「兄貴!フォークと皿頂戴」

俺がリビングに入り、兄貴にそう叫んだ。
兄貴は、俺の噴いた牛乳を吹き終えたのか、キッチンに立って晩御飯を作っていた。

「お皿とフォーク?」

「大野がケーキくれた」

そうゆうと、兄貴はいきなり食いついて。

「いいなぁ!僕も食べたいっ」

と、予想通りの事を言ってきた。だって兄貴甘いの大好きだもんね。
だけど、このケーキは大野と今一緒にいるってゆう理由のために必要だから。

「だーめ。大野と食べるんだもん。兄貴には今度帰りに買ってきてあげるからさ」

そうゆうと、兄貴はすごく嬉しそうに

「わーいっ!大璃大好き〜!」

と、大いに喜んで。俺にフォークと皿を2つづつ渡してくれた。

「ありがと」

任務完了、俺はさっさと廊下で待たせている大野のところに戻ろうとした…ら。

「ぁ、大璃」

「何?」

呼ばれたから、振り向いた。すると兄貴はなんだか妖しい笑みを浮かべていて。囁くような声で、


「早く身体拭いて、服着た方がいいよ。大野くんに襲われちゃうかもね?」

「…な……っ?!」


「さぁ、行った行った」

突然のその言葉に驚いて混乱してる俺なんかスルーして、兄貴は俺をリビングから追い出し、さっさと扉を閉めた。


「ぉっ…襲うってなんだぁあぁ!!」

「なんだろうね」

「うぉお…っ?!」

そうだった。廊下に大野待たせてたんだった。
それなのに俺ったらなんて事を大声で……。


でも兄貴がいけないんだ。
"大野くんに襲われるよ"
なんてゆうから…!


「あはは、杉山ほっぺ真っ赤ー」

「…っ!あぁっもう!上行くぞ…!」


それをちょっと想像しちまったじゃねぇか!



◇◇◇◇







『大野くんに襲われちゃうかもよ?』

兄貴の言葉が耳から離れない。
…なんだよ。

何?襲われるって何?
ヤられるって事?男に?男と?
この流れで行くと、俺が大野をヤるなんて絶対無理だから俺は確実にヤられる方…?

え、?それって…


「…俺…掘られる?」

「ほる?」

「!ぅあぁぁぁあ…っ!」
やばい。口に出してた。
俺は急いで口を手で覆い。


「何何?ほるって」

でも大野は気になるのか無邪気な笑顔で聞いてくる。

…こんな純粋で真っ白な大野。なのに俺は、脳内でとんでもなく下品な事を考えて…。
なんか、大野にすごく申し訳無く感じた。


「なんでもないって」

俺は気持ちを切り替えようとケーキの上に乗っていたイチゴを、パクリ、と食べた。

「そうなの?」

「そうそう」

うん。やめよう。
そんなやらしいこと考えるの。別に俺はヤりたい訳じゃない。ただ、純粋に大野が好きなだけなんだ。



かつん、


……あ。
金属と陶器がぶつかる音。ふと、気付くと大野が持ってきてくれたケーキは2人とも、もう食べ終わってしまっていた。


…そうしたら大野が帰ってしまう……。
そう思うと悲しかった。
まるで彼氏と別れるのが寂しい彼女の気分だ。


「いやぁ、なんか突然来ちゃってごめんね」

なんだよ。
もう帰るのか?
行くなよ。もっと、居ろよ。

「じゃあそろそろ」

嫌だ。
帰るな。

大野が立ち上がって、

いやだ、いかないで


「…大野!」

「……え?」


「…今日…泊まってけよ」






別に下心があって"泊まってけよ"って言ったわけじゃない。

なのに、なのにこんなに恥ずかしいのは何でだろう。

でも大野といえば、折角俺が誘ったってのに、困った顔をして。


「でもなぁ…」

大野らしくない反応だ。なんでそんな躊躇すんだよ。いつもだったら喜んで泊まってくのに。

「…嫌なのか?」

俺は、そんな大野をじっと見ながら。そうしてやっと、気まずいと思ったのか、口を開いた。

「俺、まだ風呂入ってないし、ご飯も食べてないんだよ。だから…」

「なら俺んちで済ませばいい」

そんなことか。
それなら俺もわかっていたぞ。だって、お前まだ制服姿だから。
きっと、急いで家に帰って、荷物だけ置いて着替えもせずに俺ん家に来たんだろう。大体わかる。

そう言っても、大野はまだ悩んでる。

「え、でも悪い」

「いいよ。どうせ親遅いし、兄貴と2人だけだもん。」

だから泊まってけ。
と、半ばしつこいくらいにに言えば。

「じゃあ…。杉山ん家が大丈夫なら」

やっと大野はにっこり笑顔になった。

やった。
これでまだ一緒に居られる。
さっきまで、
大野を泊めるだなんてありえないと思っていたのに。
今じゃ俺が必死になって泊めようとしてる。
はは、なんか面白いな。




◇◇◇





「兄貴!」

「んー?どしたの?」

俺はリビングで寛いでいた兄貴に声を掛けた。

「大野泊まってくって!」

「ほんと?!」

その言葉を聞いた瞬間、兄貴はぱっと顔を輝かせた。
…ほんとに大野のこと気に入ってるんだな。

「でも大野、風呂もご飯も済ませてないから、用意してくれる?」

「御安いご用!腕によりをかけて作るよ!」

満面の笑みで腕捲りをする兄貴。

「頼んだ」

さぁて…後は兄貴がやってくれるし…。俺は、部屋で待っている大野の元に戻った。


「大野、」

「ん?なぁに?」

ゲームをしていた大野の隣に腰をおろして。すると、大野はゲームを止めて 話しを聞こうと俺の顔をじっとみた。
(そんな見つめられると照れるんだけどな…)


顔が火照るのを感じながらも俺は聞かなきゃならないことがあるので我慢して言った。

「…あんさ、先、飯にする?それとも風呂にする?」

……っなにこの新婚みたいな質問。
言ってから気付いた。なにこれ自分で言っててめちゃくちゃ恥ずかしい…っ

そんな照れた俺を見て、大野はふふ、微笑みながら。


「杉山がいいなって言ったら?」

「……ぉっ…俺ぇ?!」

大野は冗談で言ったのだろうけど…。俺は驚きのあまり、ストレートに受け止めてしまって。

「そんなっ…俺…っ」

俺がいいな、なんて…。
いいななんて言われて俺は何をしたらいい?!
ナニをすれば?!とりあえず脱げば?!


「はは、杉山、顔真っ赤だよ?」

慌てている俺を宥めるようにぽんぽんって、頭を撫でられた。
それが、"冗談だよ"って言っているみたいでさっき以上に恥ずかしくなった。


「ぃ…っいいから早く風呂入ってこい!」

頭を撫でる手をべしッと退かし、大野を引っ張り立たせる。

「えー。杉山くれないの?」

「もっ、…もうそれは終わり!」

これ以上俺をいじめないでくれ。全く心臓に負担がかかってしょうがない。


「(冗談なら…やめてくれ…)」

「ん?なんか言った?」


「……なんでもない。
さ、下行こう」









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