目の前に並ぶ野菜達に、俺は酷く嫌な顔をした。
もう、こんなの嫌なんですけど。


遡ればついこの前のこと。
よくわからないけれど突然如月に"お仕置き部屋"なるものに連れてこられて、アニキにも会わせて貰えずに如月曰く"躾"をされた。
その"躾"とはまぁ…口では言いたくないけどあんなことやこんなことをされたわけですけど……(男って気持ち良いことに弱いし薬もあるし)俺もなんか喜んでたからちょっと困る。

で、でもしょうがないよな、男はセックス好きだから…な?


まぁそんなこんなあった訳だけど、それからも如月の"躾"が続いているのが俺的には納得いかない。
毎朝、アニキに挨拶に向かえば素早く如月に捕らえられてこの部屋にぶち込まれる。
しかも躾をされたあと、なぜか昼飯まで出されて全部食うまで許してくれないし、アニキに会うどころか学校が終わるまで部屋から出してくれないのだ。
一体、如月はなにを考えているのだか教えて頂きたい。



そしてその問題の昼飯が、今俺の目の前にある。


「如月ぃ〜…もういい加減やめよーぜぇ?」

「は?」

「"は?"じゃねーよ。俺は野菜嫌いなんだっていってんだろぉ?」

不満すぎてガタガタとイスを揺らす。
今日のメニューは、
炊き込みご飯にお吸い物、
ほうれん草のお浸しと焼き魚。

うわぁ、もう日に日に肉類がなくなってきてるんだけど。嫌がらせとしか思えねぇんだけど。

「黙って食え。じゃなければ部屋からは出さない」

「食ったって部屋から出してくんねーくせに!」

はん、と鼻を鳴らした。

もうわかりきってんだよ、お前の考えてる事なんて。口車に乗せて俺に嫌なモン食わせては、またずっと閉じ込めておくに決まって…


「なら今日は出してやろうか?」

「っへ?!」

予想外の返答に俺は反応する。


「会長に会いたいんだろ?会わせてやらないこともない。
ただし、"待て"ができるならな」

ま、待て?え?たったそれだけ?
ふん、なめてんのかお前。待てって如月に言われたら大人しく聞けばいいんだろ?
そんなの簡単、簡単。守れるに決まってんじゃんか!


案外楽勝な提案に、俺は大きく頷いてやった。
そしたら如月は"わかった"と言ってくれたので約束は約束。
出された料理を鼻を摘まみながら、水で流し込みながらなんとか平らげて空の皿を見せつけた。

「よし、なら出してやろう」

ジャラ…

「…へ?」

不審な音が聞こえて、そこに目を向ければ 如月の手の中に真っ赤な犬用の首輪。と、首輪に繋がる長い鎖が。

「な?え?…それ」

「動くな」

むぎっと頭を鷲掴まれ固定されて首にその赤いものをつけられる。
俺はいやいやと抵抗するものの結局しっかりと首にはめられてしまった。

「っんなんだよ!これは!お前に首輪をはめられたくなんか」

「飼い犬を鎖も無しに外に出すなんてマナー違反だからな。仕方がない」

その理由に納得いかなくて取ろうとしたら手を叩かれた。

「バカな真似は止めた方が身のためだぞ」

はぁ?
と首を傾げて意地でも取ろうと思った、が、
ここで如月の機嫌を損ねたらこの部屋から出してもらえなくなる恐れがある事に気付き、急いで止めた。

「素直じゃないか。じゃあ出してやる。いい子にしてろよ」

鎖を引かれて俺は態勢を崩しつつも大人しく着いていく。
そして扉の前で如月が鍵を取りだし、鍵穴に挿し込み、回し、開錠し…

扉が開けられた。



先陣を切って部屋からでれば、生徒会室でアニキと水瀬が仲良く昼飯中だった。
こちらをみたアニキは相変わらず怪訝そうだけど水瀬は何事かときょとんとしている。

…ようやく、アニキの傍にいられる…っ!
姿を前にし、沸々と沸き上がってきた熱い思い。

俺はすっかり久しぶりのアニキの姿に舞い上がって、如月との約束も忘れアニキ目指し走り出した。

「あっ、おい!」

首輪が引かれたが止まらない。その勢いで如月の手から鎖が外れる。

「あーーに、きーーっ!!!」


思いっきり抱き着こう、と思っていたのに 気付いたら俺は床に転がっていた。
…そうか、アニキに寸前でかわされて全力だった俺は見事に転んだんだ。


「アニキぃぃっ」

それでもまだ諦めまい、直ぐ様ムクリと上体を起こしたらアニキが俺の目の前に立っていて、

「…っんぎゃ」

首輪を掴んで持ち上げた。
正確には俺の方が背が高いから身体が浮いた訳じゃなく膝立ちの状態なんだけど、全体重が首輪に掛かってるから痛いのなんの…っ!

「ァ…アニキっ痛いっす…」

顔を歪めて訴えたがアニキは俺を見下ろしながら口許を引き上げて、

「君は本当におバカなわんちゃんだね」

「…あ、アニキ?」

「如月でも手が余るなら、直々に僕が調教してあげようか?僕のは痛くて、辛いけれど」

俺の輪郭をなぞるその妖しい手付きに、不覚にもゾクゾクした。
それが背中を駆けて腰にキてしまうのは、如月の躾のせいだろうか。

その美しい顔に見とれて、つい、手が伸びてしまいそうになったとき、


「いえ、大丈夫です会長」

如月の声が部屋に響いた。

「会長の手は煩わせません。私の…飼い犬ですので」

如月は床に落ちていた鎖を拾い、引く。
アニキも俺の首輪を離し、そして満足そうに笑った。

「なら頼むよ、如月。この粗相は許してあげるから」

「はい。申し訳ありません」

「いや、僕ももうそろそろ出しても平気かと思っていたんだけど、予想以上におバカなわんこだったからね」

「アっアニキ…」

如月に鎖を引かれ、身体が床を這いながらもアニキに声をかけると、アニキはニコリと微笑んで

「身体はしっかりと躾られてるみたいだけどね」


さっきのゾクゾクと反応していたのを見破られていて、俺は何とも恥ずかしい気持ちになった。