――約2年前――


まだ俺達がそれほど人気のなかった時。

その日も今までと何も変わらない、いつもの朝、いつもの昼、いつもの夜。
いつもの鹿だった。

しかし、最後だけいつもとは違ったんだ。
さっきまでのほほんと話していた筈の鹿の顔が急に真面目になってこんなことを言った。


「紫さん…好きです」





「…………はぁ?」

これは最もな反応だと思う。だって、相方に、
しかも男に突然好きだと言われたのだから。


「なんや?どうしたん鹿」

「本気、なんです。本気で好きなんです。紫さんの事が。」

「お前…なんか変なもん食うたりしたんか」

「食ってません。僕は、真面目に言ってます」

ドッキリとかちゃうん?
とか思ったけど、まだ若手で売れていない俺らにドッキリを仕掛ける人なんていないだろう。
じゃあ鹿の言う通り本気の─…?





戸惑った。
俺は男なんかに興味なんぞ全くない。
相手が例えモデルみたいに顔が整ってて綺麗な奴でも、だ。所詮男。

しかし、今、この鹿の想いをへし折ったらどうなる?
関係がギクシャクしてしまってコンビ解散とかになるんじゃないのか?
それは困る。俺の相方は鹿しかいな…


「…鹿……」

「紫さん…。付き合って下さい」


そんな真剣に言うなクソっ…。




俺は悩んだ。
悩んだ。悩んだ。
足りない脳をフル回転させた。

そして漸くしてはじき出された答えは、



「……付き合う、だけやで」


一番ずるい逃げ方だった。


「っ本当ですか」

「ただな、キスとかエッチなんて出来へんからな。男同士でそんなもん…」


気持ち悪い。
流石にそれは声にだせなかった。鹿がすごく幸せそうに笑っていたから。


………これはコンビ安泰、存続の為。
仕方なしにした事。
狡い俺の答えだった。






それからと言うもの、ときどき鹿はあんな眼で俺を見てくる。
俺の身体を求めるような 熱い眼。

勿論告白から今までの2年間、身体の関係も、キスですら鹿としたことはない。
そこはぐっと俺の言い付けを守っているようだった。




「……いい。一人の方が集中出来る」

「えぇ…いいじゃないですか」

ブレイク出来たのは鹿のお陰。感謝もしてるし、鹿の望んでいることをしてやりたい。
…なんて思うけどそんな事鹿に言ったら何を求められるかわからないから言わない。言えない。
……身体の関係、男同士でなんて絶対に無理だ。


「紫さん…」

「お前しつこいぞ。嫌なもんは嫌…「おーい。フジカシのお二人〜」


それでもまとわり付こうとする鹿に少し強めに声を張り…かけたところで他の男の声が混ざってきた。


「……寺井」

「おーぅ。お前らこの後暇か?今からさ打ち上げ行くんだけど来ねぇかな?」

と話を割って近寄ってきたのは同期の寺井。
どうやら今日これからある打ち上げに俺達を誘ってくれているようだ。

「あー……打ち上げ」

今まで俺はそうゆうのにあまり出席した事がない。
お酒に弱いって言うのもあるけど あんまりガヤガヤとみんなで騒いだりが苦手なのだ。

だから今日も断ろうかと思ったが、しつこくまとわり付いてくる鹿を撒くには丁度良いかなと思った。
俺が打ち上げに参加すればきっと鹿も来る。
そこで鹿に鱈腹酒を飲ませて、べろべろに酔わせてしまえばいいんだ。
そうすれば、ネタの事も忘れ鹿も大人しく家に帰ってゆくだろう。
よし…この作戦で行こう。


「あー、行こうかな。打ち上げ」

「紫さん…」


「鹿も行くやんな?行こうや一緒に」

鹿、お前が来てくれなきゃ困るんだ。
お前を酔い潰させなきゃいけないのだから。

「…は…はい」


「寺井、俺ら打ち上げ行くわ」

「おうおうわかった!」


見てろ鹿。
今にべろべろに酔わしてやる――。