今日、楽屋で鹿と抜き合いっこをしてしまった。
いや、つい、
つい、キスしてたらお互いムラムラしてきてしまって…ってゆうのが経緯なわけで。
けして端から楽屋でヤるつもりだったとかそうゆうのは本当になかったから、うん。

……と、誰に向けて言い訳をしてるんだか俺ったら。
ぼう、と赤いランプの点いたカメラをみた。


………って今収録中だった!
はっとして、急いで頭を空っぽにする。背徳心からか言い訳をしてしまっていたが、とりあえず今はバラエティ番組の収録中だ。
集中せなあかん!集中や集中!
と、自分を叱咤して頭を切り替えてモニターに視線を直した。



◇◇◇◇◇





『はーい、では休憩入りまーす』

と、スタッフの声がスタジオに響いて 俺達は皆、ふぅと息を吐き出す。
ずっと身体に張っていた緊張を弛めたのだ。


「んーっふぁ〜、伸びってこんな気持ちよかったっけ」

ずっと座りっぱなしの撮影だったから久し振りに立って身体を伸ばすとすごい気持ちよかった。
俺が伸びをして自由に過ごしているように、休憩に入ったので他の出演者達も思い思いに動き始める。
喫煙しに行ったり、間食を摂ったり。席で他の出演者と話している人もいる。

それを見て、コンビで固まってるんじゃなくて俺も別の誰かと話がしたくなった。
ふと頭によぎったのがモデルの流依くんだ。
俺の周りにモデルの友達なんていないから色々話しを聞いてみたい。それにとてもいい子そうだし、もう少し仲良くなりたい。

よっしゃ、じゃあ流依くんのとこいこ、と立ち上がり、一緒にどうかと相方の鹿も誘ってみた。

「なぁ鹿。流依くんのとこ話しに行ってみようよ」

「…え?」

そう誘ってみると、あまり乗り気そうじゃない顔をされた。鹿がそんな顔するなんて珍しい。

「……(え?何、お前流依くんあんま好きやないの?)」

「(…え、いや、別にそうゆう訳じゃ…。)」

「(バレバレやて。なんで乗り気やないねん)」

「(……ちょっと、好きじゃないだけです。特に理由とかはないんですけど、その、…直感的に)」

「へぇ〜…」

本当に珍しい。
人懐こい鹿が懐かないなんて。

「…まぁ、でも一緒に行こうや。実は話してみたらええ奴やったって場合もあるやん。な?」

ぐいぐいと半ば無理矢理に近いくらいに説得すれば、渋々と言うように鹿は頷いた。
そんなに嫌なのか。とか思いながらも俺は鹿を連れ、スタジオ内を探す。

「確か流依くん、こっちの方でなんか飲んどったけどなぁ」

この機材とか資材とか小道具とか。テレビに映る所以外は物がたくさんあって工事現場みたいになっているから少し危ない。まぁ触れなきゃ問題などないだろうが。

…すると、スタジオの端の方に立っている彼の姿を発見した。ペットボトル片手に携帯を弄っている。…しかしその彼のすぐ後ろには、セット裏の壁に立て掛けられているいくつもの鉄パイプが。よくみたら固定などされていないよう。

……なんか嫌な予感した。早く声を掛けてそんな危ないところから流依くんを離さなければ、と俺は駆け足で近付く。

「流依く…」

そして声を掛けようと名前を発しかけた時、
立っていた流依くんが脚を組み替えた。その組み替えた脚が後ろの鉄パイプにぶつかって、

ぐらっとパイプが揺れた。
のと同時に立て掛けていたパイプが倒れ始めて、その事に気づいた流依くんだけどもう避けられる余裕なんてなくて、

「…!!」

「流依くん!」


何を思ったのか気付いたら猛ダッシュで流依くんのところへ掛けていて、次の瞬間………、


がしゃーん!!



「しっ…紫さん!」





咄嗟って恐ろしい。
あんな状況で飛び込もうなんて思った俺、だいぶすごいと思う。


「……ってぇ」

「……あんた…っ」

流依くんを庇った…とゆうのか。咄嗟に身体が飛び出して、流依くんを押し倒し、彼の代わりにパイプを受けてしまった。
ただ倒れてきた、といっても鉄のパイプだ。ぶつかったところがジンジンと痛い。
彼の胸板の上で小さく呻いた。


「紫さん!紫さん大丈夫ですか!」

すごい必死の鹿の声が聞こえた。

「…あー…鹿?」

「紫さん!」

俺に駆け寄り、身体に乗っかった鉄パイプを退かしていく鹿。そして全部退かした瞬間、流依くんから俺を引き剥がして、ぎゅっと抱き締めた。

「?!っ痛!痛いから鹿!」

「あっ…すみません」

無意識だったのか 俺がそう言うとそっと力を抜いた。でも途端泣きそうな声になって、

「…良かった、無事で…」

優しく、俺の頬を撫でた。

「……鹿」

その優しい手付きに、つい笑みが零れた。本気で心配した、ってその手付きと顔に書いてある。本当にお前は優しいな…


『大丈夫ですか?!』

完璧に恋人モードになっていた俺は、スタッフ達の声で我に返った。どうやら鉄パイプの落ちた大きな音でスタッフ達が集まって来たらしい。
そのスタッフ達に何があったのか、と問われ鹿が状況説明をする。

「紫さんが流依くんを庇って…」

なんかそう言われると恥ずかしいな…とか思いながら、その間に俺は未だ座り込んでしまっている流依くんの傍にいった。
彼は俺を見るなり信じられないとゆう顔をして、

「…あんた、なんで…」

「なんでやないやん。流依くんが危なかったから」


「それで自分が怪我して」
…突然の事に驚いてからか、流依くんは敬語とか忘れてしまっているようだ。


「大した事やないもん。大丈夫。、それよか
流依くん怪我ないか?身体とか痛いとこない?あの時どっかぶつけんかった?」

頭から脚まで、それからまた見上げるように流依くんを見れば、何故か複雑そうな顔をしながらやっと落ち着いたのか、「大丈夫です」と小さく言って俺から離れた。


……あれ、もしかして迷惑だった?
俺を避けるというそのあからさまな行動にグサリと傷付く。でもまぁ…怪我がなさそうで本当によかった。すると入れ替わるように今度は鹿が俺の傍にきて、


「紫さん、今すぐ病院いきましょう」

「…は…?」

…驚いて聞き返すが、同じ答えが返ってくる。


「嫌や」

俺はそう、返した。
だって、今病院なんて行ったら収録は中断しなければならないし、俺のせいでたくさんのスタッフや出演者に迷惑をかけてしまう。それは本当に嫌だった。

「俺は大丈夫や。ぶつけただけやもん」

「だめですよ!ちゃんと病院で診てもらわないと」

「平気やて。そんな頭とか強う打ってないし」

「紫さん!」

「………」

あの鹿が全く退かない。激しい口論すら初めてだった。こんな事はあまりなくて、俺の方が戸惑ってしまう。
…でも俺も退けない。

「紫さん」

鹿も退かない。
俺も退かない。
でもこれじゃあ埒があかなかった。だから、俺はうーん、と考えて。


「…………わかった。でも鹿、病院行くんは収録終わってからにする」

「…え…?」

「スタッフさんや出演者さんに迷惑はかけたないの。それに、座って収録やから大丈夫やし。
な?鹿、わかって」

頼む、と必死に鹿にお願いした。鹿が俺の事を思って言ってくれてんのは痛いほどわかる。
でも、時には仕事を優先しなきゃならないときもあるんだ。迷惑は本当にかけられない。

頼む頼む、と頭を下げんばかりに言えば、やっと鹿が嫌々だが折れてくれた。 その代わり、仕事が終わったら真っ先に病院に行くことを約束させられ。


それからたくさんのスタッフさんにも『すみませんでした』とか『本当に大丈夫ですか』とかしつこく聞かれた。
中には責任を感じてか、半泣きで謝ってくるスタッフの子もいて 正直困ってしまった。

そんなこんなあったが、無事、収録を再開することが出来た。
後はまぁ俺次第。