『2年2組の水瀬貴裕くん、至急生徒会室までお越し下さい』

HRが終わった直後、俺の予想通り呼び出された。
前回は散々呼ばれても行かなかったが、今回は要件が要件なだけにきちんと一回で行ってやる。
俺はガタリと席を立った。




昨日、身体に指導と称して生徒会長にレイプされ、そしてその録画映像を盾に服装を正して来いと脅迫までされた。
もちろんあいつらエリート街道まっしぐらみたいな奴の言うことなんて聞きたくもないが、あの映像…あの乱れに乱れた俺の姿を学校生徒にバラす等と言われては頷くしか方法はなかったんだ。

だから俺は生徒会長、高崎の言った通りに服装を正して来た。
髪も黒く染め、ワイシャツもきっちりと着、ボタンも閉めた。唯一ネクタイと校章が見付からなくて焦ったが佐和の野郎にネクタイは借りて校章は(小さいし)何とか誤魔化す事にした。
こんだけ正したんだ。情状酌量ぐらいしてくれんだろ。

そんな俺の見た目のあまりの変化に友達には気持ち悪いと言われ、クラスの奴らには気味悪がられてしまった。
俺だって気持ち悪ぃよ!と思いながらもこの俺が生徒会長の言うことを聞いたなんてとてもじゃないけど言えなかったから適当にはぐらかしたけどね。




……そしてとうとう生徒会室前。確か生徒会以外の奴等は開けられないんだっけ。昨日のアレで学習した俺は、ドアを叩いた。

…暫くして声が聞こえる。


『もっと優しく叩け。この乱暴ものが』

この声は昨日の失礼な爽やか野郎だな。ぎっとドアを睨んでいるとゆっくりと開き、やっぱりあの野郎が顔を出した。

「会長がお待ちだ」

中へ招かれ、一歩、また一歩と生徒会室の中へと入る。
…中に入ったら生徒会の奴等の持ってる鍵がないと出ることも出来ない。要するに逃げられない。
だが俺はこうして服装を正して来たわけだし、すぐに出してくれるはず。いや、そう確信していた。
だからびびりもせずにズカズカと歩き、生徒会長の前に立った。
相変わらず無駄にイケメンで腹立たしい。


「やぁ水瀬。身体の具合はどうかな?」

「どうだっていいだろ」

王子スマイルで暢気に話しかけてくる生徒会長にイラッとした。
たかが服装チェック。お前が、来なかったらバラす、みたいな事を言うから来てやったものの、俺からしてみれば"たかが"だ。
けどわざわざ来てやったのだから早くしろ。俺としては早く終わらせて帰りたい。

「酷いなぁ。僕は君の事心配しているのに。昨日、君はハジメテだったわけだし?」

「黙れ!」

その言葉に身体がカッとなる。

「はは、照れてるの?耳まで赤いよ」

「うるさい!」

いちいち俺の気に障るような事言いやがって!
噛み付くように睨んでやったがどうやら高崎には効果ゼロらしい。あの王子スマイルのままだ。
それが余計腹立つ…!が、ここは堪えて……。

俺は両手を広げて服装を高崎に見せた。

「これでいいんだろ」

ちゃんと正した。言われた通り髪も戻した。校章がないけどそれはまけてくれ。俺は自信満々に見せたが、



「いいわけ、ないよね?」


「………はぁ?!」

予想外の答えに間抜けな声を出してしまった。でも今はそんなことどうでもよくて。…"いいわけない"だと?

「…ってめぇどうゆうことだ!お前の言う通り直してきたじゃねぇか!」

「確かに、髪はいい色だね」

「ふ…ふざけんな!」

意味わかんねぇ事言いやがって…!これだからエリートなんてやつは嫌いだ!
未だにニコニコ笑っている高崎が許せなくて…。
俺は抑えきれずに高崎に殴りかかった。

だがその拳は綺麗にかわされ、流れてしまった俺の身体を近くの真っ白のソファーへと突き飛ばした。
……まさに一瞬の出来事。頭が着いていかなくて、俺が今の一連を理解したのは仰向けになる俺の上に高崎が跨がってからだ。


「っおい…!なんだよ!」


「これで言う通り直してきたなんか言うんだから君は」

俺を上から見下す高崎。
その視線にほんの少しゾクリとした。

「校章はないしワイシャツはスラックスから出てるし上履きの踵は踏んでるし。
そもそも、このネクタイ君のじゃないよね?今日ずっと君ネクタイしてなかったし。確か佐和くんって子に借りたんでしょう?」


俺は目を見開く。
………全部、バレてる。
ダメな所も校章も佐和に借りたネクタイの事も。

「そんな君を僕は合格、なんて言って帰すと思う?」

高崎の口許が得意の弧を描く。


「不合格だったら罰としてあのビデオ、全生徒にバラそうとか思ってたけど止めた。それはまた今度ね。
今回は君の身体で罰を受けて貰う事にしたよ。ちょうど、今僕の下にあるしね?水瀬の身体が。」

あいつの冷たい指がそっと触れた。