「クロムはさー、将来の夢ってある?」
「夢か…。そうだな…」























もうこんな時間か…。


窓の外から聞こえる深夜0時の鐘の音にふと顔を上げた。
あと数行書けば終わる書類にもう一度目を落としたけれど、この数日間殆ど寝ずに進めて来た仕事の疲れに、手も動かせずにぼうっと宙を見つめた。




少しして、コンコンと部屋のドアがノックされる。




「俺だ」
「クロムか、どうぞ。入って来ていいよ」



がちゃりとノブを回し入ってきたクロムの顔を見ると、一瞬で疲れが飛んで行く。




「どうだ調子は」
「うん、もう少しだよ。後は書き終えたら書類を運ぶだけ」
「なら、少し休憩しないか?紅茶でも淹れてやる」
「勿論!」























二人で休憩室へ移動した。
なんか落ち着くなー、ここ。


フレデリクやマリアベルが紅茶やお菓子を用意してくれて、皆でそれを飲み食いしつつ、下らないお喋りで盛り上がる。

本当にそんな些細な事が幸せなんだと実感する。



しかも、今はクロムが紅茶を淹れてくれてるなんて、夢みたいだ。





かちゃりとティーカップが目の前に置かれた。
紅茶特有の優しい香りが部屋中を包んで、身体に染み込んでいくようだと思った。






「フレデリク達程美味くはないぞ」
「ううん、ありがとう。いただきます」




一口飲むと、自然に息を吐く。


「美味しいよ、クロム」




茶葉の量なんてよく分からないであろう彼らしい、いつもより濃い紅茶は彼と同じで何だか頼もしい味だった。

僕がにこにこと幸せを噛み締めているのとは裏腹に、クロムは何だか真剣な顔をして僕を見つめている。





「ルフレ」
「どうしたの、クロム。そんな真剣な顔で」
「いや…。最近のお前は働きすぎだ。少しは休め」
「うん、分かってる。だけどさ、早めに終わらせたくて…」
「しかし…」
「でも、もう終わりだよ、本当に!あと少しなんだ!」
「何か手伝える事はないか?お前と違って頭は使えんが、力仕事なら」
「じゃあ、お願いしようかな。ちょっと荷物があるんだ」
「勿論だ」






その後、クロムの淹れてくれた紅茶を時間を掛けてゆっくり味わいながら飲み干して、その間ずっとクロムと話をして。



僕は今、誰よりも幸せだ。























「ここでいいか?」
「うん、ありがとう」





クロムに資料を片付けてもらいながら、僕は残った数行の文字を書き上げて、一息ついた。







「そういえば、明日の作戦は大丈夫なのか?」





どくんと心臓が跳ねる。
ああ、クロムはずっとそれを心配していたんだろう。

それでも僕は笑顔を作って、クロムに答える。






「うん。僕のシミュレーションでは、この方法はこちらの犠牲が一人も出ないんだ」
「…………お前が言うなら間違いないんだろう。頼りにしてる」
「ふふ。任せてよ」









ごめんね、クロム。
僕は初めて君に嘘をつく。


僕達は明日、戦いを控えている。
僕達の何倍もの人数を相手にする戦い。
勝ち目なんて無い。
人数も軍事力も相手が数倍高い。


その情報を得た僕は作戦を立てた。
何て事はない。分かりやすく言えば自爆だ。
安直で捻りも何もないつまらない作戦。

だけど一番手っ取り早く、成功率も高く、何より犠牲が一番少ない。
僕が一人死ねばいいんだから。






とはいえそんな作戦、クロムを筆頭に誰も許してくれる訳がない。
皆優しくて、仲間想いだ。





だから、僕は嘘をついた。


この作戦なら誰も犠牲は出ないと。
あくまで理論的に、出来るだけ矛盾を少なく、かといって少しのリスクは残してリアリティを出す。

我ながらよく言うよと呆れる程ペラペラと喋り、皆を納得させた。


今まで、仲間を一人も失う事のない作戦を立て続けて、それを成功させて来た僕の言葉を疑う人なんて誰もいなかった。

僕は今まで築き上げてきた皆からの信頼を利用して、嘘をついたんだ。





幸いにも、僕の犠牲を出さない甘い戦い方は、仲間だけでなく、敵方にも有名だった。


数も力も勝っている事でただでさえ油断して、かつ僕が犠牲を出す戦い方をするとは思ってもみない敵を騙す事なんて、仲間を騙すよりも簡単だ。






敵にも味方にもこんなに僕の力が信頼されていて、それが今回の成功に繋がるなんて大した皮肉だと、思わず自嘲する。









ほぼ100%、この作戦は成功する。
その為に準備もしてきた。
この作戦だけで、皆を何度も騙したし、負担をかけてきたし、迷惑もかけてきた。






それも、明日で終わる。





















「この戦いは重要だ」

クロムの言葉に、僕は大きく頷く。
この戦いにはイーリスの平和な未来が懸かっている。




「俺達で平和なイーリスを築くんだ」




力強いクロムの瞳に思わず身体が震える。
怖いのか嬉しいのか。


僕が知る限り、ずっと戦いに明け暮れていた仲間達が、平和な世界でどんな未来を築くのか。




クロムにも聞きたかった。









「クロムはさー、将来の夢ってある?」
「夢か…。そうだな…」



イーリスの平和が当分の夢だったからな、と笑って、しばらく考えた。



「お前の夢を叶えてやるのが、今の俺の夢だな。お前の夢は何だ?」








僕にとっては予想外の質問だった。
僕の未来なんか明日で途切れてしまうから。




「僕の夢?」
「ああ。お前の夢だ」
「何だろう…」




少し考えるフリをした。
本当は考える必要なんてない。

僕の夢なんてたった一つだけだ。







「僕の夢は…」
「ああ」



















「君と一緒に生きていく事」


























▽▽▽
対ペレジアくらいの気持ちで書いてました。
まぁ、どこでもいいんですが。
色々作戦内容考えてましたが、あんまり詳しく書くと、ただでさえ鬱陶しい文章が更に鬱陶しくなるのでやめました。

自爆作戦上手くいかなかったらどーするんかね、ルフレくん。




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