秘密の片思い
恋してはいけなかった。あの人を好きになってはいけなかったんだ


「涼太くん」


名前を呼ばれて少しだけ体が跳ねた。そんな様子をクスクス笑いながら、その人は近づいてくる


「姉さん!驚かさないでくださいっスよ!」

「あらあら、ごめんなさいね」


クスクス笑う姉さんは綺麗で妖艶だ。姉さんって言っても本当の姉さんじゃない、いとこの、姉さんだ。たまに俺のところに遊びに来てくれるいとこの姉さんが俺は大好きだった。綺麗で優しくて、幼い頃は、姉さんと結婚することが夢だった。まぁ、今もその夢はあんまり変わんねえっスけど…


「今帰りかな?」

「そうっスよー姉さんは?」

「私も仕事帰り。ちょっと久しぶりに涼太くんの顔が見たくて寄っちゃった」


何それ。そんな期待させるようなこと言わないで欲しい。そんな気なんか無いくせに…なんて思っていれば、隣にやってくる姉さんに自然と胸が高鳴った。ああ、俺本当に単純…姉さんが側に来てくれただけでこんなにも満たされるんだから。肺いっぱいに空気を吸い込めば、姉さんの匂いも一緒に吸い込まれていく。甘くて、綺麗な香り…香水とかとは違う何か、その匂いが大好きで、昔よく抱きついてたっけ、なんて淡い記憶を思い出した


「涼太くんさぁ、前々から思ってたけど、私を名前で呼ばなくなったね」


“昔はやんちゃで呼び捨てだったのに”なんて笑う姉さん。呼ばなくなったと言うか、呼べなくなった。呼ぶと意識してしまうってのもあるけど、何より…


「別に良いじゃないっスか!姉さんは姉さんっスよ!」

「はいはい。そーゆーお年頃なのかなー?」

「からかわないで欲しいっス!」


そう言ってわざとっぽくむくれれば、“あはは!”なんて笑いながら姉さんは髪を耳にかけた。その時にきらりと光る指先には指輪。そう、彼女には意中の男性がいる。だから俺も想いを伝えられないし、これから先伝えるつもりもない。それでもやっぱり追っかけてしまう、初恋の相手。最初っから分かっていた、俺には彼女を射止めることは出来ないことを、分かってるくせに今でも心の底で追いかけ続けてる。もちろん俺にだって彼女の1人や2人出来たことだってあるし、伊達にモデルしてないから告白だって日常茶飯事だ。でも、満たされない。姉さんじゃないってだけで満たされない。失礼って分かってるけど、彼女を姉さんと重ねることだってあった。それは両方に対して失礼だし、汚してるって笑ってんのにさ…俺、バカっスね


「涼太くん?」


顔色を覗き込むようにして、姉さんが笑顔で問いかけてくる。その笑顔にはっとして、急いで作り笑顔をした


「涼太くん何かあった?」

「何がっスか?」

「笑えてないよ」

「な、笑ってるっスよ。今幸せっス」


それは本心だった。姉さんが側にいてくれて、その上心配してくれて幸せだった。姉さんは昔から俺の嘘を見破るのが得意だから、他の人には話せない悩みも、姉さんになら話せた。それくらい信頼してるし、何より愛してる


「何でもないなら無理には聞かないよ。じゃあ帰ろうか」


そう言って細い指が俺の指に絡んだ。ああ、本当に幸せ…姉さんが側にいてくれて、笑ってくれて。本当に俺は…


「そうっスね。帰ろう」


“好きだ”と言う言葉を飲み込んだ。こんな気持ち知られたらもう側には居られないから。居てもらえないから…





これは俺だけの秘密







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