時々、銀さんは普段ちゃらんぽらんな行動をしているのに、ふとした拍子にとても何か遠くを見つめる。何を見ているのだろう。その先には何が見えているのだろう。その時の彼は酷く遠い存在になる。手が届く距離にいるのに。声をかけると、生返事だけどきちんと返答してくれるのに。ものすごく急激に不安が広がる。
神楽ちゃんも同じだった。本人は否定するかもしれいないけれど、彼女は銀さんに似ている部分が多々ある。その一つの仕草が「それ」だ。確かにそこにいるのに、存在を不確かにさせる、表情と目つき。思いを馳せていることはお互いに違うだろうと思う。彼女は何を思っているのだろう。どうしてそんな表情をするのか。
思い当たる節はあるのだ。
きっと、銀さんは昔のことを。血に塗れた幼少の頃や攘夷活動をしていた頃を。
きっと、神楽ちゃんは家族のことを。母と共に過ごした最期のことを。殺し合いにまで発展してしまった父と兄のことを。
他人なら当たり前なのだが、僕たちの生い立ちは本当にバラバラだ。二人の過去になると、今度は僕の心が不安定になる。僕たちの今までの過ごしてきた日々や絆は壊れやしないと信じているのに。
彼らは自分の過去に対峙する。
必ず。その壁にぶち当たる。
二人はどうするだろうか。
決まっている。やると決めたことはやり抜き通す。己が信念を貫き通す。
そういう人たちだ。
でも。
その後は?
結果がどうあれ、僕らはどうなる?
信じている。
信じているが、彼らの過去には僕が入る隙間なんてあるのだろうか?
そのまま万事屋は残るだろうか?今までのように。変わらず三人と一匹で笑い合って。
いつも僕はこの不確定要素に恐れを抱く。
変わらないことはない。変化を恐れるのは臆病だ。分かっている。こんな自問自答も愚の骨頂。
例え、いつかお互い目指す道を違えても、居場所がバラバラになっても、僕らは「ここ(万事屋)」に帰ってくる。何があっても、せめて僕が彼らを繋ぎ止めてみせると誓い、いつも自分を奮い立たせている。
ぐちぐちと考えていたら、夕陽が沈みかかっていた。もうそろそろ、銀さんと神楽ちゃんが帰ってくる。夕食の準備をしなくては、と腰を上げると、じっと定春がこちらを見ていた。僕の考えていることなんて御見通しなのかもしれない。
「僕、頑張るからね」
何気なくぽろりと独り言ちると、定春は一際大きな声で「わん!」と吠えた。