気付いたときには 「好きだ」 隣から発せられた言葉にぴたりと静止した。言葉を飲み込んで、噛み砕いて、処理するまで時間がかかった。冗談かと思って茶化そうと横を見れば、まるで試合中に見せるような真剣な表情を浮かべていて。何も言い出せなくなって口を閉じた。 「千石」 結局、先に言葉を発したのは、跡部くんの方だった。情けない。 「別に今すぐ返事が欲しいわけじゃない」 「あとべく」 「言っておきたかった。それだけだ」 柔らかく表情が崩れて、ふと彼が笑う。そこに悲壮感だとか哀しい感情は見えない。どっちかと言うと、すっきりした、と言った方が正しいかもしれない。 「気持ち悪いとは、言わないんだな」 「え」 「二度と近付くなくらいは言われると覚悟はしていたんだが」 言われて気付いた。どうして俺、否定の言葉とか一切出てこないんだろう。わかんない。ぐるぐる、彼曰く足りない頭は上手く働いてくれない。 「まあ、少なからず期待はしてもいいってことか」 「え?」 「なんでもねえよ」 跡部くんが何か言ったみたいだけれど、聞き取れなくて。なんでもないって言うから大したことじゃないのかもしれないけど。 「ほんと、お前といると飽きないな」 「え、ちょ、それどういうこと」 「大好きだってこと」 不意打ちで言われて、また何も言えなくなる。ああもうそんなに笑わなくったっていいじゃないか、跡部くんのばか! 「気が変わった」 「何が」 「堕としてやるから覚悟しとけ」 「うええ?!!」 さっき伝えたかっただけみたいなこと言ってなかったっけ?あれ?! 「あああああ跡部くんんん?!」 「お前以外と可愛いとこあるんだな」 そう言って笑った顔の方が可愛いとかちょっと思ってしまった。完全に跡部くんのペースに飲まれてる。なんだこれ、女の子じゃないのにときめいてるの、俺?ああもう、これもしかして。 「あ、あとべくん」 「あーん?」 「えっと、その…な、なるべくお手柔らかに」 「やっぱお前面白いな」 気付いたときには 君に堕ちてたりなんて。 「そうだな、早速デートにでも行くか」 「で、デート?!」 「好きなとこ連れてってやるぜ?」 「君って突拍子もないけど男前だよね!!」 2016.02.05 戻る |