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………ゆっっくりと意識が浮上した。
これまたゆっくりと瞼を持ち上げれば、部屋の端で数時間前見たくパソコンを弄る兄の姿があった。
…あれ、もしかして夢だったのだろうか。と思う程に今まで通り、いつもの光景だった。
しかし、自らの手首をみて、夢ではなかったと知る。
「──……おい」
「!?、ゆ、祐輔、」
俺の声にびくりと身体を震わせ兄がこちらを向く。
そこには、人形を壊した時の眼の座った兄も、セックスをしていた時の少し積極的な兄も居なかった。
いつもの、本当にいつものなよなよした兄。
「もう…、大丈夫?」
いそいそ、と近付いていて床に座る。
「…身体中だるい…起きたくねぇ…」
「そっか…、ごめん…あの、僕「あのさぁ喉渇いた。なんか飲みもん」
兄の言葉を遮った。今は聞きたくなかったからだ。
飲み物を要求され、兄はベッドの近くに置いてある小型冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、俺に差し出した。
「はい、」
「…起きたくないんだよ」
「……。じゃあ今コップか何かを、」
「…いらねぇ」
「─え?」
あー疎ぇ。疎ぇ疎ぇ。
焦れったくてイライラしてくる。
「あーもう早く飲ませろ。何でもいいからさ。なん、で も。」
敢えて最後を強調してやった。これは俺の優しさだ。
すると、兄は少し悩みながらもミネラルウォーターのキャップを回し、
自らの口に含んで、
「……ん…」
「……これで良かった…?」
「もう一口」
あぁほんとまじ焦れってぇ。この疎ぇオタク野郎め。
「…なぁ」
「、ん?」
「なんで俺にあんな事したの」
ベッドに寄っ掛かってどこかを眺めていた兄の肩がびくりとする。
俺はその姿を静かに眺めていた。そして、言いづらそうにしながらも口を開いた。
「……始めは、あんなことするつもりはなかったんだ、。ミクアちゃん壊されて、頭に来ただけで…。
でもね、祐輔縛って どう痛みを分かって貰おうかなんてお尻弄ってたら、…その、ムラムラ…してきちゃって…」
それで…。なんて、眼がさ迷いまくってる。
本人も罪悪感は感じているようだ。
「…あっそぅ」
「…─え?」
「は?」
「……いや、な、殴られるかと…」
殴る?はぁ?と俺が口を開けば、兄はビクついた。
なんだこいつ。抵抗する俺を抑えつけたときの強引な兄はどこいっちゃったわけ?
それ程に今の兄とはギャップがありすぎる。
「……別に殴りゃしねぇよ」
「…?」
「俺も感じてたもん。気持ち良くって嫌じゃなかった」
お前は?と聞けば、驚きながらもこくこくと頷く兄。
「ならいいじゃん」
ならいい。なんて兄に犯された癖に頭おかしいよな。俺もショックを受けてない訳じゃない。男に掘られて死にたくなった。
でも、それなのに感じまくったのも事実。
すごく頭の中がぐちゃぐちゃになって、どうしたいのか俺にもわかんなくなったけど、
俺はバカだから。
≪気持ち良かったからいい≫
と勝手に考え事を終わらせた。だから兄の事も責める気もない。殴る気もない。そうゆう事。終わり。
高校に行っても遊んでばかりいたからこんなバカなんだろうな俺。まじ笑えねぇわ。はは。
「あ、そーいやさぁ。あー、なんだっけ。えっと、あ…くあ?あくあちゃんだっけ?あれどうなった」
「ミクアちゃんですが」
あーそれそれ。
存在忘れてたけどそもそものこの事の発端だ。あいつが割れたからこんな事態になったんだ。
…割れたからっつっても俺が壊したんだけど。せめて、末だけでも聞いておくとする。
「…さっき、手術したんだ。でも怪我が酷くて…完治は無理そうだった」
「…は?」
一瞬何の話だ。
と思ったが、どうやら、修理したけど完全には直りそうもないって事らしい。
ったくめんどくせぇ。人形を人間に例えた風に言うんじゃねぇよ。
…とは言わなかった。俺も学習能力はある。
「…だから、仕方なく…ミクアちゃん2代目を置いた」
「…に代目…?」
その言葉に、俺は、始めミクアちゃんが置かれていた棚に眼を向ける。
そこには…、まるっきり同じ形の同じ色の同じ大きさのミクアちゃんとやらがいた。
あれ───?
「非常用ミクアちゃんがいたから良かったけど…いなかったら今ごろ…」
非常用?
なに、それは。
「ディスプレイ用、BOXディスプレイ用、保管用、非常用。マニアにとってこれは常識だよ」
「は?じゃあ、まだあと3つも同じ人形があるって事かよ?!」
「うん」
「…………。」
……ありえねぇ!他に3体もあるっつーのにあんなに怒ったのかよ!
初めに味わされた痛い思いって一体…。
少しだけ感じてた俺の罪悪感、返せええ!
「この割れちゃったミクアちゃんだけど、祐輔、部屋に飾る?あげようか」
「全力でいらねぇよ!」
俺と兄と美少女と
END