はっきりしてよ 伸ばされた手をするりと躱す。きょとんと浮かべられた間抜け面に絆されそうになるのを堪えて口を開いた。 「お前はずるい」 「…何のことかな」 近付く唇を指で制して瞳を見据える。今日ばかりはこのグリーンに堕とされるわけにはいかないのだ。 「俺はそこまで甘い男じゃないぜ?」 「心外だね、俺は一度もそんなふうに思ったことはないよ」 「へえ?ならこの手はなんだろうな」 脇腹を這う手を取りあげてみればへらっと千石は笑った。 「シたいんでしょ?」 「そのオレンジ頭と一緒にしてもらっちゃ困る」 「ひどいなあ」 ああ、曖昧な表情が憎たらしい。 「なあ千石」 「何かな跡部くん」 「フェアじゃねえと思わねえか?」 「君がさっきから何を言いたいのか、わからないね」 「お前の気持ちはどこにある」 「いやだなあ、ここにちゃんとあるじゃないか」 自分と俺の胸を指差して、ね?と首を傾げた。他の女は納得しても俺は納得なんてしてやらねえ。安っぽい女と同じにすんなよ。 「俺はまだ一度もきいたことがないんだが」 「何を」 「てめえの口から」 いつだって思わせ振りに名前を呼んでキスして抱いて。そうして逃げてばかりなのだ。この男は。俺ばかり振り回されている状態がムカつく。 「言わなくてもわかるでしょ?」 「わからねえからきいている」 両手で顔を挟み込む。逃げることなんて許さねえ。 「跡部くん、許してよ」 「いやだ」 ほら、さっさと吐いちまえ。焦るような瞳の色に、少しずつ朱に染まる頬に、俺が負ける前に。 はっきりしてよ お前のものに、なりたいんだ。 2016.03.14 戻る |