それから先は、あまり記憶がない。あるのは確かぐらんぐらんする頭の中、必死に問題を解いていた…という事ぐらいか。


そして、気付いたら生徒会室のベッドの中だった。
高崎によると、最後の教科のテストを解き終わった瞬間、倒れたらしい。もちろん俺は覚えちゃいないが。

熱の原因は前日の夜更かし、今までの馴れない勉強漬けの日々が祟っての熱だったようで、その日ぐっすり眠ったら恨めしいくらいにあっさりと熱は下がっていった。


でもまた次の不安が襲う。
あの日朦朧とした意識の中で解いたテストが、自分がどれ程出来ていたのかわからず、もしかしたら…もしかしたら、と未知数の恐怖感に約一週間晒される事となった…

が、…それも今日で終わり。



そう、実は今日、テストでの学年順位が貼り出される日だ。俺の、運命が決まる日。

前日はとてもじゃないけど寝付けなくて落ち着かなくて、俺は珍しく朝早くに起き、家を出た。
いつも遅刻ギリギリの俺がこんな朝早くに学校に行くなんて本当珍しい。


登校している人間もいない中、学校に着けば、運動部がせっせと朝練をこなしているのが眼に入る。
……いつもこんな早いんだよな、こいつら…。すげぇよ。
好きな事に打ち込めるってそれは凄い事だ。俺は帰宅部だしよくわかんないけど、そうゆうのって羨ましく思うな。

輝く彼らの姿に感心しながら開いていた昇降口から校内に入った。
そうすると一気に緊張してくる。
えっと…多分貼り出されているのは3階の2年の教室の並びの壁だろう。
俺は3階まで緊張を振り払うかのように駆け上がった。


「…はぁ…はぁ」

2年教室前は誰もいない。静まり返っている。
その中に、大きなサイズの紙が貼ってあるのが眼に入った。
…きっとあれだ。学年順位表。


俺は、息を整えながら一歩一歩進んでいく。近付いていく。
心臓がバクバクとして今にも爆発してしまいそうだ。脚もすくむ。近付きたくない、けど見たい。

上位20名しか載っていない順位表。だからもしかしたらその中に名前はないかもしれない。だって、一週間前まで俺は学年最下位だったんだから。
でも高崎が俺を変えるっ言った。そしておかしい事をしながらも勉強を丹念に俺に教えてくれた。当日には熱を出してテストに集中出来なかったけど…

少しでも、頑張った成果がこの眼で見たかった。




…順位表の前に立った。
恐いけど、見たくないけど…

俺は順位表に眼を向けた。

まず眼に入ったのは一番上、1位 高崎真人。
やっぱり、と言うような感情を抱きながら視線を下げていく、………そして、



…"水瀬貴裕"


「………13位…」



……名前があった驚きと、10位以内に入れなかった絶望感と…なんだか入り交じってよくわからない感情になった。
13位。最下位だった俺が学年の中で13番目。
でも高崎との約束は10位内。



「………くそ、」


「水瀬」

「……っ高崎…?」

声をかけられ、驚いて振り返ると そこには高崎が立っていた。…こんなに朝はやいのに。


「おめでとう、水瀬」

おめでとう?何がだ。俺にはそれが"罰おめでとう"そう聞こえた。


「…嫌味かよ」

「違うよ。純粋に、水瀬は頑張った」

頑張った、なんて言われて、俺は顔をあげた。
…高崎は笑ってる。すごく優しく。

「なに…を」

嫌味を言うような顔じゃない。心から思って言っているような、俺を包み込む笑顔だ。

…俺はどうしたらいいか解らず後退りした。
……元から俺は褒められる事に慣れてない。況してや褒められるような事をしてきてない。そんな俺に、あの高崎が"頑張った"なんて。


「……どうせ、そんな褒められたところで俺に罰があることは変わらない」

所詮、言葉だけ。
高崎はそうやって俺を突き落とす事が多分、好きで堪らないんだ。だから浮かせて落とす。


「罰…大人しく受けんよ。約束は約束だもんな。全校生徒の前で……お前とセックスすりゃいいんだろ」

だったら初めから俺は浮くことはしない。落とされるとわかっているのなら何倍もそちらの方が痛くないから。

だから素直に高崎との約束を飲み込んだと言うのに…高崎は俺に近づいてきて 俺を壁に押し付け、無理矢理にキスをしてきた。

「…っん、…んん!」

前の様に舌を入れてくる気配はないが、そもそもキス自体が嫌なので押すなり叩くなりで必死に抵抗をする。

「ん…んぅ…」

だけどその抵抗まるごと強く高崎に抱き締められて身動き取れなくなった。
そして…ワイシャツの裾からさも当たり前かのように手が侵入してくる。

「…っふ、ぅ!ん…っ」

まてまてまて!ここは教室前の廊下だぞ!
誰か登校してくるかもしれないのにこんなとこで…!


「…ぃっ、ぃや…ぁ」

「ふふ。水瀬…可愛い」

「ん…ぁ」

ぐりぐりと乳首を潰されて唇を噛み締め耐える。が、高崎は抵抗を抑え込んだわりに、あっさりと手を引いていった。
まるで、俺を掻き回して楽しんだかのように。


「……っ…」

「水瀬、今回君は学年13位という結果で僕の提示した10位には届かなかった。
だから約束通り、全校生徒の前で犯そうと思ってた…んだけどね」

高崎が俺の頭を優しく撫でた。

「まぁ最後は寝る間も惜しんだせいで熱をだしてしまったけど、学年最下位だった君が、よくここまで頑張ったね。だから、

罰は特別に無しにしてあげる」


……え?

「………え?」

きょとん…。流れる時間が止まった気がした。いや、止まった。

俺はまじまじと高崎を見つめ返す。

「…あ。水瀬が犯されたいってゆうなら別にしてもいいんだよ」

「っは!?いや!んなわけあるか!…ちょっと、驚いただけで」


……無、し。罰無し。
本当?本当なのか?
なんかじわじわと実感してきた。
信じられないけど…恐怖だった罰がなくなったんだ。やっべぇ…、だいぶ嬉しいかも…!


「…やった!」

つい、零れてしまった心の声。でも嬉しくって今にも飛び上がりそうだ。それほど、俺には嫌な嫌な罰だったから…。

「頑張って勉強して良かった…!」

「で も ね」

「……え」


…………が、高崎は甘くないとすぐに思い知る。


「約束の10位には入れなかったわけだから、それなりに罰はあるよ」


「……はぁ?!ちょっと待て!さっきは無しって…」

「さっきは、君の頑張りを認めての罰免除。今度のは約束の10位に入れなかった罰。
やっぱり、こうゆうのは厳しくいかないとね」

いやいやいや!厳しくいかないとね、じゃねぇよ!
なんでそんな罰ばっかなんだ!10位に入れなかったのも、俺の頑張りで免除にならなかったのかよ!

…そう喚いてはみたけど、もう高崎に何を言っても無駄だった。高崎は一度そうと決めたら絶対折れない。今回も、そうだ。



「……結局、罰かよ…」

結局浮かされて落とされた。なんだよ、やっぱり俺は高崎の手のひらで踊らされていただけなんだ。
それなのにまんまと浮かれて舞い上がって。ばっかみてぇ。


「…ちくしょぉ…っ」

「でも安心して。罰の内容は違うから。君は、ただ僕の言うことに従ってればいいんだよ。
そしたらちゃんと君を、可愛がってあげる」

絶対ろくなこと命令されない。そうに決まってる。ああ逃げたい逃げたい。


「だから…。今度呼び出されたら、ちゃんと来てね。じゃないと…、ふふ。」

高崎はそれ以上は言わなかった。…言わなくてもわからあ。
どーせ、俺にマイナスになるようなことってのは決まってんだから。

いつも以上に楽しそうに笑う高崎を視界にいれつつ、俺は何度目かもわからないため息をついた。

「じゃあ生徒会室行こうか」

……高崎に手を引かれながら。









END