そこは透きとおった青に満ちていた。そこは、空とも海ともつかない、空でも海でもない、中空だった。
そこでは、停滞と滞留を塗り潰して、気流とも水流ともつかないものが吹き荒れ、渦巻いている。羽ばたくわけでもなく、泳いでいるわけでもない私は、天地のどこにも属さぬ青の中で、間断なく揺れ動く大気の中で、静止していた。
格好としては、宙に浮いた蛹、といったところか。
常に活動するすべての中で、地に足をつけることもなく、天を目指すわけでもなく、静止と停止に身を委ねている。
流動するすべての中において、停止に親しむ私は、至極異質なものだった。

「ちょっとぐらい、焦ってみたらどうだい? まわりを駆け回る風程度には」

自問には自答がかえる。

「焦ったところで、今はまだ、天にも地にも馴染めないよ」
「臆病だなぁ」
「墜落して潰れるのがオチさ」
「でも、いつまでも蛹でいるわけにはいかないねぇ」
「蛹でいるにも労力はいるのさ」

空は青く、海は青い。その境界に佇むのなら、少しくらいは、その青を肌に刻み、誰かに見せてあげることができるのだろうか。

「自分を甘やかすのも大概にね」
「自分を甘やかすのにも勇気がいるよ」
「面倒だねぇ」
「そうだねぇ」

だからこそ。

「甘やかせるだけ甘やかせるようになったら、私は蛹じゃなくなるのかもね」


(飛翔への、落下への、覚悟を得るまでは)

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架空蛹-
Oxygen shortage/酸欠
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作者/さきは

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