「へぇ、これが庶民がいくスーパーマーケットなんだ」

家から然程遠くない、いきつけのスーパーマーケットにて。
着いてきた高崎がいきなりそんなことを言うもんだから俺は焦って背を叩いた。だって普通の声量で言うから。

「っお前なぁ…。そうゆうこと言うなよ」

「あぁ、ごめん?悪口を言うつもりはなかったんだ。ただ、素直な感想」

素直な感想ってだいぶ質悪いぞ。
それに、周りの奥さま方に今のを聞かれたらどんな眼で見られるか。
…とゆうか、見渡せばもう既に奥さま方からの視線を一身に集めていた。
理由は、ほら…見た目……かな。


「……早く済まそう」


こんなやつを放っといたらまた何を言い出すかわからない。それにみんなに見られているのがなんか気にくわないから さっさと買い物なんて終わらせてやる。

買い物カゴを持ち、いざ。

「へぇ、すごく野菜が山盛りに並べてあるね。それにこんなに値段安くて大丈夫なの?」

手にとったきゅうりをカゴに入れながら、まるで知らぬ土地にでも来たかのような反応をする高崎をみる。

「これとか国産だし。いくら時価でも妥当な値段だよ。…つか、お前スーパーとか来たことねぇの?」

「うん。初めてかな。ご飯はいつもシェフが作ってくれるし、自分で食材を買うなんて考えたこともなかった」

「あぁ…そう」

なるほど。
良いとこの坊っちゃんって事はなんとなく形振りでわかってたけど、まさかそこまでとは…。この普通のスーパーマーケットにえらい場違いだ。

「庶民の人たちはこうやって食材を買っているんだね」

「…まぁな。あ、えっとレタスは…」

トマトをカゴに入れ、次はレタスはどこかとスーパーの中を見渡す。常連客なのに場所がわからないとか恥ずかしい。
てか、気づけば今の今まで後ろにいた高崎も姿を消してしまっていた。
え、あ、嘘。はぐれた?!高崎どこだよ?!

「…っおい、高…」


カゴを持ち、一人右往左往していると、突然肩を叩かれ振り返ると そこにはにこやかな高崎。そしてその手には、…レタス。

「あ」

「レタス、持ってきたよ」

「あ、ありがと…」

なんか…よくわかんないけどその姿にキュンとした。俺の為にレタスを探してくれて、俺の為に持ってきてくれて。今日の晩御飯に使うからとか色々話しながら2人でお買い物。
これってまるで…

「僕ら、新婚みたい」

「……っっっ…!」


思っていたことを高崎に声に出して言われ、カッと顔も身体も熱くなる。

「そうすると貴裕がママで、僕がパパかな。なんだか貴裕は料理が苦手そうだね」

新婚…。
考えた事もなかったシチュエーションに心臓が高鳴る。意識しだしたせいか掌が手汗ですごいことになってきた。

そんな俺を知ってか知らずか高崎は俺から買い物カゴを取り上げた。

「こうゆうのは、旦那の仕事でしょ」

「……っっっばか!」

こっ公共の場で何言ってんだか。死ぬほど恥ずかしくてでも嬉しいとか思う俺もいて、腹いせに高崎の腹に軽くパンチしてから逃げた。

「照れ隠しだね」

その姿を高崎が幸せそうに眺めていることも知らずに。


◇◇◇◇





頼まれた野菜の他に、つい買ってしまったお菓子やら何やらで荷物が結構増えてしまった。
そうしたら一人じゃ大変でしょ、と高崎も一緒に荷物を持ってくれて、なんだかんだ言いながら仲良く二人、帰路に着いていた。


「悪いな、お前に野菜持たせて」

「別に大丈夫だよ。僕、こう見えて力あるし」

確かに、高崎は華奢なわりに喧嘩強いし 男の俺を捩じ伏せるぐらいの力があることは身を持って知っている。

それでも、あの高崎に荷物持ちをさせている事になんとなく罪悪感に似たようなものを感じていた。
…幾ら自ら来たいと言ったからって、ここまでさせたのだ。このまま家でバイバイは流石に可哀想だなぁと感じる。

「……」

俺は考えた末に控えめに高崎に聞いてみた。

「あー…えと、高崎…。あのさ、…」

「ん?なぁに?」

「えー…っと。ぅん、もし良かったらさ…そのー、晩御飯でも食ってくか?」

俺からの初めてのお誘い。けど、自分家のご飯が天才的に旨いとか思ってる訳じゃないから プロの味に肥えた高崎を満足させることなんて出来るわけないってわかってるけど……っあああ!やっぱりこんなこと言わない方が良かったかもしんねぇ!だって飯が不味いかもしんないしそもそも嬉しくないかもしれな…


「…っいいの?」

「ふぇ…?」

目をキラキラさせている高崎に気づき、俺は目を真ん丸にしてしまう。

「貴裕のお家にお邪魔してもいいの?」

「…ぇ…あ、う?うん」

「うわぁ…すごく嬉しい」

そして最高の笑顔。
その笑顔に俺は釘付けになって次第にこっちまで嬉しくなってきてしまう。

「じゃ…じゃあ妹に連絡入れとくから」

赤くなってしまった顔を俯いて隠しながら妹にメールを打った。内容は、『友達も一緒に晩御飯いいか』

するとすぐに返事がきた。『問題ない`ω´』


「OKだって。3人分も4人分も大してかわんねぇってさ」

「妹さんだっけ?すごいね」

「そうか?まぁ、飯は妹担当だし毎日作ってるしな。味も悪くないし」

「貴裕はやらないんだ?」


「…やらなくていいからやんねぇんだよ」

ほんとは出来ないんだけど。
前に料理したら食えたもんじゃないものが出来上がって妹に金輪際大丈夫だからとか言われたっきり料理はしていない。
でも出来ないと言うのは悔しいのでこうゆう言い回しにしとく。

「つぅか、そうゆう高崎だって料理、出来ねぇだろ」

だって食材も買ったことないとかいってるやつが料理なんてできっこないだろ。お坊っちゃまには俺は負けないと思う。

が。

「僕、料理するよ?月一くらいでディナーパーティー開く程度だけど」

で、ディナーパーティー?…とは要するに高崎が料理を作ってそれを客人に振る舞う…的なものだよな?ああ神様、才能は皆平等に分け与えるべきだと思います。

「不公平だぁ…」

「え?」

所詮、所詮俺には羨んで愚痴を溢すことぐらいしか出来ないんだちくしょーう!

薄暗くなってきた空を眺めながら盛大にため息を吐いた。