忘れ物や落とし物をよくする人間は聞きますが、この男は病気なのではないでしょうか。
戦場に武器を忘れる男がいるなんて、普通は有り得ない。
有り得てはいけない事でしょう。
















忘れ物


















私はある男を探していた。
手には大きな鉄の斧を持って。



勿論私の武器ではない。






特徴的なツンツンとした頭を見付けて、足早に近付く。










「ヴェイクさん」
「おお!どうした、ミリエル!俺様に何か用か?」
「何か用か?ではありません、馬鹿者」





右手に持った斧を差し出すと、彼はにかっと分かって礼の言葉を口にした。

今週だけで何度このやり取りしただろうか。
最初の頃こそ申し訳なさそうに礼を言っていたのだけれど、最近では悪びれた様子もなく、さも当然の様に私から武器を受け取った。













いつもならこれで終わり。
次回から気を付けなさいと一言言って彼から離れるのだけど、今回はそんなつもりはない。













「今日は貴方に言いたい事があります」
「おう!何だ?」
「これを見ていただきたいのです」





私は予め作成してきた資料を彼の目の前に突き出す。









「何だこれ?」
「これは先月、貴方が出撃した回数と、武器を忘れる、もしくは落とした回数をまとめた資料です」
「何でそんなもん作ってんだよ…」



彼は呆れたように溜め息をつくが、誰のせいで作ったと思っているのかと逆に問いたい気持ちを抑えて、資料を読み上げる。




「先月、あなたが戦闘に出撃した回数は22回。内、武器を忘れる、もしくは落とした回数12回」
「10回も武器持って出撃してるじゃねーか」
「因みに、これは貴方が武器を持っていった10回と、持っていかなかった12回を更に細かく分析した資料です」




もう一枚の資料を出す。
この資料こそが、私の今日の武器だ。










「貴方が武器を持っていかなかった12回。この戦闘には全て、私も一緒に出撃しています。勿論今日も」
「ミリエル。ほら、もうそろそろ出撃準備しないと…な?」
「出撃まではまだ時間があります」
「うぅ…」




何の為に早めに貴方を探したと思っているのですか。

困ったような顔をする彼を無視して私は言葉を続けた。






「そして、貴方が武器を忘れず持っていった10回。この戦闘はどれも私が出撃していません。つまり貴方は私が出撃する時に、意図的に武器を忘れているのです」





先月、彼の行動を観察して、様々な角度からの分析を行った。
その結果がこれ。


目を逸らして気まずそうにしている表情からも、彼がわざと武器を忘れていたのは間違いないでしょう。






「何故こんな真似をしたのです」
「あー…そのー…」
「私がもし届けなければ命に関わるのです。イタズラのつもりにしろ、時と場合と方法を考えて行動しなさい」





つい声を荒らげる。
どのような理由があったにせよ、危険な行為だ。

理由次第では、クロムさんに報告する事まで考えている。









「ヴェイクさん。説明を求めます」
「………から…」
「聞こえません。もう一度」
「お前に探されるのが嬉しかったからだよ!」
「うるさい。加減を知りなさい、加減を」





聞こえない程小さかったり、耳鳴りする程うるさかったり。
壊れかけのラジオじゃあるまいし、音量調節くらいきちんとして欲しいものです。

というか、今、何と言いました?この男。








「私に探されるのが嬉しい…とは?」
「さっきみたいに、俺が武器を忘れるといつもより感情的になるだろ、お前」
「当たり前です。命に関わるのですから」
「それが嬉しいんだよ。心配して、必死に探してくれる、その姿が!悪いか!」





















呆れた。
まるで子供の様な理由でこんな事…。











「バカです、貴方は」
「うるせー!」
「武器など忘れなくても、私は貴方を心配しているというのに…」
「本当か!?」
「貴方の頭を…ですが」
「…………おい」












今まで散々心配かけられたのだから、これくらい言ってもいいでしょう。














「何て迷惑な…」
「それは悪かったって…。でも、今まで俺様の演技にお前もまんまと引っ掛かったんだぜー!俳優でも目指すか!なーんてな!」
















ケラケラと笑うこの男に、今まで騙されていたのが悔しいので、私がいつも貴方の忘れ物に気付くのは、ずっと貴方を見ているからだという事は言わない事にしましょう。














▽▽▽
ミリエルに持ってきてほしくて忘れ物してたら可愛いよねってお話。
壊れかけのラジオの部分を、徳永英明じゃあるまいし。にしようとしていたのは秘密です(笑)




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