目付きの悪い眼。
初めて会ったとき、俺はこの眼が大嫌いで。大野はなぜか勝手に俺の席に座ってたくせにその上睨まれて。
意味のわからないこいつが苦手で…とゆうか大野が嫌いだったんだけどね。


それなのに今、お前の眼をみるとどきどきして苦しくて。どうしようこの状態。

「…ぉーの…」

今、こんなにも近い。この近さだったらキスだってできる。

…してしまおうか。


「……杉山」

その声ではっとする。

「……なに…」

「やっぱり…俺のこと嫌?」


…………え?

予想もしていない大野からの言葉。大野が嫌ってなに。もしかして今日勝手に帰ってきちゃった事か?それなら…

「なんつーか、…杉山、もう怒ってないって言ってたけど…なんかいつもと違うし」

「……大野…」

「杉山眼も合わせてくれなから…、だから俺の嫌なとこ、あるなら言って!俺バカだからきっと自分じゃ気づけない!」

珍しく悲しそうで必死な大野。あれ、大野ってこんな顔するんだ…。
それに俺の不自然な行動も大野にバレてるじゃん。
でも、そりゃそうか。あんなに急に大野に対する態度が変わったら普通そう思うか…。

俺は大野の眼をみた。
今日、大野を好きだと感じてから初めて眼を合わせた。
大野のその眼にはいっぱいに俺が写っていて。嬉しかったけど、色は悲しそうだった。

…違うんだ大野。怒ってそうゆうことしてるんじゃないんだ…ただ、

「……ごめん」

「杉山?」


「別に大野に嫌なとこなんかないよ?」

「え?ほんとか…??」

「ああ。前はすげぇ変なやつって思ったけど」

これが今の俺にできる精一杯の笑顔。

……だって無理だよ。言えるわけない。"大野が好きになってしまったから"なんか言えるわけないじゃないか。


「それに、俺は大野の事、嫌いになんかならないから安心して」

これはきっと大切な事だし、本心。だから、恥ずかしいけど眼を見てきちんと伝えた。

「………」

「…大野…?」

大野はそれを聞いてすっかり黙ってしまった。
あ…もしかして気持ち悪がれてる?嫌いになんかならないとか言ったから?!
そうだよな、何言ってんだ俺は。好き嫌いって俺と大野じゃ違うんだもんな、
ああああどうしよう!
でも取り敢えず謝ってっ


「ぁぁっごめ「杉山っ!!!」

……え?!」

突然大きな声で名前を呼ばれ、びくりと身体が反応する。
大野をみると、凄く嬉しそうな、満足そうな顔をしていた。

(……?!)

「俺、杉山に好かれてないと思ってた!だから、今の言葉、すごく嬉しい!」

ぶわっと。
辺りに花が咲き乱れたかと錯覚を起こすぐらい、大野が盛大に、綺麗に笑った。


「…そっ…そうか…っそれは良かった…っ」

(…かっこよすぎるって)

内心、いい意味で大野を恨めしく思った。その笑顔に何故かこっちが照れくさくて、眼をさ迷わせて、再び気づく。


「…ぶっぁ゙…っぉの!」

「?」

言葉にならない悲鳴(?)をあげ、俺は急いで両手で顔を覆う。
そうだった!!
大野全裸!!!!!!!


「どうした?杉山?」

でも大野はわからないというふうにきょとん顔で聞いてくる。

全く、大野は疎い!!!

俺は顔を片手で隠しながら、怒鳴る。

「ぉっ大野!!俺っリビングで待ってるから!!!」

精神的にもう無理だ!!!!
耐えらんない!!!!
それだけを言い残し俺は洗面所を飛び出した。









「………っもう…」

洗面所を飛び出して、リビングに駆け込む。その勢いでソファーに飛び込んだ。

乱れた心拍と呼吸を少し落ち着こうと、瞼を閉じる。だけど、そうすると大野のあの姿が蘇ってしまい、余計に心臓が興奮してしまう。

(だめだ、落ち着けないっ)

きっと真っ赤であろう俺の顔を両手で覆う。
…見ちゃった。
見ちゃった。大野の全……。今日寝れねぇかも…


「なんかあったの?大璃」

「!!?」

突然近くに現れた俺の兄貴。なんだよびっくりしたなぁ…。
だが確信犯か、兄貴はにやにや、怪しい顔をして

「あれぇ?顔真っ赤だよ〜?大璃ぃ〜何があったの??」

「…あっ…ぇあ、なっ何も、何もねぇよ!」

「…ふふふ…ああ!わかったあ!大野くんの裸みちゃったんでしょ!」

顔にすぐでる俺。
あっさりとばれてしまう。


「なっ!ばっ…ばかっ!!兄貴言うなよ!」


「いいじゃん〜今いないんだし〜!
も〜大璃ったら純情だねぇ〜可愛いねぇ〜」

「うっうるせえよっ!」

いつまでも冷やかしてくる兄貴の口をバッと両手で塞いだ。

「…むごっ…やっ…やったな大璃!」

それにやり返してきた兄貴がなぜか俺のズボンを下ろそうと手をかける。


「…ちょっ!兄貴それはなしだろ!」

「ありだよ〜!」



ばたばたと2人でもみ合って床に転がる。
なんだか幼少の頃に戻ったみたいだ。
よくこうやって喧嘩したなぁって。





「お風呂ありがとうね」

「…あ!大野!?」

もみ合っている内に、どうやら大野が風呂から出てきたらしい。
濡れてしっとりした髪がとても可愛くみえる。

そして、心配だった俺のTシャツ。
結構普通に着こなしちゃっているが、やはり丈が足りないようで、少し腹チラしてる。


俺は急いで兄貴から退けて、下がりかかっていたズボンをあげた。


「杉山と大樹さんって仲良いよね」

「…んなことないけど」

今のは兄貴が変なこと言うから…!
ぱっと大野をみると、さっきの光景を思い出してしまう。

俺は顔を真っ赤にして大野から眼を逸らした。


「あ、…そういえば杉山家で杉山って呼ぶの変だよね。」

「…え?あ、まぁ…そうかな」

「だから大璃って呼ぶね」

「…え?…えぇ!?」


あっさりと言うから一瞬理解出来なかったけど…今なんと!?

お、俺のこと…


「…な…名前で…?」


「うん。大璃って呼ばれんの嫌?」

「…いっ!いやいやいや!!全然嫌じゃないよ!」

「そっかっ!なら良かったっ」


どうしよう?
大璃だって。
大璃って呼ばれちゃう。
下の名前で呼ばれちゃう。


どうしよう、こんな急な展開…、
すごく嬉しい…。



どきどき喜びながら
兄貴をちらりと見ると、すごくにやにや笑っていた。

…兄貴のやろう!






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