憎しみを消して、ボクを愛して


すぐに私のことが分かってしまう彼が苦手だった。
否、その時の彼をもしかしたら嫌いだったかもしれない。
私が思ったことを彼は平気で口にするし、こう言って欲しいと思ったこともピタリといい当てるのだ。
でも、どうしてか分からないけど彼のことが好きだった。
矛盾した感情をいつも彼と一緒にいるとおこす。
嫌よ嫌よも好きのうち、という言葉があるけど、それは違う。
どちらかというと、愛憎という言葉に近い気がした。



「黒子くん、練習は?」
「今日はお休みです、監督がたまには休んだ方がいいって」


彼は私の顔をみて、にこりと笑う。
いつもジャージ姿の彼が放課後になっても、制服のままだった。
バスケ部で毎日練習が忙しい彼と二人きりになることは難しかった。
だから、せっかくの休みなら、二人でDVDでも見たい。
ずーっと約束してて、見れなかったから今日こそ見たい。


「今日、私の家で一緒にDVD見ない?この間から約束していた、」
「すみません、今日は火神くんと練習をする予定なんです」


彼は、ぺこりと頭を下げた。
私は気にしないで、と胸の前で手を振る。
もともと部活があったと思えばいいだけの話だ。
だけど、胸がきゅるきゅるして苦しくなる。
火神くんに嫉妬している訳じゃないし、第一、火神くんは男だ。
嫉妬する必要なんてない。
嫉妬するほうがおかしいんだ。
なのに、なのに。


「名前さん」
「え、」


不意に名前を呼ばれて、ビクリとカラダを揺らす。
彼は私の顔をじーっと見つめると、小さく口を開く。


「ボク、火神くんに嫉妬しました」
「…は?」
「ボクと一緒にいるのに、貴女は火神くんのことばかり考えている」
「それは、」
「ボクだけを見て下さい」

彼は私の頬に触れる。
彼が触れた場所がじんじん熱くなって、苦しくなった。
彼は私の顔に近づくと、唇に噛み付くようにキスをする。
強く吸われ、彼の口内に唇をいれられてしまう。
でも優しく抱きしめられた。

学校でたくさん人がいるのに、誰も私たちの行動に気がつかない。
こんなに、キスをして抱きしめあっているのに、この場所だけ別世界のようだった。



「ボクも名前だけを見ますから、名前もボクだけを見て?」
「…うん」


彼は唇を外すと満足そうな顔をする。
それは、私が頷いたからかキスが出来たからか、どっちか分からなかった。

それでは、とぺこりと頭を下げると火神くんのもとへ行ってしまった。



憎しみを消してボクをして



一人で家に帰り、DVDのパッケージをみると再び胸がきゅるきゅるする。
私は結局、彼の言葉に対して頷いたことを後悔するはめになったのだ。



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