「…っは…ぁ…」
ぽた、と汗が床に垂れた。息を乱しながら堪えるようにぎゅっと拳を握る。
「強情さんだねぇ」
「…っるせ、ぇ」
くい、と中の指を動かされると同時に身体も跳ねる。下唇を噛んで必死に声を抑えた。
…あれからちょっかいを出され続け、ついには後孔にまでも指を挿れられてしまった。
ここは俺の自宅で、しかもアパートだから壁が薄いわすぐ隣には家族がいるわで最悪なシチュエーションだっていうのに、高崎は止めないから困り果てているんだ。あーもうくそ、このままじゃだめだ、どうにかしなきゃ。
俺は、背を向けたまま必死に説得を開始する。
「高、崎…だめだっ…みんな、いる…から」
「でも僕ら公認だよ?それに、貴裕が声を抑えれば大丈夫」
「…――っぁ!」
優しげに言って油断させておいて、前立腺をぐりぐりなんてするから驚いて体勢が前に崩れ、高崎に尻を晒すような…まるで発情期の雌猫みたいな格好になってしまった。
「―っ…あぁ、なるほどね」
「お前、いき、なり……」
話が噛み合わない。俺はいきなり触れたことに文句を言ったのだが、そんなこと、すぐにどうでもよくなった。
……高崎が覆い被さってきて、そして後孔に感じる熱いもの。
これは…なんて、もう何度も何度もシてきたんだから考えなくたってわかる。
熱くて固い、高崎の性器。
…どうやら高崎は、本気でこの場でヤる気みたいだ。
「っうそ、ちょっと待って…っぁっ…ああっ」
問答無用、とはこの事。
俺の抵抗などまるで聞かずに中へ押し入ってきた。
「ひ…っん…、待って、ってばぁ…」
ずぐ、と奥まで挿れられてしまえばもう抵抗も意味を成さないから、俺は諦めたかのようにぺたりと床に頭をつけた。
「はい、どうしたの?」
全部挿れたくせに今更待ったって遅ぇよばかたれ。高崎にいっぱい文句を言いたいところだが、高崎の方を見ない、と意地になっているので向いてやらない。
「っばか…ばか高崎…」
「顔、見せてよ」
「ぜっってぇ…嫌だ」
俺は負けず嫌いな性格だって自分でも知ってる。それに、何かをして、と言われると素直に言うことを聞きたくなくなることも。もちろん高崎のことだ。彼もその事はわかっていると思う。
それでも諦めずに俺に問いかけてくるのは…あくまでも"俺の意思"を求めているからだろうか。俺は、こんなに意固地なのにそれにとことんまでつき合う気か。
「あーそう。なら虐めちゃうよ?」
「…っっひあ!」
高崎がいきなり腰を引くから上擦った変な声が口から飛び出した。俺は家族にバレる事を怖れて慌てて口に手をやり塞ぐ。
「っんっんっんん!ふ、」
「ほら…貴裕の大好きな前立腺、いっぱい突いてあげる」
「――っんふぅ!ふっ!ふ…ぁ!ぅあ…っ」
こうゆう時ばっかり、高崎は意地悪するんだ。
後ろから集中的に攻められて口元を抑える手の力が弛む。
声に表せない分、身体から溢れる止めどない快感をどこにどうしたらいいのかわからず、床に爪を立て、ただ涙を流すことしかできない。
ただ声を我慢することがこんなにも辛いことなんだと初めて知った。
「んんーっ!んっ!ふ…っん…ぅっ、ん」
我慢って辛い。楽になれる方法を知ってしまっているから余計に、辛い。
身体を捩っても床を掻いても渦巻く快感が無くならない事にもう狂ってしまいそうでさっきまでの意固地なんて、えらくくだらないことに思えた。
……だったらもう、こんなとこじゃなくて
俺の腰を掴む、高崎の手に触れた。…そして少しだけ、後ろを見た。
「べ…ベッド、行き、たい……」
「…っあ…ん、ん、…ん!」
雪崩れ込むようにベッドまで移動して今度はちゃんと向き合いながら身体を合わせる。
「やっぱり…いい顔してる」
高崎が、余裕なさげに笑って俺の頬を撫でた。…ばか、ちんこでかくしながら言うんじゃねぇよ。
「た、たか…さき…」
俺に感じてくれているのが何となく嬉しくて高崎の顔を両手で挟んで引き寄せ、キスをした。
「…っん!ふ、ふ、ふ…ぅん」
と、同じくらいに腰を使って中を抉るから、俺は必死になって高崎の唇に唇を押し付けて声を殺す。
それでも逃がしきれない快感は高崎の背に爪を立てる事で何とか紛わした。
「ん…っんんぅ…む、むぁ」
「……ん」
「はっ…ぁ、イ、く…っ」
「うん…じゃあ一緒にイこうか」
もう限界、だと高崎に伝えれば高崎は優しく、微笑んで俺の頭を撫でた。
その彼の手には珍しく汗が滲んでいて、熱い息使いといい、余裕の無い表情といい…普段見ることのない高崎の姿に異様に興奮した。
煽られるってこうゆうことか。
「っ…どうしたの?締まったよ、中」
「…っうっせぇ早く、イかせろ…唇、貸せっ」
感じたのがバレて、急いで繕う。乱暴に高崎を引き寄せれば ふふ、と笑いながらも抵抗する事なく大人しく唇を貸してくれる。…甘やかされてるな、と我ながら感じた。
「っん、ふ…ん…ぅん!」
下から突き上げられるのが気持ち良すぎて辛い。奥を擦られ入り口あたりを擦られてもうくらくらしそうなほど感じているのに高崎は俺をイかせる為に前にも触れ、抜き出す。
…そんなのされたら…っすぐイっちゃう、し!
「……ぅんっ!」
その宣言通り、昂っていた身体はいとも簡単に上り詰め、身体は緊張し、全身に力がこもる。
そこに追い討ちとばかりに高崎が俺の性器の尖端にわざと爪を立てた。
「ん――っんんンンッ!」
その刺激で、俺は本当に呆気なく達した。高崎もぎゅうぎゅうに締め付けられ、中でイったようだ。もちろん、高崎はいつもコンドームしてるから中出しではない。
「んは…っぁ…あ」
「はぁ…気持ち良かったね」
「…っばか」
高崎は衣服を汚さないようにと俺の精液を手で受け止めてくれていた。その配慮は素晴らしい。
だが白く染まるその手を、舐めようとするから急いで止めた。
「んなもん舐めんなって…」
「貴裕のイった証しだよ?舐めなきゃ勿体ない」
「勿体なくない!気持ち悪いからやめろ!」
何かをされる前に側にあったティッシュでその手のモノを拭った。
「あぁ勿体ない…」
「この変態」
……まぁでも変態は俺もか。だって何だかんだ言いながらも最後までヤって気持ち良くなって煽って煽られた。これはどちらが変態だとは言えないだろう。
「はぁ…声、大丈夫だったかな」
「大丈夫だよ。くぐもった声しか出てなかったし」
「……そうか?」
ここは壁、本当に薄いしくぐもった声でも隣の妹の部屋とかに響いていないか…不安すぎる。
かと言って聞けないしなぁ…"俺の喘ぎ声うるさくなかった?"なんて。
「聞かれたら答えればいいじゃない。それに、妹さんもわかるでしょ、部屋で二人きり、何してるかぐらい」
「それが嫌だっての」
兄が男に抱かれてるって妹的には普通嫌じゃないだろうか。
もんもんと考えてはいたがもう済んだことだし悩んでも答えは出ないから 諦めてベッドに横になった。
「もう寝る、眠い」
「おやすみ、貴裕」
「…お前も寝ろ」
俺だけ寝るのはちょっとあれなので高崎もベッドに引っ張り込んだ。
「狭い」
「思っても言うなよ」
きっと寝返りしたら俺、ベッドから落ちるだろうな。それぐらいのスペースしかないけれど、あぁなんだかこの狭さが少し心地いいかもしれない。肌と肌が触れ合うこの距離が。
「…おやすみ」
そっと呟いて、それからすぐに眠りに落ちた。
…手を、高崎に温めてもらいながら。