全身が弛緩した。
俺は背後に高崎がいることも忘れて、全身を背中に預けてイった余韻に浸っていた。


「……は…ぁ」

「気持ち良かったねぇ?じゃあ後は僕の手、綺麗にして」

へ…?とぼんやり霞む思考の中、口に突っ込まれた指。抵抗しなきゃとか頭になくって…噛めばいいのに、俺はバカ正直に 受け入れてしまった

……が、途端に感じた苦味に一気に目が覚め、盛大に指を吐き出す。

「…っにが…!何っ」


ぺっぺっとしながら寄り掛かっていた高崎からも離れた。…なにこれくっそ苦いし吐きそう…。てかこの独特の匂いは…


「何って、君の精液だよ。」

「……っ!っんなもんなんで口にっ!」

「君が出したものだもん。君が綺麗にするのは当たり前でしょ?」

さも当然の様に言ってのける高崎。…確かに、一般的の物事にはそれが当然だけど…!それとこれとは別!自分の精液を舐めるとかありえねぇから!


「ふざけんな…っ」

唸る様に怒りを顕にしてみるが、怯むどころか高崎はやっぱり通常モードで、

「あっそう。まぁ君は苦い物が苦手だから仕方ないか。大目に見てあげるよ。」

……なんで俺が苦いものが苦手だって知ってんだ…?

背筋がゾッとしたけれど、高崎はもっとゾッとするような事を言い始める。

「この水瀬の精液もったいないね。…あ、そうだ。じゃあお手本として僕がみせてあげようか」

「……ぇ…?」

何の事か理解に苦しんだが、高崎が自らの手に、俺の精液が付いた手に、舌を這わした時にやっと 高崎の言っていることがわかった。

「……やめろっ…!」

まるで見せつける様にぺろぺろと手を舐める高崎にとても羞恥を感じて、頭がくらくらとした。
…本当に高崎は頭が狂ってしまってるよう。

でもそのままにも出来ず、俺は急いで腕を掴んで止めさせた。

「ん?舐めたくなった?」


「死ね!この変態野郎!んなもん…舐めるとか頭沸いてんな」

「酷い言い種だね…。これは、君が僕の手に出したのに。本来は君が片付けなくちゃいけないんだよ」

高崎の目が細くなる。
はっ、と恐怖を覚えたが、一足遅く、高崎の腕を掴んでた腕を 逆に高崎に掴まれて、強引に引かれ、口を合わせられた。


「…っふ、ぅ!…ん!…ん!」

予想外の展開だったからか、拒否も大して出来ずに咥内にいとも簡単に高崎の舌の侵入を許してしまって、
途端に広がる苦い味。キスも嫌だって言うのに自分の精液なんかもっと嫌だ。だから力の限り藻掻いて足掻いてみたけど高崎は口を離さない。
舌を噛んでしまおうと思ったのだが、それは流石に酷いと思ってやめた…(こんなにされてもまだ、高崎を労れる俺はすごいと思う)

「ふ…、ぅ…うん…」

……そうだよ。
自分の精液まで口に入れられ、嫌なキスまで強要、しまいには強姦紛いなものまで仕掛けてくる。
こんな酷いことをされてるっていうのに…なのに、俺は少なからず気持ち良いって感じてるんだ。……嫌なのに、高崎を振り払えないまま。


「んっふ、…ぃ、い、ぁ…」


互いの唾液が交じり、口端から溢れる。嫌がり逃げる舌を器用に絡めとり、より深い深いキスへと持ち込んでいく。

…本当、高崎は何をしても巧い。キスも、抜きも、腰の使い方も。好きなやつとキスをしていると一瞬、錯覚してしまうほどだった。


「ん…ふ…っめろ…!」

一瞬の錯覚により、目が覚めた俺は弱々しいながらも腕を突っ張ってようやく高崎を引き剥がした。


「…気持ち良かったでしょ?何をそんなに嫌がるかなぁ」

「げほ…っは…っだからさっきも言っただろ…っ!俺は…好きなやつとしかしたくねぇって!」

そう声を張れば高崎は顰めっ面になる。

「わかんないなぁ、そうゆうの。気持ち良ければいいんじゃないの?」

「いいわけねぇ!…好きなやつとの方が……気持ち良いに決まってる…」

当たり前だろ。そこには愛があって、絆があって信頼があるんだから。我ながら臭ぇしガキって思うけど 相手を大切にしたいから一つになりたいとか、もっと好きになりたいからとか、そうゆうのって大事だと思うんだ。
絵空事だけど…俺はそう思いたい。


「…だから……もうやめてくれ」

「……」

からかっているならもう二度と。
俺は俯きながら急いで乱れた制服を正し、足早に出入り口から校舎の中へと戻った。



……屋上に残ったのは高崎ただ一人。



「何を綺麗事を」

高崎は空を見上げながら微笑んだ。

「…でもそうゆうところが好きだよ水瀬。
キスもセックスも、好きな人としたいなら」




「僕を好きになればいい」



そんな呟きは 青天の元、綺麗に響いて消えていった。