「サーりゃの初恋ってルフレだよね?」
「…貴方には関係ないわ」
そう言って睨み付ける視線すら愛おしいんだけど、僕は変なのかな。
二度目の初恋
僕の恋人のサーリャは、うちの軍師であるルフレに一目惚れをした。
呪ってみたり、ルフレの為に'フツーのオンナノコ'を研究したりと、一途にルフレを追いかけていた。
その後ろを、これまた一途に追いかけていたのは僕なんだけど。
サーリャが失恋するのは時間の問題だった。
時間の問題というか、恋が成就するハズはなかった。
だってルフレは女の子だから。
それを知ったサーリャは三日間寝込んだ程ショックを受けていたものだ。
ルフレが男のフリをしている女の子というのは軍の皆が知っている事実だ。
入ってきたばかりの新人は男だと勘違いするけれど、先にいる先輩がルフレは女だと教えるなんてのが新人教育の一環のように定着しつつある。
それを、僕はサーリャの耳にだけは入れないように努力した。
たまたまサーリャに教えるタイミングが無かったのもある。あの頃そんな雑談を交わす余裕なんかうちの軍には無かったから。
とにかくみんなに口止めをして、サーリャはルフレを男だと信じたまま、その恋心を募らせていった。
だって、ルフレの事を女の子だと知って、さっさと諦められたりして、他の男に靡かれたりしたらたまったものじゃなかったから。
事実、サーリャはルフレ以外の男に見向きもしなかったし、ルフレを一途に想い続けるサーリャに言い寄る男はいなかった。
その隙に僕はサーリャとお近付きになり、まんまとその恋人の地位を手に入れたわけ。
「ルフレの次だ」と宣言されたけれど、それも問題ない。僕もルフレの事は大好きだしね。
「ヘンリー…」
「どうしたの?サーリャ」
名前を呼ばれた事に嬉しくてご機嫌になる。
「さっきから気持ち悪いのよ。ニヤニヤと…」
「あ、ごめんねー。サーリャの事が大好きだからさー」
そう言うと、サーリャは先程よりも鋭い目付きで僕を睨み付け、魔術書を構え、臨戦態勢を取る。
「あははー。どうしていつもそういう反応するかなー」
「……貴方がそんな変な事を言う時は何か企んでいる時でしょう」
「そんな事ないよー。大好きだから大好きだって言ってるだけだよー」
あ、照れた。
サーリャの照れ隠しは憎しみのこもった睨み付けによって行われる。
いいねー、この殺気で殺されてしまうんじゃないかというほどの眼光。
たまらないねー。
殺気立つサーリャと比例するように笑顔になる僕。
数秒間見つめ合って、サーリャは諦めたようなため息をついた。
「あれ?もう終わり?サーリャの殺意は心地いいのに」
「変態…」
「あははー」
何だかんだ言いながらも、「もういい」などと言ってどこかにいなくならないのは、サーリャもこんなやり取りを少なからず楽しんでいるのだろう。
「結局、サーリャの初恋の人は僕だからねー」
「は?」
女の子にとって初恋というのは特別だと聞くけれど、サーリャもそういう事なんだろう。
「可愛いなー」
「ちょっと…」
「ちなみに僕の初恋もサーリャだよー」
「ねぇ…」
「あ、言っちゃった。照れちゃうなー」
「ちょっと!」
「ん?何?」
珍しく声を荒らげるサーリャに気付く。
何故か顔色が悪い。
「私の、初恋が、誰?ですって?」
信じられない物を見るような表情で僕を見つめるサーリャに満面の笑顔で答える。
「だからー、ボ・ク でしょ?」
「違うに決まってるでしょう!」
胸倉を掴まれてガクガクと揺さぶられる。
ちょっとー、酔うよ。そして吐くよ。
「気付いてないの、サーリャ?」
「私の初恋の人はルフレよ」
少し落ち着きを取り戻したのか、いつもの低いトーンに戻ってしまったサーリャが掴んでいた胸倉から手を放す。
「だってルフレは女の子でしょ?じゃあ、男に対しての初恋は誰?」
そう言うと、サーリャは目と口を開いて、驚愕の表情で固まった。
ふらふらと後ろに下がる。
気をつけてね、そこの足元木の根っこがあるから。
「そんな…バカな…」
「二度目かもしれないけど、初恋は初恋。サーリャの全ての初めては、これからも僕のものだよ」
固まったまま動かないサーリャに近付いて、唇をずらしたキスをすれば、サンダーの呪文を唱えられて、大変な目に遭った。
サンダーの魔法を避けながら、「キスで動き出すなんて、やっぽり僕はサーリャの王子様なんだね」なんて言ったら、エルサンダーに呪文が格上げされて、関係ない他の仲間が巻き込まれてしまい、ルフレにひどく怒られてしまったのは、別のお話。
▽▽▽
ヘンリーが変態になりました。
「お前なんか好きじゃねぇよ」とは言わないのがサーリャの人の良さ(笑)
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