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秋田は未だ相変わらず、恋人ごっこに手を握ってくる。それに抵抗しなくなってきている俺もおかしいのだろうか?
…同級生の秋田の妹にストーキングされ、それから逃げる為に秋田と付き合うフリをして暫く経つ。
男同士で付き合うことに抵抗が無い訳ではなかったが、ストーキング被害がなくなるのなら御安いだろう、ととった術だ。
相変わらず登下校は一緒、帰りは人気が無くなれば手を繋ぐ、そして、
「口、そんなつぐむなよ」
「っえ…やだ…っん」
この訳のわからないキスもするのだ。
これがまたそこまで嫌じゃないから困る。気持ち悪くなく、気持ち良いから突き放せない。
……なぜだろう?どうせフリだし、そこまでする必要は無いと俺は思うのに秋田は違うみたい。
仲が良くなるだとかリアリティーがどうたらとか言って反抗する俺をいとも簡単に丸め込みやがるから何とも噛み付き難いんだ。
俺ももうちょっと、巧い口と頭脳があったらな言い返せるんだけど…。
「…あ、真部さぁ」
何かを思い出したかのように秋田が止まった。
「俺んち、遊びこいよ」
「……え?」
人気の少なくなった公園のベンチに腰掛けて一休みしていたのに、秋田に腕を引っ張られ無理矢理立たせられる。
え、いや、まだ行くとも何とも返事しちゃいねぇけど…っ
「っは?!…おぃ、…」
「この前、うんって言ってただろ?」
この前って…あのフレンチトースト作ってくれた時か?あれはまぁ…あまりにも迫ってくるから頷いたけどさ…。
「なら来い。いいから来い」
「わっわわ…」
なんだよ!最終的には力ずくかよ!俺は秋田に引き摺られるようにして無理矢理連れて行かれたのだった。
◇◇◇
それは少し大きめの一軒家だった。俺の家の2こ分ぐらいあって、ほう…と感嘆の声を上げてしまった程だ。もしかして秋田んちってちょっと金持ちか?
慣れない雰囲気に少し恐縮しながら足を踏み入れる。
「ぉ、お邪魔します…」
「今妹いねぇみたいだな」
「え、いねぇの?」
「もう少ししたら帰ってくるかも」
あの妹が帰ってくる…。
そう思ったら嫌な汗がじわりと滲んできてどうやら緊張しているのだとわかった。
「こっち。来て」
そんな汗滲む手を握られ、引っ張られる。階段を登り、秋田の部屋らしきところへ通された。
そこは整理整頓された俺の部屋よりも少し広い…約9畳くらいの部屋。
「綺麗な部屋だな、男のくせに」
「お前とは違うからな」
俺の部屋見たことあんのかよこのやろう。…でも確かに、俺の部屋より綺麗だし片付いてるし広い…。
間違ってないから言い返せない。
「こっち座れ」
こんなに広いのに秋田はベッドに腰掛けて隣を叩く。
え、でも座布団とテーブルがそこにあるのになんでベッド?
「…だから」
秋田のやつ、痺れを切らしたのか 疑問に思う俺の腕をとり、強引にベッドへと引き込んだ。
秋田の力になす術もなく俺はベッドにダイブすることに。
「ってぇ!」
「ゆうこと聞かねぇからだろ」
頭にきて身体を勢いよく起こすと それに怯む様子もなく今度は秋田が唇を寄せてくる。
ぎょっとして押し返そうとしたが打ち負けて唇に秋田の唇が触れた。
「……ん」
そうなってしまえば主導権は秋田のもの。押し倒されて、固くつぐんだ唇を抉じ開けられ簡単に舌の侵入を許してしまう。
「ぁ……んゃ…っ」
上顎とか舌先とかなぞられるとゾクゾクする。
恋人のフリだけのはず。しかも男同士でこうゆうことするのはおかしい…はずなのに。
なのに無理矢理されても、気持ち良いから流されて拒否しきれない。
頭では嫌なのに身体は嫌がってないんだ。
もしかして俺、欲求不満だったのか?だから気持ち良いなら男でもいいや的な…?
「…悪いけど真部」
「ん…は…」
唇が少し離されて俺はぽやんとしながら秋田を見つめる。
「今日、ただじゃ帰せない」
「……え…?」
ぼんやりとした頭じゃ到底処理しきれなくて首を傾げた。
そしてその意味を、俺は後々知ることとなるんだ。
秋田の手がこちらへ伸びてくる。何をするのかな、と暢気に見ていると、どうやら俺のワイシャツのボタンを外している。
なぜ外すのだろう?
でも女じゃあるまいし隠すものは何もない。
だから前を全て開かれるまでただただその行いを見ていた。
「…何すんの?秋田」
「当ててみれば」
な、なんだよそれ。わっかんねぇから聞いてんじゃんか。
ムッとすると秋田は微笑んだ。
「かわいい………なんてね」
は……?
今の言葉にフリーズした俺にまたキスをする。
俺がかわいい?これが?
秋田の感性が全然わからないぞ。男にかわいい、なんて本当に顔の整ったやつにいう言葉で断じて俺に使う言葉じゃ……
…そこで、脳が止まる。
違和感を感じてそこに目を向ければ更に脳が停止した。
「…なっ…ちょ!」
秋田が、秋田が秋田が、俺のズボンのベルト外して中に手を入れて…あ、アレを下着越しに掴んでるんだけど…!
「なにして…なにしてんの秋田っ」
「いいから」
「よくない!は、離せって」
「少し勃ってる」
「…っ!!」
制止しようとしていた手が止まる。
…実は、フレンチトーストを作ってもらった日からキスに反応するようになってしまったらしい俺の息子。今現在も例外なく反応していたわけで…
あぁ、秋田に指摘されて今にも消えてしまいたいぐらい恥ずかしい。
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。
「…大丈夫。お前が感じやすくて助かるよ」
「ぇ…っん…ふ…?!」
秋田が布越しだが擦り始めた。その直接的じゃない快感が身体を駆け巡る。
「ふ…っぅ…う…っ」
「真部、濡れやすい?もうパンツ染みできてる」
「っぁ…汚れ…ちゃ」
「なら出すよ」
「っっっえ?!」
嘘だろって思って声あげたけど嘘じゃなかった。
秋田はなんの躊躇いもなく下着をずらし息子を取り出したのだ。
空気に触れてさらに羞恥が増す。
「かわいいサイズ」
「っっせぇ!!!」
もう泣きそう。…つかなんでこんなことされなきゃならないんだ!
前にも言ったけど恋人のフリなんだからこんな、性的なものは必要ない。それに加え男同士なんだからそんなのいらない。
なのに秋田は恋人であるからと、キスやら舌やら今のコレやらをしてくる。
自分だって同じもん付いてるのに俺のを弄る意味が……あ、でも気持ち良い。
「ぅ…ん、ふ…、」
下唇を噛み締めながら上下に動く秋田の手淫を見つめる。他人にコレを抜かれるのは初めてで、なんとも言えない気持ち良さに少し夢中になっちゃいそうだった。
「でも、イくのは最後な」
?え?折角気持ち良かったのに止めるのか?
俺はわからないけど物欲しげな顔をしていたらしい、秋田が俺を見てくすりと笑って、
「なんつー顔してんだよ」
「…し、してねぇ…!」
「…大丈夫だよ。もっと良くしてやるから安心しな」
秋田は余裕の表情で言うと、俺の足からズボンと下着を剥ぎ取る。
咄嗟に脚を閉じて隠したが秋田の目は妖しく光っていた。
「無駄、無駄」
「…ひっ」
ここで漸く、"ただじゃ帰せない"がどうゆう意味であるかを感じたのだ。
己の身に迫る危険が今、目の前の人物から与えられようとしていることに本能が告げた。
"逃げろ"