「クロム、どうして泣いてるの?」
「誰のせいだと思ってるんだ、バカ」

























かくれんぼ
























クロムは僕を見つけるのがすごく上手い。

僕が嫌な事があって、誰にも見付からないような場所で一人泣いていても、クロムはすぐ見付けて、側で何も言わず一緒にいてくれた。

僕が迷子になってもすぐに見付けてくれた。


木の上に登っても、森の中をでたらめに進んでも、街の端に行っても。





だから、いつも心のどこかで期待していた。




"今日もクロムが見つけてくれる"










だけど今回ばかりは見つからないようにと祈る。

身体を小さく丸めて。
まるでかくれんぼで鬼から隠れる子供のように。












すきま風が身体を冷やす。
がたがたと小屋が揺れる音は少し怖い。



僕がこの小屋に入ってから数時間。
みんなどうしてるだろう。
出来れば僕を見付ける事なんて諦めて、城に戻ってくれてればいい。




「そんな訳ないか…」





クロムを筆頭にみんな優しい。
作戦の途中消えた僕を探してくれているだろう。












そう。
作戦を実行中だった。


班を二つに分けて、敵を挟み撃ちにする作戦。
作戦は成功した。

ほぼ壊滅状態まで追い込んで、あとは僅かな敵を処理するだけだった。






そこに迷い混んだのは一人の子供。
身なりからして裕福な家の子だと分かるその子を、当然のように敵は狙った。

人質にしようとしたのか、ただ殺そうとしたのか。




どちらにしろ、頭に血が登った敵の一人がその子に向かって剣を振り上げた。










気付けば僕はその子の元へ走り出していて、その子に降り下ろされる筈だった剣は、僕の肩を切り裂いていた。













「ルフレさん!大丈夫!?」
「ああ!僕はこの子を安全な所へ連れていく!リヒト!君達はクロム達と合流して!」
「でも…!」
「一時間しても僕が戻らなければ、先に城に戻って!」






魔法を放ち、敵を倒してくれたリヒトにそう叫んで、子供を抱えて走った。


その途中の記憶はあまり無い。
その子供が泣きながらも僕の心配をしてくれていた事がやけに鮮明に残ってるくらいだ。


どうにか近くの村に着いて、優しそうな女性に子供を預けて、僕はみんなの元へ戻ろうとした。



だけど途中で出血の多さに気付いて、戻れないと判断した。
だから森の中に入って、どこをどう歩いたのか、誰もいない小屋を見付けた。





そして僕はこの小屋の隅で膝を抱えて座っている。











「うわぁー…」




ずっと同じ体勢だったので、身体を少し動かそうとして、ようやく自分の座っている所に血溜まりが出来ていると気付く。

そして、少し動いた事により、僕はぱたりと倒れる羽目になってしまった。




「もうダメだな…」





まるですごく疲れた日の翌日の朝のように、僕は身体を動かせずただ転がっていた。
自分の血が頬で固まり、張り付くのが分かる。








幸せだった。
クロムに出会えて。
みんなに出会えて。


最後にあんな可愛い子を助ける事まで出来て。








本当に僕は幸せだった。





















瞼が重くなり、目を閉じて眠ろうと思った瞬間、ギィ、と小屋のドアが開く音がした。

この小屋の持ち主だろうか。
ごめんなさい、血で床を汚してしまって。
弁償しますからイーリスのクロム王子に文句は言って下さい。








そんな事を考えた。












「ルフレ!」





聞き慣れた声が聞こえて、身体を抱え上げられる。







「大丈夫か?くそっ!血が…!」





あぁ。ダメだな。
僕の負けだ。












「見つかっちゃった」



















重い瞼を開けると、心配そうなクロムの顔。


「どうして…」



ここが分かったのと言い切る前にクロムが口を開いた。








「リヒトから話を聞いて村に行った。そこから血が点々とここまで続いていた」
「あはは。ヘンゼルとグレーテルのパンみたいに、鳥が消してくれなかったんだ」
「笑い事か」
「笑い事だよ」






だって、君に会えるなんて。
あんなに見付かりたくないと思っていたのに、会うとやっぱり嬉しい。




さっきまで目を開けている事さえ億劫だったのに、今は話す事も苦にならない。




「ルフレ…リズの所へ行こう」
「起きれないよ、クロム。身体が重いんだ。あの子を抱いて走ったからかな」
「今度は俺がお前を抱いて走ってやる」
「ふふ。嬉しいな」







だけどね、クロム。
寝ていたいな、僕は。



クロムの腕の中は温かくて気持ちがいい。




















「ルフレ、寝るな。起きろ」
「ねぇ、クロム。かくれんぼしよう」
「そんなもの後でいくらでもしてやる。今は傷の手当てを…」
「…君は優しいね」




分かっているくせに。
僕はもう無理だって事。

何度も死を間近で見てきたクロムが分からない筈がない。





それでも僕を助けたいと願ってくれている。

その優しさに最後まで触れられる僕はなんて贅沢なのだろう。









「次はさ、もっと上手く隠れるから」
「すぐに見付けてやる」
「ダメだよ、ずっとずっと時間をかけて」








君がイーリスを平和にして、好きな人が出来て、結婚して、子供が出来て、孫も出来て、もしかしたら曾孫だって見られるかもしれない。

何十年も、長い長い時間をかけて探しに来て。




















「クロム?どうして泣いてるの?」
「誰のせいだと思ってるんだ、バカ」
「………ごめん」





涙を拭ってあげようと手を伸ばすけど、手は震えるばかりで動かない。
そういえば、君の温もりももう感じない。













「クロム、目を閉じて、100数えて?」
「無理だ…っ」
「そして、目を開けたら僕はきっといないから」
「そんな事言うな、ルフレ」
「僕は隠れるだけだよ、クロム」
「ああ…」
「出来ればさ、君のマントを頂戴。そしてこの小屋ごと燃やしてほしいな」









全て灰にして、戻ったらみんなに伝えてね。
僕はかくれんぼをしているよって。



ゆっくりゆっくり見付けてね。

























みんなでかくれんぼをしよう。







クロムが僕をぎゅっと強く抱き締めたのを合図に、かくれんぼを始めた。

















▽▽▽
サイト名がかくれんぼなのでちょうどいいかな、と。
クロム殺すかルフレくん殺すかで迷いましたが、今回はルフレくんで。

子供を預けた村娘とクロムが結婚すればいいんじゃないだろうか。
うちのクロムは何となく後追い自殺しそうですけどね。

元々かくれんぼ云々にするつもりがなかったので、無理やり感がはてしないですが、そんなんいつもの事なんでまぁいいか。




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