「大璃もだよねー」

「ぇっ…あっうん!」


"大璃"と呼ばれ、今ので会話の内容がぶっ飛んだ。大野に名前呼びをされるって慣れない!
…だけど名前で呼んで欲しい!

大野に呼ばれるとどきどきして平常心じゃいられなくなるけど、でも心地良いんだ。
複雑な男心だけどわかってくれるよな…?




そんな波乱(俺だけ)の晩飯も終えて、腹も満たされた俺らは布団の中でごろごろタイム。
俺はベッドで大野は臨時に敷いた布団だけれど。

普段、上から大野を見下ろすなんて出来ないからこの位置はなんだか新鮮だ。照れ臭い反面少しの優越感。


「…大璃なんか嬉しそう」

「今大野を見下ろしてるからね」

「ふふ、見下ろされてる」


幸せそうに にこ、って大野が笑った。
なんだよ、その幸せそうな顔は。まるで見下ろされてるのが嬉しいみたいに…。もしかして大野はどMとか?
…って、そんなことはないか。だって大野だもんな。



「ふわぁあ…」

そんなこんな大野を観察しているうちに大野が大きな欠伸をした。時計を見ると11時をまわっている。


「眠いなら寝ろよ。今日は疲れたろ」

水泳とかやったしな。大野はどうかわからないが俺の身体はもうくたくた。だいぶ運動不足を実感させられたよ。

そう言うと大野は ふわぁ、とまた欠伸をして、

「…そうしようかな、」


涙眼で俺を見上げてきた。


「…っ(くそぉ)」

見上げられた瞬間、心臓がばくばくして俺は気を紛らわそうと傍にあった漫画を手に取ってぱらぱらと開く。

でも見よう、と思って開いた訳じゃないからすぐにページがなくなり、ぱらぱら出来なくなる。


(…傍に大野がいるってだけで、なんでこんなに取り乱してんだ俺…)

紛らわしの漫画も使えなくなった俺は大野にバレないように、そっと深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着けて。

ちらり、と下にいる大野を覗いた。


「…すー…」

あ、もう寝てる。早。
だったらさっきの俺の行動、全部無駄だったんじゃね…?
と思ったが、大野の寝顔を見たらそんなことどうでもよくなった。


…前は、昨日までは大野の事、友達としか思ってなかったのに。
どきどきも緊張もしなかったのに。今は大野の顔を見るだけで、胸がきゅうん、とする。苦しくなる。


俺は眠ってる、大野にベッドから手を伸ばした。
指先が大野の柔らかい真っ直ぐな髪に触れる。それにも少しどきっとして。


「……大野…」

まさか、俺が男友達に。
しかもこんな変わった奴に恋するなんて思わなかった。
男友達に、ってところが我ながらショックだったけれど普通に、こんな純粋にどきどきされたら認めざるを得ない。




けして実ることのない、思いだってわかってるけど今だけは、どうか。

俺は大野が眼を覚まさないように、小声でそっと呟いた。



「(……好き、だよ)」








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