まるで貪りつくように紫さんを突き上げ続けた。
今まで欲し続けた身体が目の前にあるのだから当然と言えば当然の行動なのかもしれないけれど。
互いに求めて、貪って。
エッチでこんなに熱くなったのは初めてかもしれない。



……でも実を言うと、その時の記憶があまり残っていないのだ。
あまりに熱中していたせいか、理性もとい記憶さえも飛んでしまったようで。

はっと気がついた時には僕は紫さんの腹に出してて、紫さんは精液だらけになりながら意識を飛ばしていた、という状況だった。




「……紫さん」

ほんとにあの紫さんとエッチしたなんて未だに信じられない。
酔った勢いで、なんてよくある話だけど まさか僕と紫さんが。
更に襲ってくるなんて。


……紫さんに一目惚れして、お付き合いしてからずっとエッチしたいと願っていたんだと思うけど、でも…。望みがようやく叶ったというのにやっぱり、心の底から嬉しいなんて思えない。


「…………」


『こうゆう事するのは、俺の意思やから』

……本当なのかな。もし、それもお酒の力で言ったのだとしたら…
酔いが覚めた紫さんは…一体どう思うのかな。

隣ですやすやと眠る紫さんを静かに見つめていた。





◇◇◇◇◇






情事が終わって数時間くらい経つというのにぼんやりと天井を眺めていた。が、そういえば明日仕事が入っていたんだという事を思い出してベッドから飛び起きた。

時計を確認すると夜中の3時過ぎ。

…これから僕ん家に帰っても少しくらいは寝る時間はあるだろうか。素早くシャワーを浴びて即行ベッドインすれば間に合うかな…。


やばいやばいと思いつつも癖で
んー、と伸びをしてベッドから這い出た。
そうすると、さっきまで感じていた体温がなくなって少し寂しくなる。

さっきまで隣にいた、紫さんの頬を撫でた。すやすやと安らかな表情で眠ってる。その寝顔は、更に彼を童顔に見せ、とても30近い男にはみえない。
それに癒され、自然と笑みが溢れた。



「……また…後で」

小声で紫さんにお別れを言って、怪しまれないように自らの身形をきっちりと整えてから、紫さんの寝室を出ようとした。

その時、


「………ん…誰や…」


ビクリ、と身体が跳ねた。背後でモゾモゾと布団の中で蠢く音がする。


「…?鹿ぁ?…なんでいるん…?」




だるそうに布団から顔を出した紫さん。
口調から察するに、どうやら正気に戻ったらしいかった。


「……お、おはようございます」

「…おはようちゃうやろ…。なんで鹿居るん?俺招いたっけ…?」

「……あ…いや」

「……っ!なんや?なんで俺全裸やねん?つかめっさ身体痛いんやけど…」

身体を起こしかけた紫さんの顔が痛みに歪む。

やばい、ばれるんじゃ



「……すみません、」

「…は?何でお前が謝るん…」

居たたまれなくなって自然と口から謝罪の言葉が溢れてしまった。
紫さんは一瞬訳のわからなそうな顔をしたけれど、すぐに思い当たる事があったらしい。次第に表情が強張って。




「……鹿…お前…まさか」


「あ…。……す、みません……」


「……俺に……」

「…申し訳な……」



「………っ最低や…」




紫さんの声は震えていた。そして心の底から絞り出されるようにして発せられた"最低"という言葉が、深く僕の身体に突き刺さった。

その痛みからか、後悔からか判別はつかないが、気づいたら僕は情けなくもぼろぼろと涙を流していた。


「…し…紫、さん…」

「……………俺が酔って潰れてた所をチャンスとばかりに襲ったんか」

「………っ」

「…どうなん?」

「………」

「無言って事は事実なんやな」


「…………」



僕はただ涙を流しながら俯いていることしか出来なかった。
紫さんの言っていることは紫さんにとっての事実だ。幾ら紫さんから誘ってきたと言っても酔っていたからと言われればそれまで。紫さんがそのことを覚えていないのだから"無理矢理襲われた"と同じになってしまうんだ。

だからこうやって言われても反論も弁解も出来ない。理性を保てなかった僕にも大いに責任はあるのだから。


そんな重苦しい空気の中、紫さんが静かに呟いた。



「………──信用、しとったのに。」

「……っしおさ」

「………唯一無二の相方やと…思っとったのに」

「……ぼ、僕は…」




「…………もうええ。出てって。…鹿島」











◇SIDE:紫


「……………」

ガチャリ、と俺の部屋の扉が閉まる音がいやに大きく響いた。
鹿が出ていった音だ。



………犯された。
それなりに、信用していた相手に。
それだけにショックは大きいもので。

「……裏切られた…気分やわ」



『付き合って下さい』
そう言われた時は大層驚いた。相手は相方だし男だし。何言うてんねん、ふざけてんのか?と返せば鹿は首を横に振り、真っ直ぐに『紫さんが好きなんです』と笑顔で言った。

考えてみればその頃から鹿は俺に対してそうゆう"想い"があったのだと思う。

でも鹿は 時々熱い視線で俺を見てくるだけだし、迫っても来なかったから俺は対して気にもかけていなかった。
そんな日が長く続いたから、俺は安心してしまって。『鹿は何もしてこない』と勝手に決めつけていた。

だから、
今回、こうやって犯されたのが裏切られたみたいで余計にショックだった。


「…鹿の、ばかたれ……」

ああもう、身体も心も痛い。どないしてくれんねん…。仕事、どうなるんかな…こんな仲になってもうて、楽しくコンビの仕事なんて出来ひんよ…。


うだうだと柄にもなく考え込んでいたが、ふと枕元に置かれたワイシャツを見付けた。
綺麗に畳まれたそれは俺のワイシャツ。

「あのやろう…律儀に畳んで行ったんか」

くそ、俺からワイシャツ無理矢理剥いだくせに何して……─





そこまで思って、ピタリと俺の動きが止まる。


………………あれ……?




無理矢理剥がされた、だよな?だって鹿に強姦されたんだし…

なのに、

なのになんで自分でワイシャツを脱いだ記憶があるんだ…?




「…わあああ」


俺は恐くなって頭を抱えた。
だって俺の知っている俺の行動をしていない。
自らワイシャツを脱いだ?嘘だろう?
だがしかしそうした記憶が確かにある。

「……なんで……」


恐い。これ以上思い出したくない。と思うが
記憶、と言うものは恐ろしいもので、
一つ思い出してしまうと芋づる式に次々と他の記憶が蘇ってきた。


帰ろうとする鹿を自分で引き留めた事、
自分で衣服を脱いで誘った事、
自分で……止めようとする鹿を無視して挿れた事…。





「………嘘…やろ」


酔って忘れていた記憶全てを思い出した。
しかしそれは衝撃的な現実で。俺はただ愕然とした。


「…俺が……鹿襲ったん…?」