空からオタマジャクシが降ってきた。
 年端もいかない少年と少女が、手をつないで草原を歩いている。
満ちる青は晴れた空、埋め尽くす下草は新緑の淡緑。
 ぽとぽと落ちてくるオタマジャクシに驚いて、少女が転ぶ。手を引かれるかたちになって、少年も転んだ。

「痛い」

 膝を擦りむいた少女が泣いた。痣をつくった少年は、目を潤ませつつも、唇を噛む。
 草の香は抜けるように渋かった。木槌でかち割れそうな、水でできた白い魚を閉じこめた氷のような、透明な塊。空と呼ばれる氷の青は、燦然とした陽を新芽にもたらし、水流という旋風に跳ねたオタマジャクシを溢している。
 膝を抱えて少女は泣いた。落下するオタマジャクシを見据えて少年は、湧いてくる疼きと肉を刺す痛みに蓋をした。
 少女が泣きやむまで、少年が少女の傍らを離れることはなかった。少女と同じで在ることが、少女が泣きやむ条件であると信じたのか、育ちゆく可能性ではちきれそうな黒が降り注ぐ天泣に近づこうと駆け出したい衝動と、目をきらめかせることを、少年は抑えた。
 空は青く、硝子が中天を覆う。蕩けるように砕けるように、皹割れるように軋むように、オタマジャクシの空は少女と少年の頭上に在り続けた。



オタマジャクシの空
(君が心ゆさぶられるのなら、君が衝動を覚えるのなら、いっそのこと身を委ねてしまえばいい。君が見つけたそれを、どうか、見失わずに掴んでいって)



幸福さま提出
お題/こいねがう
作者/さきは(片足靴屋/Leith bhrogan)


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