「ねぇ、クロム!」


嬉しそうに駆け寄ってくるルフレに思わず笑みを溢した。
何かに躓いて跳ぶように俺の胸の中に収まるルフレの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、ルフレも照れたように頬を染め、笑みを溢す。




これが、正しい俺たちの未来。
俺たちの運命。
俺たちの絆だ。


















運命






















「ねぇねぇ!クロム!」


嬉しそうな笑顔を浮かべて俺に駆け寄ってくるルフレに思わず笑みを溢した。



「どうした、ルフレ。そんなに慌てて」


少し息を上げ、頬を紅く染めて見上げてくる瞳はきらきらと輝いている。



「あのね!今日ね!」



興奮気味に手をぱたぱたと動かして喋るルフレは可愛い。




「今日、何か良いことがあったのか?」

さらさらの髪を撫でてやろうと手を伸ばすと、それはルフレの髪に触れる手前で止まった。






「リヒトにプロポーズされちゃった!」
















何だ?
今、ルフレは何と言った?


俺以外の男を選ぶと、そういう事を言ったのか…?



…違う。
この世界は俺たちの進むべき未来じゃないんだ。
これはルフレなんかじゃない。






「え?どうしたの、クロム…。剣なんか構え…」






ルフレと似た顔で笑い、ルフレに似た声で話すこの『ルフレに似た何か』に剣を振りおろす。





目の前が真っ赤に染まって、地面に倒れた汚物に視線を落とした。
恐怖と驚きに目を見開いて息絶えたその顔を潰すように、何度も蹴り飛ばし、ぐりぐりと踏みつける。




ルフレの顔をした醜いその肉塊は処分した。























暗転

























「クロムさん!」
「ああ、ルフレか」




今度のルフレは記憶喪失ではあるが、女という事実までは忘れ去っていないルフレだ。


長い髪で、自分を"私"と呼び、普通の女として生活するルフレもやはり可愛い。




「あの…。少しお願いがあるんですが…」
「お前が頼み事なんて珍しいな」
「えぇ…。出来たら、でいいんですけど…」





頬を紅く染めるルフレに少しの不安を覚える。








「ロンクーさんを私の警護につけて欲しくて…」
「………何?」
「あ!その無理なら全然大丈夫なんですけど!ただ…」
「ただ、何だ?」
「ロンクーさんと少しでも近付きたくて…」






















恥ずかしそうに俯いて、「クロムさんにだから言うんですよ」と真っ赤になって、微笑む。




……………これも違う。



細い首に手をかけると、ルフレはきょとんとした表情で俺を見つめる。
そのまま力の限り絞めてやると、苦しみに表情を歪ませる。




「どうし…っ、クロ、ム…さ……」




何か言っているが掠れて聞き取れない。
俺のルフレはこんな醜く顔を歪ませたりしない。
こんな醜い声など出さない。



これは違うんだ。



















暗転






















「貴様が聖王か…」


ああ、今度はギムレーとしての記憶を持ったルフレか。
冷たく、射るような目付きも美しい。


「ルフレ…」




口元に薄く笑みを浮かべたルフレに微笑みかけてやると、右手を掲げ、魔法を放ってきた。
フォルシオンで防いだが、数メートルほど吹き飛ばされ、睨み付けるようにルフレを見る。




「ルフレ!?」
「ルフレなどではない!私はギムレー。貴様を殺して、完全なる復活を遂げるのだ!」





次々と放つ魔法をかわして、ルフレの胸元に飛び込む。




















これも違う。



ルフレはこんなに弱くない。
俺を殺そうとなんてしない。


心臓を貫くと、低い呻き声を上げた。
最後まで俺への呪いの言葉を吐きながら絶命する。























暗転






















もう一度だ。もう一度やり直す。
ルフレはどの過去もどの未来もどの現在も、俺のルフレでなければならないのに。










「お父様!」


自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには泣きそうな表情で俺を見つめるルキナがいた。



「ルキナか」
「お父様…。もうやめて下さい」



そう言うと、ルキナはフォルシオンを構える。



「お父様は間違っています。お母様を手に入れる為に過去を変えるなど…」
「変える…?俺は何も変えたりしていない。あいつは俺と共に在る事が真実の世界だ!」
「………お父様はお母様を愛しすぎました…。だけど…愛してるなら何故、お母様を殺す事が出来るのですか!」
「あれはルフレじゃない。ルフレの姿をした別の物だ」






ルキナの瞳から一粒涙が零れる。
フォルシオンを握る手が小さく震えている。



「お父様は、狂った愛をお母様にぶつけています」
「何…?」
「お父様がお母様を凌辱し、私が産まれた。私は…そんな未来のルキナです」



こいつは…ルキナは何を言っているんだ?
俺がルフレを…?
望まぬ妊娠を経てルキナを生んだと?







「お母様は毎日泣いていました。お父様は私を愛しすぎているのだと。狂おしい程の愛をぶつけてくるのだと」
「違う。そんな未来は、あり得ない…」
「そして、お母様は自ら命を断ちました。お父様を狂わせてしまった償いだと言って…」




ルキナは何か勘違いしている。
それはルフレじゃない。
教えなければ。その未来は間違っていると。
共にもう一度、正しいルフレを探しに行こうと。




「私にはお父様を止める義務があります。私はクロムとルフレの娘ですから…」
「止める…?俺を…?」
「えぇ。自らの欲望の為だけに過去を変えるなど、邪神ギムレーと同じです!いいえ、ギムレーにも劣る!」
「ルキナ…」
「大好きです、お父様。天国では、お母様に優しくしてあげてくださいね…」





ぼろぼろと涙を流しながら、ルキナが剣を振り上げた。


俺は、何故かぼうっとしていた。
実の娘が自分を殺そうとしている。
ルフレは俺を愛する事なく、自害してしまった…。

そんな事が頭をぐるぐると回る。





















気付けば、俺はルキナの死体を抱き締めていた。
顔は汚れさえなく、まるで寝ているようだが、その身体はルキナの血で真っ赤に染まっている。

何が起こったのか自分でも分からない。
確かにルキナは剣を振り上げていた。

しかし実際、俺の身体に傷など一つもなく、俺のフォルシオンはルキナの身体を貫いていた。





「ルキナ…?」




名前を呼んでも返事はない。


















「クロム…?」



そこに、聞き慣れた愛しい人物の声が聞こえた。




顔を上げると、青ざめた表情のルフレがそこに立っていた。






「これは一体…?ルキナ…?ルキナ!!」




ルキナの死体に駆け寄り、血で汚れるのも構わずに抱き締める。



「どうして…?クロム…!」



俺を見つめる表情は、怒りと悲しみと憎しみと恐怖を内包した複雑なものだった。




「違う…。これはルキナじゃないんだ…」
「クロム…?」
「そしてお前も…、ルフレじゃない…」





瞳に恐怖の色が一番濃く現れて、ルフレが首を振る。






「君は…。君こそクロムじゃない…」
「もう一度…。ルフレ、愛してる…」
「嫌だ。来ないで…。いや…!」
「愛してる、ルフレ」
「来るな…っ!」







ルキナの死体から剣を引き抜き、振り上げる。










愛してる。





だから、もう一度だけ。





















暗転





























「…………っ!」







はっと、身体を起こすと凄まじい汗の量に頭を抱える。





「どうしたの、クロム?怖い夢でも見たの…?」




眠そうに目を擦りながら、隣で寝ていたルフレが俺を気遣う。






「ああ…。お前の偽物がたくさん出てくる夢でな…」
「ふぅん?変なのー」
「でも…」






ルフレの身体を強く抱き締める。





「ようやく見付けた…」
「クロム?大丈夫だよ。ただの夢だから…」
「夢じゃない。俺は何度も何度もお前を探して…」
「ん。そっか。ありがと」






ルフレは首を傾げ苦笑しながら、早くもう一度寝るようにと、俺の頭を軽く撫でる。











「愛してる、ルフレ」
「僕もだよ」












嬉しそうに微笑むルフレを抱き締めながら、もう一度ベッドに身体を沈めた。



















▽▽▽
この後、"自由"に続き、"鳥籠"に続いたら最悪だなぁ…。


800番のらら様からのキリリク 「ルフレを愛しすぎて、殺してしまうクロム」でした。
よく考えたら、最終的に生きてるしな、最後。
すみません、らら様。
こんなんでよろしければどうぞー。
拙い文章を向上させろというリクエストはちょっと厳しいですが、こんなんじゃない、や、ここをこう変えろなどありましたら、それには対応出来るので、どうぞご指摘下さい。


こんなクオリティで、ほんとに申し訳ありません…。




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