こんなにクロムの事を怖いと思った事はない。
僕は何も知らなかったんだと、今日思い知らされた。











君の事も、







僕の事も。
















怖い、怖い、愛しい


















「ルフレ!」
「くっ…!」





クロムの声が遠くから聞こえると同時に、背中に酷い痛みが走った。
背後の敵に気付かないなんて、迂闊だったとしか言いようがない。


必死に身体を反転させて屍兵に斬りかかるけど、力が入らない僕の攻撃なんて、簡単に弾かれてしまう。
目を強く瞑り、死を覚悟したが、いつまで経っても僕に死は訪れなかった。



おそるおそる目を開くと、そこには右腕の無い屍兵が倒れていた。










そして、その屍兵の身体を虚ろな表情で踏みつけるクロムの姿。



「クロム、ありが…」



礼を言おうとした僕の言葉は屍兵の叫び声でかき消されてしまった。




「簡単には…殺さない…!」
「え…?」



目の前で何が起こってるのか、理解出来なかった。
クロムが屍兵の左腕も斬り落とし、その身体を何度も何度も蹴り上げる。





「クロム…君、何して…」



僕の声なんかクロムの耳には届いておらず、屍兵を蹴り上げる音と、それの呻き声が耳に付く。


「やめ………やめて…」



クロムを止めたいけれど、身体が動かない。

こんなクロム、僕は知らない。
怖い。




見たくないのに、金縛りにあったように固まる僕の目の前で、クロムが剣を振りかざした。







瞬間。









クロムが血に塗れていた。
屍兵からの返り血で。


誰が見たって絶命していると分かる、文字通り屍であるそれをクロムは見据えて、喉に突き刺さった剣を抜いた。






ようやく終わる…。








小さく胸を撫で下ろした。
クロムは僕が怪我するのを見て、少し動転しただけだ。
だから、僕は彼の心配を振り払うために、いつものように笑おう。



そう、思っていた。








だけど、クロムの取った行動は、僕を更に恐怖の底に張り付かせた。









抜いた剣を、再びその死体の喉に突き刺したから。





何度も
何度も
何度も







その度に肉を斬り裂き、血で剣を濡らす、ぐちゅりとした信じられない程不快な音が響く。





一体何が起こってるのだろうか。


知らない。




これは僕の知ってるクロムじゃない。


きっとこれはクロムの形をした何かで、僕は幻覚でも見せられているのだろう。


胃がぶるりと震えて、思わず吐き出してしまった。
それでもまだ止まない音に、何度も何度も吐き出す。



恐怖も一緒に吐き出せてしまえばいいのに。













「クロム……クロム…」



うわ言のように彼の名前を繰り返す。
きっと本物のクロムが助けに来てくれるだろうと信じて。









「クロム…助けて…!」







ぴたりとクロムの動きが止んだ。
ゆっくり振り返ると、僕に駆け寄ってくる。
先程の楽し気な表情じゃない。


本当に僕を心配してくれている。





「大丈夫か、ルフレ!」
「あ…」
「すまない。俺がもっと近くにいられれば…っ!」



ぎゅうと抱き締められて、絶望する。






















あぁ…。これは間違いなくクロムだ。








「すぐにリズの所に連れて行く。大丈夫だ、すぐ良くなる」



いつもの、何より大好きな笑顔だった。
大きな手が僕の頬を撫でる。


気付けば僕はぼろぼろと涙を流していたらしい。
それを親指で拭ってくれる。



その時、つんと鼻をつく血の香りで、先程の事は夢じゃないんだと思い知らされた。
















怖い。



















「ルフレ…。お前が生きていてくれて本当に良かった…」




僕を抱き抱えながら、耳元でクロムの声が聞こえる。
























怖い。





















「愛してる、ルフレ…」





















怖い。















僕の為に壊れてしまうクロムが。











僕はクロムの事を何も知らない。

きっとクロムでさえ気付いてなかったのだろう。






















怖い。




















クロムを壊してしまう事が。




















怖い。



















それを嬉しいと思ってしまう自分が。




















嬉しい。



















僕がクロムを壊してしまう事が。




















嬉しい。













僕の為に敵をぐちゃくちゃに壊してくれた事が。




















愛しい。


















僕の為に壊れてくれる君が。

















▽▽▽
ルフレくんご乱心ネタとして取ってたんですが、夢でクロムがやってくれたので、クロムで。
クロムだけ壊れるんじゃあれなので、ルフレくんも一緒に危ない人になっていただきました。

今度は敵を燃やして「ミディアムだね♪」とかいうルフレくんを書きたいなぁ。



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