2011.0509
(2121hit、蠍泥切甘、学パロ)




「卒業生諸君、おめでとう」


舞台上で校長がそう言った時、オイラは何だか悲しくなって目を伏せた。


***

今日は卒業式。
オイラは自分が卒業する訳じゃないのにわざわざ学校に来なきゃいけないこの日があまり好きじゃなかった。
でも今年の卒業式ばかりはそう行かない。何故かと言うと、今年は旦那が晴れて卒業するからだ。オイラは二年、旦那は三年。「いよいよ学校じゃ会えなくなるな」なんて言って笑い合った事もあったけど、実際に卒業証書を舞台上で貰ってる旦那と同学年の先輩達を見ているとなんだか胸に込み上げてくる物があった。あぁ、もうすぐ旦那の番だなって。そう思うと舞台に目を向けてられなくなって、オイラは目線を前に座ってるトモダチの上履きと体育館の床との境目にまで落とした。


「黒節(くろふし)角都」

旦那との高校生活を思い返していたオイラの耳に、聞き慣れた名前が飛び込んできた。そういえば角都も三年だったっけ…。
チラ、と少し離れた席に座ってるオイラの数少ないトモダチ、飛段を見るとアイツにしちゃ珍しくいつも通りのふざけた笑みじゃなくて哀愁漂う笑み浮かべて舞台上の角都を見つめてた。

もう頭文字が「く」の列になった。旦那の頭文字は「紅砂(こうすな)サソリ」の「こ」。後二、三人で出番が来る。
オイラは来るべきその時の為に、ちょっと強めにほっぺを抓った。少し気を許すとキュッて口を結んでしまう。笑顔で旦那を見届けたいんだ…



「紅砂サソリ」

何度も何度も呼んだその名前が体育館一杯に拡がって、舞台上に見慣れた赤い髪がゆっくりとした足取りで上って行くのが見えた。いっつもだらし無く着崩してした制服はちゃんとした正装で、猫背気味だった背筋はピンと伸びて、きびきびと卒業証書を受け取る旦那の姿。
それは凄いかっこよくも見えたけど、もうオイラの知ってる高三の旦那の姿ではないような気がして、必死に繕った笑顔はいつの間にか消えていた。


***

「デイダラちゃーん」

あれから一時間後。
各クラスに戻って、担任の三年になってからの話をたっぷりとレクチャーされた後、解散になった。
もう使わなくなる二年用のロッカーに残っていた勉強道具を鞄に入れていた最中に、飛段がやって来た。いつものふざけた笑顔で。


「あー、飛段」
「デイダラちゃんよォ、この後なんも予定ねぇ?」
「予定ならないぜ、うん」
「なら一緒に帰ろー」
「別にいいけどな、角都は?」
「もっちろんいるに決まってんだろォ。だから誘ったんだよ」


イマイチ最後の言葉の意味が分からなかったけど「早く早く」と飛段が自棄に急かすので、オイラはロッカーの残り物を無理矢理鞄に押し込んで、飛段と一緒に下駄箱に向かった。





「お待たせェ」
「遅いぞお前ら」
「待つのは嫌いだって言ってんだろーが」
「旦那?」

校門の前には角都と旦那がいた。
角都はともかく、旦那がいる事にびっくりして飛段を見たら意味深な笑みで返された。こいつ、確信犯だ。


「さっさと行くぞ」
「あ…、待て角都」

引き止められた角都が「何故」聞くと、旦那が言うに、美術室に作品を忘れてきたらしい。持ち帰らなかった作品は処分されてしまうので、どうしても取りに行きたいと旦那は言った。


「…そういう訳だ」
「仕方ないな。早く行ってこい」
「あぁ。よし行くぞデイダラ」
「は、はぁ?」

突然名前を呼ばれて困惑顔のオイラを余所に、旦那はオイラの制服の袖をぐいぐい引っ張って、半ば無理矢理美術室まで引っ張られていた。

美術室には誰もいなかった。
旦那が奥の方に作品を取りに行ったのでオイラはぶらぶらと美術室を俳諧する。
旦那はこの高校を卒業したらここいらでは一番有名な美大に行く。出来ればオイラも来年そこに行きたい所だけど、今の実力じゃ受かる確率は低い。旦那の作品はそれくらいレベルが高くて完成された物だった。
オイラはとある席の前で足を止めた。あぁ此処だ。此処で旦那はいつもいつも作業をしていた。あの作品達が生まれた場所は此処。でももうこの席で作業をする旦那の事は二度と見れないんだ。

悲しいというより寂しさが込み上げて来て、何となく目頭が熱くなって来た瞬間、「デイダラ」と後ろから旦那の声がした。オイラは慌てて目元を擦ってから振り向く。目の前には小さな一つの人形を抱えた旦那がいた。


「その人形…」

それはオイラがデザインして旦那が形を作った人形だ。所々無茶な設定をしたおかげでなかなか作業が捗らなかったんだっけ。それでもプライドが高い旦那は諦めずにずっと形を作ってた。最近見ないと思ってたけど、いつの間にか完成してたんだな…


「結構前に完成してたんだけどよ。渡すタイミングが掴めなくってな」
「それ…くれるのかい、うん?」
「大方俺がいなくなるって寂しがってんだろ?俺だと思って大事にしろよ」
「なっ!」

カーっと顔が熱くなった。図星だから反論できないというかなんというかそんな事自分で言っちゃう旦那はやっぱり凄いや。
手渡された人形はデザインに忠実で、それに感心して隅から隅まで観察していたオイラの目に、小さくキラリと光る物が映った。
それは人形の手にしっかりと握られていて、「これなに?」と旦那に聞いても「さあ?」とわざとらしく返された。

人形の手を壊さないように慎重に開いて、握られていた物を手に取る。


「これ…」

それは鍵だった。


「やるよ」

掌に乗せた鍵から旦那に視線をずらすと、旦那は少しほっぺを赤くしてそう言った。


「それは俺のアトリエの鍵だ」
「アトリエの…」

何度か旦那のアトリエには行った事がある。そこには作りかけの作品や、数々のコンクールで入賞した作品が沢山置かれていて、オイラから見たら宝の山みたいな場所だった。
旦那にとってもそこは大切な場所みたいで、むやみやたらにオイラをあげてくれたりはしなかった。でもこの鍵は…


「俺は家よりアトリエにいる時間の方が長いんだぜ。だからよ…」

旦那はオイラの目を真っすぐ見つめた。
オイラは自分で目元が濡れて行くのを感じた。


「お前いつでも此処に来いよ。高校卒業したからって一生会えなくなる訳じゃねーんだぜ」
「……」
「お前の事は…ずっと指導してやるよ」





旦那ぁ…!
オイラは嬉しくって、泣き笑いしながら旦那の胸に飛び込んだ。


***

…あの後、散々待たせやがってと憤る角都にオイラと旦那は仲良く頭を小突かれた。それを見てた飛段にも笑われた。
旦那はふて腐れてたけど、オイラはそれすらも嬉しくて笑ってた。



もう一時間前のオイラは何処かに消えたみたいだ。





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遅れてすいませんんん/(^O^)\
切甘難しくて…。
しかもこの季節に卒業ネタとか…。
でも切甘の代名詞といえば
卒業ネタでしょ…え?違う?WW



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