おわりとはじまり


ひらり


ひらり





やわらかな風が小さなピンク色を運ぶ。
あの頃は満開だったな、と思い出して少し涙が滲む。

見慣れた、だけど新鮮な後ろ姿を見掛けて声を掛けた。


「おーっす、おはよー」
「おっ、おはよー」


ふわり、振り返ると赤い袂と黒い裾が宙を舞った。


「袴、可愛いね」
「そっちも可愛いぞ。黄色に赤かー」


二人顔を見合わせて笑い合う。
少し隅に移動して何枚か写真を撮った。


「よお、二人とも」


呼ばれて振り返ると再び見慣れた、だけど新鮮な姿を見付ける。


「誰だっけあれ」
「さあ?いこいこ」

「おい待てって!最後までその扱い!?」


焦る姿に思わず二人揃って吹き出す。


「お前がスーツとか…まるでヤのつく自営業」
「ほんとなー」
「うるせーよ」


約束したわけじゃないのに、ただなんとなく三人集まれたのが無性に嬉しかった。


「卒業かあ」
「早いねえ」
「あっという間だったなあ」


ゆっくり、ゆっくり校舎を見渡しながら会場へと向かう。
終わってほしくない気持ちと新しく踏み出したい気持ちとがごちゃ混ぜで。
でもどこか、スッキリした気分だった。


「いやあ、卒業出来てよかった」
「俺とかここにいること事態奇跡だからな」
「まさかお前が受かるとは…誰も思ってなかったわ」


時間が迫る。
私たちのスピードは変わらない。
でも、一歩一歩、近付いていく。


「式だるいなー」
「なんかもう帰りたい。袴も着たし」
「もう満足したのか」


周りの流れに倣って、スタートラインへと並んだ。
厳かに、雅楽が鳴り響く。




「はー終わったー!」
「疲れたー…」
「あー肩こった…」


一通りみんなと写真を撮り終えて、三人並んで帰途につく。
着ていた袴とはさっきお別れしてきた。


「今すっごい呑みたい」
「いやいや、引っ越しあるから」
「呑めないのは惜しいなあ」


最後の帰り道。
これがほんとうに最後。
さっきよりもずっとずっと、ゆっくり進む。
まだ、帰りたくない。


でも、終わりはあるわけで。


「これで最後、かあ」
「そうだねえ」
「色々あったよなあ」


思い出に浸るように、染々と言葉が溢れた。


「それじゃあ、"またね"」
「おう、"またな"」

「うん、"また"…ね」




それぞれ背を向けて、別々の方向に歩き出す。
お互いにどう進むかわからないけど。

"また"会って笑えたのなら、それは幸せなんだと。

おわりとはじまり


今日、わたしたちは、卒業します。
2015.03.23
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