今日も、これからも


今朝、妹におめでとうと言われ、初めて今日が自分の誕生日だということに気付いた。


少しずつ暖かくなっていくけどまだ寒さの残る時期。学校指定のマフラーへと顔を埋めて学校に向かう。
そうか、誕生日か。気にしてなかった、なんて。まだまだ中三だと思っていたけど、卒業へと近付いていることを自覚する。


「早いなあ」


ぽつりと呟いた言葉は白い息と共に空気に溶けた。

必死で駆け抜けたあの夏。俺はあの日、あの少年に負け、テニスが楽しいということを思い出させられた。ただ、常勝を、勝利だけを目指していた俺に、敗北の二文字は大きかった。
そのあとの合宿も色々あったなあ。そういえば、真田とも対戦したっけ。

ぼんやりとそんなことを思い出しながら歩いていれば、目の前はもう学校だった。
様子を見ていこうかな、とテニスコートへと向かう。赤也はちゃんとやっているだろうか。


コートへと来てみれば後輩たちは真面目に朝練に取り組んでいるようだ。あ!と聞き慣れた声がして、視線を向ければ新しい部長がこちらに駆け寄ってきた。


「幸村ぶちょー!」
「赤也、俺はもう部長じゃないよ」


相変わらずな後輩に思わず笑みが溢れる。ああでも、遅刻常習犯だった赤也がちゃんと来ていて、成長しているんだなと感じた。


「部活はどうだい、切原部長?」
「う、その呼び方は止めてくださいっスよ…他のヤツならまだしも、幸村部長に呼ばれると…なんか変な感じっス…」
「あはは、でも事実じゃないか」


うぐ、と言葉を詰まらせる赤也。やっぱり一番からかい甲斐がある。
あまり話していては練習の邪魔になると校舎へ向かおうとすると待ってください、と引き止められる。


「幸村部長、誕生日おめでとうっス!」


プレゼントは昼休み辺りに渡しに行くっスよ!なんて無邪気に笑う後輩に、なんだか嬉しいような照れ臭いような、そんな気分になって。ありがとう、そう言って笑えば倍になって返ってきた。

あったかいなあ。




教室に入れば、クラスメイトに次々におめでとうと言われる。プレゼントを渡されたりもした。みんなにありがとうと告げて席に着く。

誕生日ってこんなに特別な日だったかなあ。手元にあるプレゼントたちを眺めて自然と頬が緩む。


休み時間。やっぱり俺の席の周りは騒がしくなった。


「幸村くん、ハッピーバスデー!これ、俺からのプレゼントな!」
「おめでとさん、これは俺からじゃき」
「ありがとう、丸井、仁王」


早速やってきたのはこういうイベントが好きそうなこの二人。予想通りのことに笑みが溢れる。二人からもらったものを大事に鞄に仕舞って再度お礼を告げれば、二人も嬉しそうに笑った。


その次にやってきたのは柳生とジャッカルだった。


「お誕生日おめでとうございます、幸村くん」
「おめでとう、幸村!」
「ありがとう」


差し出されたプレゼントを受け取って同じように仕舞い込む。少しずつ増えていくそれになんだか心もあったかくなっていって。ありがとう、もう一度告げれば照れたような笑みが返ってきた。


朝の宣言通り、教室へとやってきた赤也。


「部長、改めておめでとうございますっス!」
「うん、ありがとう」


また一つ仕舞い込む。増えていく大事な大事な宝物。嬉しいなあ。幸せだなあ。自然と緩くなる頬に赤也が嬉しそうにしていた。


「幸村!」
「精市、一緒に帰ろう」
「うん、そうだね」


放課後。迎えに来てくれた柳と真田と三人で並んで帰る。そういえば、一年の頃からこうして三人で歩いて帰ってたな、ふと思い出して目を細める。ずっとずっと、テニスの話をしてたっけ。


「どうした、幸村」
「なんだか楽しそうだな」
「ふふ、昔を思い出してね」


高校になっても、またこうやって話せるだろうか。楽しいんだ、今が。過ぎ去ってほしくないと思えるくらいに。


「精市、誕生日おめでとう」
「幸村、おめでとう」
「ありがとう…柳、真田」


二人から差し出されたプレゼントを大事に受け取る。鞄の中に仕舞い込むのが今はなんだかこわくて、そっと抱き締めた。


「幸村…来年は絶対に優勝するぞ」
「ああ、次こそ立海が勝つ。どこにも負けないさ」


だからこれからもよろしく、と言った二人に思わず涙が溢れて。慌てる真田と背中を擦ってくれる柳がなんだかおかしくて嬉しくてあったかくて、幸せで。



「ありがとう、こちらこそよろしく頼む」


今日も、これからも



ありがとう、ありがとう、これからも、よろしく。

2015.03.06
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