って大野を見上げる。大野にだけは強気でいるから不思議だ。 すると大野はニコリとして、 「大璃は球技なににするの?」 …球技? あぁ、それで俺をここに呼んだのか。 視線をたくさん浴びるこの慣れない立ち位置にびびりながらも、そっと口を開く。 俺の中ではもう既に何にするか決まっていたから。 「……俺は、さ、サッカー…かな」 これが俺の唯一出来る球技かもしれない。 わからないからこそ、やるべきだろって思うけど、他のはルールだってよくわからない程だし。だからとりあえず安心出来るサッカーにしたかった。 「大璃はサッカーかぁ!」 なるほどね〜、と頷いている大野。 きっと大野はバレーを選ぶと思う。やってみたいって言ってたし、楽しそうだったし。 それだったら尚更、俺は安心出来るサッカーをやるべきなんだ。 大野とばらばらの授業はすごく嫌だけれど、仕方ない。知らない球技選んで、出来なくて、それで大野や色んなひとに迷惑はかけたくない。 「…─じゃあ俺も大璃と同じサッカ〜!」 「……………え…?!!!」 とか考えていたけど今………なんて…? 俺と…、同じ……? サッカーに…? 「そんな驚く? 俺はね、大璃と一緒がいいんだけど。だめかな?」 なんて。 困ったような笑ってるような。複雑そうな、でもめちゃくちゃ爽やかな顔で"だめかな?"なんて聞いてくる。 そんなの答えは 「……全然…っ、大野いてくれるの、助かる…」 喉から絞り出すように震える声で大野に伝えた。 すると大野は、ぱあぁあっと花を散したかの如く笑顔になって。 「大璃一緒に頑張ろーね」 「…お…おう…、っ」 "大璃と一緒がいいんだ" もう死ねそうだ。 大好きな大野にそんな風に言ってもらえるなんて、俺はなんて幸福なんだろう。 今なら何でも出来そうだ。 躍りだしそうな身体を抑えつつ、ぐっと幸せを噛み締めながら、大野の綺麗な横顔を眺めていた。 |