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「……ん…っ」
「……っ」
鹿の唇は、温かくてしっとりしていて 何だか無性に興奮した。
もっと、キスをしたい、なんて唇を深く合わせようとしたら、
鹿が俺の肩を押し返してきて唇が離された。
「……っどうゆうつもりですか!」
鹿は押し倒されている態勢から急いで上半身をおこして、片手で口元を押さえた。
…まるで怒っているかのような反応。もしかしてキスは、したくなかった…のか?
「…そない…怒らんでも」
「怒ってないですよ!」
「…はあ?怒っとるやんか!」
折角、俺からキスしてやった(上から目線)のに、なんなんだ、その反応は。
怒ってるくせに怒ってないなんて言う鹿にカチンときて気付いたら俺も声を荒げていた。
「怒ってないです。それは、紫さんこそ」
「なんやて?お前がそないなこと言うからやろ!」
「っそんな、ふざけてキスなんてするからじゃないですか…」
「………は?…」
ふざ、けて…?
「…お前…俺がふざけてキスとかすると思っとるん…?」
「…そ…れは…」
なんやなんや。
襲った俺が言うのもなんやけどこいつ、俺の事をそんな軽い男だと思っとったんか。
すげぇショック… てか
すげぇイラつく
「鹿…。お前絶対、許さへん!」
「…え…?!」
「昨日の事も!どれほど俺が悩んだと思おてん…っ仕事にも身ぃ入らんてマネージャーにも心配させて…なれなのにお前は俺を軽い男だと言うんか!」
「…ちょっ…そんなこと…」
「……」
ぐっと俺が黙ると、鹿は慌て始める。様子を窺おうと顔を覗き込んでくるが俺はふいっとそっぽを向いた。
「…紫さん…ご、ごめんなさい…。でも、じゃあどうして…」
キスなんてしたんですか。鹿が俯きながらも問うてくる。
軽い男じゃないってゆうてるのに未だそれを聞くか。もしかして、はっきりしてほしいって事なのか。
俺だって全部解決出来てるわけじゃない。自分の気持ちが未だにわかんなくて苦労してるんだ。だってやっぱり男な訳だし悩まないわけない。
でも…わかることだけ、伝える。ちゃんと、言わな。
「……今まで…、鹿がいることが当たり前やったんやな。」
質問とは異なる答えに驚いてか、項垂れていた鹿が顔をあげる。
「だから鹿に対しての感情なんてなかったんや。
…でもな、昨日の事があって、改めて鹿と離れて考えたら 俺にとって鹿は大きな存在で、やっとその大切さに気づいた」
そらしていた視線を鹿に向ける。かち合った視線が絡み合う。鹿の視線にどきどきした。
「だからな…」
鹿の手を取り、きゅっと握った。
「…鹿、傍に…おって。」
「……ぇっ…」
「…俺の傍に。ずっと、おってよ…」
これが俺の今の想いだ。
恋愛感情なのかよくわからないけど、鹿は大事で好きで。
傍に鹿がいることでこの想いが変わるのならば変えて欲しい。もう、鹿無しじゃ生きれないくらいだけど、もっと別の理由でだ。
「…でも…それはコンビとして…?」
「…それもある、でも。
それだけやなくて一緒にいたいんよ。鹿の事好きやねん。
それが相方としてなのか男としてなのかはわからないんやけど…。
だからこれから…、
俺を変えてみせて欲しい」
「……紫さん…」
「それじゃあかんかな…?」
俺の我が儘かな。好きになるかもしれないから傍にいてだなんて。
でもそれは百も承知の上でこうやって鹿に真面目にお願いしているんだ。
「………」
「ぁ…えと、…だから、だからな…」
「…紫さん。」
「……ゎ」
鹿が、ふわりと微笑んでそっと俺を抱き締めた。
「はい…。僕、絶対紫さんを射止めてみせますから」
温かい鹿の胸に頭を埋める。
…鹿は、俺を受け入れてくれた。中途半端で優柔不断な俺を。
我が儘言ってごめんな鹿。でも一緒にいることで変わる愛もあると思いたい。だから、一緒にいてほしい。
「…今度は…鹿からキスしてよ」
「え、で、でも…」
「だって…俺ら付き合うてるやんか。恋人らしいこと、しようよ」
「付き合って…。でもですね、紫さん…」
「ええんやて……鹿と、そうゆうことしてみたいから」
にこ、と笑みを作れば、鹿はおどおどとしながらも
「………はい」
唇を合わせてくれた。
「…、…ん」
まだあやふやな想いだけどそれでもいいよな。
お前と一緒に居たいって思うから。この想いに嘘偽りはない。
だから身体からでも心からでもいい。少しずつ俺を鹿で満たして、そんで
変えてみせてよ。
唯一無二の大事なパートナー。
▽おまけ▽
「なんだか夢みたいです紫さん…。こんな風に抱き合える日が来るなんて」
ぎゅっと鹿が俺の手を握った。
さっきからずっとこの調子。抱き合い、たまにキスしたりの繰り返し。楽屋の隅でいちゃいゃしている。
「夢かもよ」
「え!?いっ嫌です!」
少しからかってみると、予想通りの反応。
それが可愛いくて楽しくて俺のS心が擽られる。
「はは。鹿苛めるのおもろいなぁ」
「もう…苛めないでくださいよぉ」
「はいはい。じゃあもっかいちゅーして…?」
「キス好きですね、紫さん…」
ん、とねだればしてくれるキス。鹿の唇は柔らかくて甘い。
「…ん…ふぅ…鹿とのキスは気持ちええもん」
「ほんとですか、ありがとうございます。……あ、あの、聞いてもいいですか?」
「…何?」
「…えと…さっき僕のジャケットで何をしていたんですか?」
「っ…!!そっそれは…………」
何を聞かれるのかと思ったら。
そういや忘れてた…。俺ったら変態行動していたんだったっけ…。
首を傾げてる鹿をちらちらと、確認しながら俺はゆっくりと口を開いた。
「?」
「…………に、…匂い嗅いどった…鹿の…」
「匂い…。」
「だっ…だってな!なんか鹿の匂い妙に落ち着くし……だから…つい、」
つい、手が伸びてしまって…。
もごもごっと本当の事を言えば、数拍あけた後に鹿が突然俺を抱き締めた。
「…なん…っ」
「…いっぱい嗅いで下さい!」
「……へ?」
「僕の脱け殻のジャケットなんかじゃなくて僕本体で嗅いで下さいよ」
いつでも貸しますから!なんて輝く笑顔。
俺はつい、噴き出してしまった。
「脱け殻よか本体のがええもんな」
そうだ。本体がこんなに近くにいる。いつだって触れたくなったら触れられる距離に。
……俺は鹿の背中に腕をそっと回して首筋に顔を埋めた。
鹿の甘い匂い。人工の香水の匂いなんかじゃない、温かくて優しい匂い。
俺は嗅ぎ慣れたこの匂いが大好きだ。
だから褒めてやろうと口を開いたその時、
「……鹿…お前、ええ匂…
"コンコン!"
『フジカシさーん、そろそろ収録始まりまーす』
「あっ はーい!」
扉の向こうからスタッフが俺達に声をかけた。
おかげで俺の言葉はかき消され。
「…っ!……っもう何なん!今日色々タイミング良すぎやん!」
折角!俺が折角…!
今日は本当に邪魔ばかり入る!流石に俺も頭にきた。
不満を撒き散らす俺を、宥めるように年下の鹿が頭を撫でた。
「また今度でいいじゃないですか。ずっと一緒にいますもん。機会は沢山ありますよ。
さぁ、お仕事行きましょう?紫さん」
「……っ。………そやな…、うん…」
そんな笑顔で言われたら、うん としか言えなくなるだろ…。
内心不貞腐れる俺を隠しながら
差し出された手に、俺は手を重ねた。
「 "恋人同士" やもんな」
END