三船の精液まみれになった手を拭い、それから付けていたゴムを外して捨てた。


「…うぅ〜ん…」

三船が唸りながら寝返りをうって眠りにつく。
…ったく、こいつは満足すればすぐ寝てしまう。でかい図体してるのにそんなに体力を使うのだろうか。

すやすやと寝息をたてる犬にそっと触れようとしたとき、扉がノックされて 手を引っ込めた。

「…はい」

返事をすれば扉が開けられる。その扉の鍵を持っているのは俺ともう一方ぐらい。

「お疲れ、如月」

「会長…」

どこかで見られているのであろうか。いつも終わったすぐあとに会長が部屋にやってくる。

「よかった。ちゃんと面倒をみているようだね」

「会長命令ですので」

俺は即答した。
会長に飼えと言われれば飼うし、捨てろと言われれば捨てる。
すべては会長の命令次第なのですから。


「そうだね」

会長はクスリと笑って三船が眠るベッドに腰かける。


「どう?懐いてきた?」

「いえ。…射精を条件に出せば従いますが」

「ふふ、結局男はそれに弱いもんね」

思い当たる事があるのか会長は意味深に笑う。

「でも如月なら三船を扱えるよ」

「そう…ですか」

「うん。君は巧いじゃない」

ニコリと笑った。…いや、俺は男は初めてだったんだけれど…あれで果たしてよかったのだろうか。
それにその言い方だと会長はもしかして見ていたかのような

「三船の場合、まずセックスで懐かせた方が良さそうだね」

「はぁ、」

「獣は、いや男は快楽に従順ってね。と、いうことで如月、毎日だって構わないから三船とセックスして」

「……え?」

会長の言葉に唖然とした。毎日でもいい…確かに三船は毎日生徒会室に来るけれどその度に抱けというのですか?


「例えば、だよ?でも三船を手懐けるにはセックスが一番じゃないかな」

「しかしそれは流石に私の仕事に差し支えます」

即座にそう答えれば会長はニヤリとする。

「もちろん、僕が少し負担するよ。貴裕はイイコで手はかからないから」

「………」


……そこまで言われてしまえば折れるしかあるまい。俺は静かに溜め息を吐いて頭を抱えた。

「如月は今までストイックに僕に遣えてきてくれた。少しぐらい、吐き出した方がいいんじゃないかな」

「…だとしてもなぜ三船なんですか」

「君に合うからだよ。…さぁて、僕は貴裕のところに戻るね。三船をよろしく」


『俺に合う』謎の台詞と、規約みたいなものを残し、会長は部屋から出ていった。

…あの犬とセックス…俺は会長の出ていった扉をただただ見つめることしか出来なかった。





◇◇◇◇







「出せっていってんだろーっ!」

俺は腰を引き摺りながらも扉をドンドンと叩いた。
目が覚めてからも如月はこの"仕置き部屋"からは出してはくれずに ただいま俺は一人ぼっち。
如月はアニキの所へと行ってしまったからだ。俺だって……俺だってアニキのところに行きたいのにいいい!!

逸その事、扉を壊してしまおうかとドンドンダンダン叩いて殴ってをしていたら、突然扉が内開きに開いて俺は顔面を扉に強打した。

「うるせぇな。黙れ駄犬」


「痛えぇっ!〜っにすんだよこのバカ秘書がぁ!!」


鼻血は出はしなかったが、痛くって鼻を押さえながら如月に噛み付く。
如月はそのまま部屋に入ってきて再び扉に鍵をかけた。文句を言おうとしたが、如月の手には…

「んぁ、いい匂いする…」

「餌の時間だ。ほら、席につけ」

餌って、てめぇ犬扱いすんなよぶっ殺すぞ!
……と言いつつもいい匂いに誘われ、如月が片手で用意したテーブルと椅子に大人しく座る。

「食え」

そうして俺の前に置かれたおぼんの上には給食みたいなメニュー、かと思いきや結構ちゃんとした料理が。

キノコご飯に
けんちん汁、
ブロッコリーとその他もろもろの温野菜サラダ、
鳥の唐揚げ一個とあとみかん。


…俺は唐揚げとみかんを食べてごちそうさまをした。
ら、如月に頭を叩かれた。

「…っってぇ!!」

「全部食い終わってねぇのになにがごちそうさまだ」

「っうせぇ!俺は…野菜嫌いなの!」

キノコご飯の中のキノコやらニンジンやらも、けんちん汁のゴボウもネギも、ブロッコリーも、全部全部嫌いな野菜だ。とゆうか食える野菜はきゃべつだけ、という残念な有り様。

如月はそんな俺の現状を知っていたのか、

「やっぱりな」

と困ったように言った。


「昨日なに食ったか言え」

「へ?昨日?」

なんでそんなことを聞くのかと疑問に思いながら
昨日何か食ったっけ、と記憶の糸を手繰りよせる。
確か…

「えっと、朝は板チョコ、昼は食ってねぇ、夜は冷食のたこ焼き」

言うと如月は酷く嫌そうな顔をした。

「いつもそんな具合か」

「朝食ったからちっとはマシ」

そしたら再び頭を叩かれた。

「ってぇ!なにすん…」

「本当、お前は手間が掛かるな。お陰で俺は忙しくて飽きなさそうだ」


困り顔で高々に言う如月に俺は首を傾げる。一体なんのことを言っているのかと。


…しかしそれがわかるのは少しばかり先のことだった。



「俺アニキに会いたいんだけどぉ。ドア開けろよばぁか」

「まだ飯食い終わってねぇだろ」

「え?もう食ったから、いーらない」

「出されたものは全部食うのが礼儀だ。絶対に食え」

「やーだ。野菜嫌いだし、お前も嫌いだもん!」

「…そうか。なら、躾して食わすまでだ。来い」

「ぶぇっ?!ひ、ひぎゃあ!やめろバカ――ッ!」




こうして"お仕置き部屋"から出られない日々が始まるのであった。






END